第15話 冷房が壊れたのでお出かけですが、なにか?

「暑い……」


 いつもはクーラーの効いたしどー君の家。

 今は全然そんなことはない。

 壊れてしまったのだ、クーラーが全部。

 テレビでは今日は特に猛暑日だと言っていたのにだ。

 そんな日にメイド服着てたら倒れると下着姿の私。


「はしたないからせめて制服かシャツにしろと……」

「ぶー、マジメガネー」


 ズボンにシャツの制服のマジメガネのしどー君に言われ、制服に着替える私。

 そんな間にしどー君は業者に連絡していたようだが、


「……明日に来るってさ、業者」

「倒れるわよ、それ」


 家の中ではメガネをかけることがあるしどー君のマジメ顔も汗だくだ。

 横浜市内の夏は暑い。

 特にタワマンである士道家はこんがりやかれ、なおかつ窓やドアを開けると夏風が吹き込んできて書類が散々な目にあう。

 さておき、


「スクール水着来て、水張ったお風呂に浸かり続けるのもなぁ……」


 ふやけてしまう。

 あまり長時間入ると体にも美容に悪い。

 とはいえ、汗だくだくで水着プレイする気にもなれない。

 それぐらいに京都の夏はつらいのだ。

 頭の中がボーっとする。


「ほら、ちゃんと水分とるんだ」

「ありがと」


 っと、しどー君がヒンヤリとしたポカリを渡してくる。

 一気に飲むと少し、思考がシャキッとする。

 いつもはコーラだが、こういう時はポカリでもいいかもしれないと思えた。


「しどー君、流石に今日ここに居たら死ぬわよ」

「心頭滅却すれば……」

「汗ビショビショで言われても笑えない冗談にしか聞こえないわ」

「僕も正直、ムリだと思ってたとこだ」


 バタッと二人でリビングテーブルに突っ伏す。

 テーブルのガラスが冷たく感じるぐらいには暑い。


「両親の家に行くのもありかなぁ。

 今日は休みの筈」

「やだ……っていうか一日往復で終わるわよ、京都行きとか」


 却下だ。

 それに彼の家に行くならちゃんとした形で行きたい。

 私を雇うことを許してくれたクライアント様だ。

 何というか、ビッチな過去を知られているので、初対面ぐらいはいいイメージにしたい。


「私の家に来るのは?」

「スーツで行くが?」

「マジメガネすぎる……」


 却下だ。

 パパママはどうにかするが、しどー君のマジメさが加わったら何が起きるか判らない。しかもあざみ野駅行きだ。遠い。


「別にちゃんと挨拶ぐらいしないとはなと思ってて」

「はいはい」

 

 予想通り、私と同じだった。


「そしたらラブホいかない?」

「ラブホって……!」


 真っ赤になって立ち上がるしどー君。

 とはいえ、説得だ。

 夏の暑さで倒れたくないし、しどー君に倒れられても困る。


「最近のはゲームやシアター完備してたり、結構すごいわけよ。

 勉強よ、勉強、社会勉強。

 とりあえず、そこでなくても良いから、出掛けようよ。

 あつい、死ぬ」

「外出は賛成」


 しかし、夏の日差しがとんでもなく熱い。

 部屋の中は耐えれる程度だったが、ムリ。

 すぐさま二人でマルイの中に飛び込む。


「あついわね……」

「あついなぁ……。

 僕なんかは横浜育ちだが、最近は特に暑い気がする

 地球温暖化の影響かもしれない」


 ビルの中はまだ空調が効いていて楽だ。


「生き返る……」

「だなぁ……」

 

 シミジミと文明の利器のありがたみを感じる。


「とりあえず、ご飯にするか?」

「無理ー、まだ入らないー」


 ちょっと夏バテ気味かもしれない。お腹の調子が悪い。


「でも、しどー君のなら……」

「はいはい」


 下ネタジョークをいうと、しどー君が渋い顔をする。

 とはいえ、どうしたものか。

 ラブホか? ラブホ行ってしまうか? 最初からクライマックスしちゃうか?

 ふと、水着販売の告知が眼につく。


「そうだ夏と言えば、水着よね。みてこうよ!」

「ちょ、マテ、初音さん!」


 っと、腕を引っ張りこんだのは女性水着エリア。

 元マジメガネのしどー君なわけでして、彼の顔はトマトの様に赤くなるばかりだ。

 回りの女性からの視線に耐え切れないという様子で、ニヤニヤしてしまう。

 私は基本、意地悪をしたくなってしまうタイプなのだ。


「うーん、どっちがいい?」


 っと、見せるは可憐なワンピース型とビキニ型だ。

 色は両方、赤色だ。

 情熱である。


「というか、どっちでエロいことしたい?」

「ちょ、おまっ!」

「よく考えてみなさいな、私がこういうのを買ったら、当然、やることはやるわけよ? ビッチだし」


 ド直球な質問にしどー君が戸惑う。

 エロいことと言っても風呂に乱入して背中を流したり、表(下込み)を流したりするだけだが。

 そんな彼に追い打ちしよう、そうしようとエス気が湧いてくる。


「それとも両方買って、興奮度でも計ろうか?」


 彼がうつむいてしまう。

 全くBまでは(私が一方的に)終わらせている関係だというのに、初心よのう。


「どっちでも良いとか言う答えは最悪よ?

 それってちゃんと考えてないってことだから」


 言いそうだったので、先回りしておく。

 まだまだ異性経験なら私がアドバンテージを持っているのだ。


「……そっちで」


 と指さしてくるのはビキニである。

 いつも結構、大胆な選択肢するよね、しどー君。


「んじゃ、試着するから……」


 私は意地悪な笑みを意図的に浮かべ、


「一緒に入る? 試着室」

「初音さん!」


 流石に顔を真っ赤にして怒られたので、一人で入る。

 そして上半身、下半身と共に装着し……ちょっと思った以上に下のラインが際どい。

 今は試着用の肌色の下着を着ているとはいえ、ちょっとまずい。

 下の毛は処理しているモノの、少し気を付けた方がいいかもしれない。

 パレオが必要かもしれないと脳内にとどめておき、もしも縁があれば一緒に買うことにする。

 ともあれ、しどー君に見せるだけだ、今は。


「しどー君、いるー?」

「あぁ、ここにいる」

「じゃぁ、じゃん!」


 ビッチは度胸である。

 カーテンをパシッと開けて、目の前にいるしどー君へとオープンしてやる。


「……っ!」

「何か言いなさいよぉ……恥ずかしくなってくるじゃない……」

「いや、何というか太もものラインが凄く艶めかしいし、ちょっと見えてないか、それ」


 デリカシーのかけらもないマジメガネである。

 ピシャン。私は流石に言われ、カーテンを閉める。

 頬が赤くなっているのが判る。

 カーテン越しに、


「しどー君。

 どうだった?」

「後ろを見てないからあれだが。……凄くセクシャルな要求をされている気がして、ちょっと落ち着かない」

「じゃあ、家用に買うわ、裸よりはマシでしょ? ふふふ」


 そう言われたら買わざる得ない。

 頭が固いしどー君のそういった性的な感情を示すのは珍しいからだ。


「というか、今日使うから覚悟しておいて、しどー君。

 お風呂襲うから」

「勘弁してくれ……風呂に入ってくるのは……」

「やーだ♡

 これぐらいは許してよ、いいことしてあげてるんだから、喜ばなきゃ損よ」

「……っ」


 彼はうつむいて真っ赤になっている。

 さておき、


「結局、二着とも買っちゃった。パレオも」

「僕がお代を出すと言ったのに」

「いいのいいの、私のモノだし」


 ほくほくと今日からしどー君いじめのバリエーションが増えたので楽しくなってきている私が居る。

 そんなこんなで日が下って来たので西口方面に出る私達。

 色々な人々が歩き、交差している、横浜駅前の繁華街だ。

 ふと、カラオケの看板が目につく。


「そんじゃ、カラオケいこ、カラオケ」

「なんだ、それは?」


 おっと、予想外の回答が来た。

 確かにカラオケなんて縁がない人にはとことん縁がない場所だが、単語ぐらいは知っているようなもんだ。


「オタク仲間で歌ったりしないの? アニソン」

「横浜にはそういう友達がいないからな」


 とりあえず、しどー君の手を引き、青い看板のカラオケボックスへ。

 密室に二人きりになるが、クーラーがガンガン効いていて涼しい。

 とりあえず、私の分をコーラ、しどー君の分のウーロン茶で頼む。


「ここは、歌を歌う場所よ。

 基本的には」


 なお、密室であることをいいことに如何わしいことも行われる空間でもある。

 ただし、覗き口がガラスになっているので、注意が必要な訳だが、いま犯るきはない。というか、基本的に私のセクハラは家が中心だ。


「この機械に番号を入れるとねー。

 こんな感じで曲が流れるのよ」


 最近、しどー君とぶらぶらしたいため、横浜市内の友達とは会うことは減っており、カラオケも久しぶりである。

 声の調子を合わせながら流行りの曲を歌っていく。


「そして、点数が出るわけ『九十二点』、まぁまぁね」

「なるほど」


 っと、彼が悪戦苦闘しながら番号を入れる。

 そして流れてきたのは君が代で、


「ドン引きするわよ、私以外はきっと……」


 百点というのもドン引き要素である。

 全くもってマジメガネである。

 今はメガネしてないが。


「流行りの曲知ってるの無いの? この際、昔懐かしいアニソンでもいいわけだけど……アン〇ンマンとか」

「民謡とか童謡しか知らないわけだが……アニソンなんかアニメに出てこない二周目を唄えないんだ」


 予想を超えてきたマジメガネ具合である。

 親の教育が悪い気がする。会ったことないが。


「仕方ないわね、私がいくつか流行りの曲を歌うから、それを真似してね?」

「判った」


 しどー君、歌自体は上手い。しかしながら、何ともなれない様子で何度も繰り返し歌詞を覚えさせることになった。

 いつもとは勉強する立場が逆転し、楽しい時間を過ごせた。

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