第6話 教室での私たちですが、なにか?

「スカートが規定違反だ。

 短すぎる」


 大きな校門前。

 何の侮辱だろうか、女子風紀委員達にスカート下のセンチメートルをメジャーで測られるというのは。今時の学校ではありえない厳しさである。

 そして私を連行していくマジメガネに目線を向けこっそりと言う。


「あの写真バラまくわよ……」

「別にいいぞ。

 それぐらいで揺らぐような信頼ではないし」


 予想通り効かないので、面談室行き。

 そして女子風紀委員達に用意されていたジャージに着替えさせられると、クラスへ行けと放り出される。

 罰として、一日、体操服である。

 進学校なのに、体育会系の罰な気がするし、前時代的である。

 歴史だけはあるのでこういう所は昔ながらのやり方なのだろう。


「はつねん、またマジメガネにやられたの?」「初音じゃなきゃ、ジャージ姿も似合わないからいいんじゃない? というかジャージじゃない初音みたこと始業式しかないしー」「そうそう、逆に初音らしくてありよりのありじゃね?」


 と、クラスメートのクラスカースト上位の連中に迎えられる。

 ただ、理不尽なことに、


「なんでアンタらはひかかってないんじゃい!」


 私以外は普通に基準通りの制服だった。理不尽である。


「だってマジメガネがウザいんだもん。ファッションより、精神の安定を重視したの」「そーそー。マジうざー」「マジメガネ、マジファック」


 風紀委員達……というか、マジメガネに根負けしたらしい。

 何というか、敗北感を覚える。


「ネイルも足だけならバレないから言われないしー」「そうそう、バレない様にこっそりお洒落を楽しむのが今の流行り」「バレなきゃいいのよバレなきゃ」


 と話していると、


「今、ネイルが何とかって聞こえたんだが……」


 丁度入って来た、マジメガネとその相方の女子風紀員の生徒。


「頼む」

「了解」


 女子風紀委員にうながし上履きと靴下を脱がされる生贄が一名。さすがにマジメガネが脱がすのはセクハラだ。


「君の迅速な仕事はいつも好ましいね」

「えへへ……」


 褒められた女子風紀委員がメガネの下に微笑みと頬に赤味を浮かべている。私たちはダシか何かか。

 とはいえ、マジメガネは脱がされた足先を見て、赤面一つせず、


「却下だ却下。

 委員長、ちょっと風紀委員二人とこの子、三人でHR退席するがいいか?

 着け爪を剝がしてくる」

「勿論、いいとも。職責を全うしたまえ」


 マジメガネに襟首を掴まれてズルズルズルと引きずられていくのが出荷される豚を思わせる。


「なむー」「デビルイヤーか奴は」


 担任の先生が来てホームルームが始まり、終わったところで戻ってくる三人。

 こんな感じのやりとりがクラスの日常と化しているし、昨日、あんなことがあったのに変わらずの日常である。

 それはさておき、数学の授業。寝そうである。


「マジメガネは本当に通報していないのね……」


 眠気晴らしと窓側の隣の席を見る。真面目に数学の授業内容を書き写しているマジメガネが居た。

 らしくないといえば、らしくない。

 とはいえ、二言が無いという意味ではらしいといえば、らしい。なんせ彼はマジメガネ。クラスメート全員の認識一致で真面目なのだ。


「……何だか拍子抜けしちゃったなぁ」


 今日、朝に起きると風紀委員の仕事があるために先に出たマジメガネのメモだけがリビングにあった。


『自動ロックだから、そのまま出ていい。

 あと、シャワーや冷蔵庫の中身は自由にしていい。

 真面目に登校するように頼む』


 私は朝シャワーとヨーグルトを頂き、スカート丈を短く履き、出発。

 冷蔵庫の中身がヨーグルトとプロテインドリンク、あとハウスキーパーさんが作ったであろう作り置きが数個という有り様にはドン引きしたが。

 朝捕まった時は昨日の件、パパ活……というか援助交際がばれた件も含めて問われる覚悟も決まっていたが、まったく無かった。ある意味で予想通りであり、そして覚悟損であった。

 マジメガネの様子を見る限り、スカート丈という要因にロジックに沿った機械的な考えをしているだけにしか見えなかった。もしこれで放課後に呼び出しなどがあったら、私の人の見る目がないことになるが、ただ幾十人もの男をパパ活で見てきた目が間違う筈がない。


「写真が効いてるわけでも無さそうなんだけどなぁ……」

 

 マジメガネにメリットが無いのだ。

 職責を忠実にするのなら、通報が当たり前だ。

 未遂だから通報しないと言っていたが、よくよく考えれば町田勢は未遂でも現行犯で捕まっている先輩がいる。規定を読み込んだわけではないが犯罪の抑止という意味ではそれが当然だろう。

 私が退学や休学にすると不味い理由がある?

 ナイナイ。

 思い当たらない。


「……まさか、私に惚れてる?」


 ナイナイ。

 そもそも接点が無いし、私がオタクに優しいギャルのムーブをしたこともない。

 おじさん達にはアニメやゲーム好きな人も結構いるのである程度の知識はあるが、クラスでカーストを下げるような真似をすることは無い。


「いや、マジメガネとは接点無いわけでもないか」


 ほぼ毎朝に捕まってる。

 それで私の色気に気付いた?

 あり得なくはなくなくない?

 基本的に天然茶髪のツインテール美少女だし、私。


「……あんた、私に惚れたの?」

「ぶっ」


 とりあえずの確認だ。

 いきなり過ぎた問いにむせるマジメガネ。

 そしてゴホンゴホンとハンカチでむせるのを塞ぐのがマジメガネらしいといえば、マジメガネらしい。


「士道、どうした?」

「な、なんでもありません」


 数学の先生から問われ、何でもありませんと答える士道君は顔を恥ずかしさのあまり真っ赤にしていた。

 一泡吹かせてやった。やったぜ。

 とはいえ、


「さすがに無いか」


 結論付けて、退屈な数学な授業を受ける。

 ノートをとるのは先生が重要と言ったところだけだ。

 テストで赤点だけは回避しなければならない。

 赤点を取ると、夏休みが潰れる講座を受けなければならないのだ。

 夏休みと言えば、稼ぎ時だ。

 一日で五万円を稼げる可能性だってある。

 そんな儲け日を不意にすることは許されない。

 それに友達と遊びに行くことも夏休みは重要だ。

 フェスに、花火に、遊園地に、カラオケに……エトセトラエトセトラ、高校生の夏は勉強などに取られるのはもったいない。

 もしかしたら彼氏が出来て、一緒に遊びに行くかもしれない。

 想像は出来ないが、カッコいい彼氏が出来て処女を卒業……なんて、甘い夢は見ないが、


「彼氏自体は作ってみたいと思うわよね、ぐへへへ」


 だってどんなモノか判らないからだ。

 楽しいのだろうか、ワクワクするのだろうか。

 想像出来ないことを想像するだけで、数学の授業は終わっていった。

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