第22話 慰めてあげますが、なにか?

「よし、赤点はやっぱり回避してた!

 で、平均点は……」


 放課後、張り出された一覧を下から見ていき、赤点のラインまでに私はいなかった。

 で、何処にいたかというと、


「って、真ん中よりだいぶ上⁈

 え、マジで?」


 張り出された自分の順位を観て叫んだ!

 予定していた平均点を余裕で越え、七割よりも上に行けた。

 全くもってしどー君様様である。

 そんな彼はどうかとみると……一筋の雫が垂れていた。

 そして人知れずにどこかへと足を向けていく。


「あ……」


 上からテストの順位を観る。

 一位、委員長とその妹。三位、お嬢と順にみていく……五位でようやく士道と苗字があった。

 私はしどー君を毎日見ている。

 あんなに勉強していたのに勝てなかったのだ。


「そりゃくやしいよねー……」


 ふと自分の妹に被った。

 別々に見に行ったのもあるが、受験結果の日、家に帰ると妹は泣いていた。

 世界を呪いながら勉強に使っていたノートを破っていた。

 妹はパパとママのおかげや自身の力で持ち直した。だが私はそんな妹に、何もしてあげられなかった。

 私の中で大きくしこりが残った。


「しどー君は誰もいないよね、助けてくれる人……。

 よし!」


 善は急げ。

 私は彼を追って走り出した。


「くそくそくそ!」


 いつもはそんな暴言を吐かないマジメガネの彼は校舎の裏で壁を叩いていた。今は眼鏡をしていないけれども。

 さておき、鈍いコンクリートの音が校舎裏に響いている。

 そのしどー君の手はすでに赤く腫れていて、


「しどー君、痛いだけよ-、それ」

「初音さん……!」


 気付けば彼の腕をつかんで止めていた。

 彼は私を見て、すまなそうに言う。


「ありがとう……」

「私のせいだって言わないの?」


 慰めるような声で、彼の手を優しく包み込みながら、


「私の勉強なんか見てなければ、もっといい点数を取れたんじゃないの?

 それこそ委員長を抜けるような。

 いや、あれ満点だから同点にしか成らないけど」


 そう言われる覚悟をしていた言葉を口にする私。

 なじられるぐらいでしどー君の愚行を止められるなら喜んでなじられてやろうと思ったからだ。

 

「逆だ」

「……逆?」


 よく判らないぞと、疑問を浮かべる。


「ケアレスミスを何問かしている。

 それが悔しくて、悔しくて!」

「あー、順位がダメだったからじゃないのね?

 それは安心した」

「そりゃそうだ、自分の結果は自分の責任だからね。

 自分が許せないだけだ」


 そしてもう一回、壁を叩こうとするので手に全身でしがみついてやった。


「やめなよ、自虐行為は」


 友人との会話やクラスカーストの為に、処女を売ろうとした私に言われるのは滑稽かもしれない。それでも、そう言っておきたかった。


「見ているだけで痛いよ……いつか、自分を大切にした方がいいって言ってたのはしどー君だよ?

 そのしどー君がそれを破っててどうするの?」

「それは……すまない。

 テスト前、緊張で寝つけなかったんだ。

 いつもそうだ、大切なことがある前は、いつもいつも。

 初音さんの言う通り、テストの前にも言われた通り、精神を落ち着けなきゃいけなかったのに……!」


 はぁ、全くこの人はマジメガネすぎる。

 と、彼がもう一回自分の拳を叩きつけようとした。

 だから今度は、顔を私の大きなふくらみに押し付けてやった。

 校舎内では初めてだ。

 誰かに見られるかもと思ったが、みていられなくなったのだ。


「難しく考えすぎ。

 今は私の柔らかさにゆだねてみ?」

「あ……」


 それだけ言ってやるとしばらく抵抗が見えたが、すぐ落ち着いて黙って体を預けてくれる。

 すすり泣きも始めてくれちゃったので、とりあえず、背中をさすってあげる。

 母性? をくすぐられたのかもしれない。

 私が何とかしてあげたくなり、心がキュッと締め付けられたのだ。


「落ち着いた?」

「ありがとう……」

「少しは甘えてもいいんだよー?

 全く、ホントにマジメガネなんだから。

 もっと楽しみなよ?」

「もういいから、大丈夫だから!」


 顔を真っ赤にする彼に苦笑が漏れる。

 今更過ぎる。


「それにあれは委員長の術中にも嵌められたんだって。

 言ったでしょ、脅威に思ってるからプレッシャーを掛けに来たと。

 実際、それが成功しているのを見るとすごくムカつくけどね」

「……確かに、ムカついてきたな」


 そう言いあうと二人で、どちらからともなく笑みがこぼれた。


「あ、すまない。

 びしょびしょにしてしまって」


 言われ気付けば、制服の上着が涙と鼻水でびしょびしょだ。

 気にしなくてもいいのにねー、と脱ぎつつ言ってやる。

 こりゃ、ダメだ。

 後でジャージを取ってきてもらおう。

 幸い、放課後だ。


「いいのいいの。

 私がしたくてしたんだから。

 後で洗濯はさせてもらうけど」

「だが……」

「い・い・の!」


 これぐらいはっきり言ってやってようやく黙ってくれる。

 全く。

 とはいえ、良いことを思いついた。


「代わりと言っては何だけど、土曜暇でしょ?

 遊びに付き合って頂戴な」

「それってデートってやつでは……」


 流石にマジメガネでも気付くか。


「そうよ?

 この前した買い物もデートっちゃデートみたいなものだし色々してあげてるけど、女の子に慣れるならデートぐらい慣れないとねー、テストのお礼よ」


 意地悪い笑みを浮かべて、彼を上目遣いで見てやる。

 彼の顔が真っ赤になったので、私の心は嬉しくなった。

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