第33話 またポスターですが、なにか?
さて学校の夏休みも近くなる中、月曜日、新聞部が頑張ってポスターを張り替えている。
大変なモノだなーと思いつつ、観れば、
『風紀委員の士道、ビッチ初音と熱愛か⁈
風紀委員の風紀が問われる?!』
と校舎裏の写真も添えて、投稿されていた。私の顔にもモンタージュは今回なかった。
「「ぶっ」」
私としどー君は吹き出してしまった、事実有根だからだ。
学校で我慢できなかった私達が悪いのは確かなのだが、どこから取られたのだろうか。
射角から観るに……屋上かな?
「甘かったわねぇ」
「甘かったなぁ」
しどー君と見つめ合い、手を取りあう。
廊下。余裕がある私たちのやりとりに周りの視線が奇異なモノになっているのは気づくがどうでもいい。
堂々としてこそビッチである。
マジメガネ(今はメガネはしていないが)ももう先日の事で覚悟完了済みだ。
一々、こんなことで動揺する訳もない。
クラスにつく。
「おはよー」
声を掛けると、皆が驚いたように私達を観てくる。
それもその筈だろう、あんな素っ破抜きがあったというのに堂々と手を繋いで現れたからだ。
いや、委員長とお嬢だけは、うんうん、と頷いているので何となく気配を察知しているのであろう。お互い似た境遇だ。
「あの初音さん、いや士道に聞いた方が良いか、あのポスターは本当?」
「あぁ、本当だ」
男子の一人が聞くとクラスがわっと湧く。
その反応が楽しいと思えるほど私には余裕がある。
だってプロポーズされたし、親にもあいさつしたし……うん。
しどー君の親には京都にいる都合上、まだ会えていないが、了承は貰ったらしい。
「不純異性交遊ですよ! この前の謹慎も含めたら初音さんは退学、よくて休学。士道さんは休学あるいは停学モノですよ!」
と人を指さしながら言うのは、しどー君の相方だった風紀委員、普通の背格好でお洒落をせず、ぐるぐるメガネをした黒髪の女の子だ。
それに伴い、
「そうだそうだ」「風紀委員が何をやってんだ」「マジメガネの癖に……」「初音とマジメガネは周知だけど、私だってしたいの我慢しているのに」「あんた彼氏いたんか」
とカオス状態に陥るが、ポンっと、委員長が手を叩くだけで皆が静かになる。
「思い込みは良く無いなぁ。
それに今、皆がやっているのは虐めと一緒だ。
僕は虐めが大嫌いだ、皆が知っての通り。
言い分を聞こうじゃないか、先ずは」
「そうですわね、ねぇ、皆さん」
委員長の提案にお嬢も乗るので、女子生徒達も黙らざる得ない。
「不純じゃないからだ」
「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」
しどー君の端的な答えに皆が戸惑う。確かにそうなのだが、
「しどー君、言葉が足りてないよ」
「ん? そうかな、プロポーズをして、親に挨拶したことを簡潔に言っただけだが。委員長達の前例もあったし」
「もう、ばかぁ……そこまで詳しく言わなくても……」
しどー君の背中をバンバンと叩いてしまう。照れるなあ、もう。
「それで、なにか問題あるか?
委員長と同じ状態ということだ」
「あります!」
すぐさま食いついてきたのは風紀委員の少女だ。
「それを証明する手立てがなく、口だけでクラスメートを誤魔化そうとしてるんじゃないんですか?!」
「僕が嘘をついていると?」
風紀委員同士が睨みあう。
「はい! 今までの信用、信頼を利用した詭弁で煙にまこうとしているしかみえません! 学校に申請していないようにもみえますし!」
痛いところをついてくるな、としどー君が苦い笑みを浮かべる。
「その申請は今日、放課後にやる予定だったんだ」
「それも嘘ですよね!」
違和感を覚える物言いだが、
「僕は嘘をついていないし、つくことはほぼない」
対してしどー君は堂々と胸を張る。カッコいい。
というか、しどー君が嘘をついているのをみたことが無い。
「だってまだ学校の許可を取ってないのに、あんな写真はられるだなんて、校則違反ですよ!」
「あんなものは合成でも作ることは可能だし、現場をおさえなければ風紀は実行出来ない決まりだよね?
合成にしろ、そうでないにしろ、風紀委員の取り調べだけでは罪を遡及しない。遡及の必要があれば、証拠とともに先ず教師会議にかける。風紀委員の手帳にも書いてあったはずだけど?」
「……確かに」
流石、マジメガネ。同僚にも容赦の無い理詰めを、手帳の確認もすることなく言い張る。
「それにだ、風紀を乱すとはなんだい?」
ここで私が昔、問うた質問を使うか。
「……大衆に示しがつかない行動をとることです。例えば、あのキスなんかは観ているだけで欲望の吐き出しあいで、公共の場に相応しくない!」
「公共の場? 裏庭で誰も居なかったのは確認していたが? 屋上からの写真は逆にプライベートの侵害だ」
「プライベートって、そもそもいうんですか?! 裏庭のことも?!」
「そうだ。少なくともした時はだ。場所も時によってはプライベートだし、人がいればパブリックにもなると僕は解釈している」
「その考えは風紀委員手帳に乗ってません!」
「乗ってなければ、僕の考えを否定することも出来ない。もし風紀委員としての資格を問われるならそれぐらい捨ててやる」
しどー君が風紀委員の腕章を机の上に差し出す。さすがに驚いたのか委員長が口笛をふき茶化す。
「委員長としていいかね、そろそろまとねば先生が来るのでね。クラスの揉め事に対する仲裁権を発動させてもらう」
「どうぞ」
しどー君は即答。
「……どうぞ」
風紀委員の娘もしばしばという形で同意する。
「結論から言おう、士道が正しい。
たしかに論拠や順序は怪しいが、今回の騒動のそもそものソースが新聞部の記事によるまた聞きだ。
それが何故、正しいと言えるのかね?」
「それは……なんでもありません」
委員長ではなく、お嬢でもなく、委員長の妹ちゃんは紅い眼で彼女に微笑み掛けながら言う。
「今、私が盗撮しましたなんて言おうとしなかった?」
それに対し、射貫かれた兎のように跳び跳ねる風紀委員の娘。
「さすがに想像がすぎる。とりあえず、今、事実だと確認しても意味がないことだし、士道のいう通り遡及しない。
これでいいかい?」
端的でわかりやすいまとめだ。
「ありがとう、委員長」
「あんがと、委員長」
私達、二人でお礼をするが、
「……っ」
風紀委員の娘は納得いかない様子で、一つ涙を溢しながら、
「でもだって、いったじゃないですか、私のことが好きって……それなのに、どんどん初音さんに好かれるような行動や格好になってきて……キスなんかもみちゃって……嘘つき嘘つき嘘つき!」
堰を壊したかのように叫び始める風紀委員の少女。
涙がボロボロと零れ、まるで私たちが悪いような印象を与えてくる。
だが、私たちは悪いことをしていない。
「え? どういうことよ、しどー君!」
だから私は彼に抱きつき、離すまいと構えを取る。
私のしどー君だと、威嚇するためだ。ガルルル。
それにしどー君に二股をかけるような甲斐性は無い。というか、マジメガネだということも良く判っている。私を選んだのだから私のだ。
「確かに好きだと言ったが、仕事振りに対してで、個人への発言ではないことは間違いない」
「なーる、こっちが勘違い女だったわけだ」
確かに仕事ぶりを褒めていたことはあった。
士道君の冷静の言い放ちが、躊躇なく相手を切り裂く。
「私のかん……ちがい?
嘘、だっていつもいつも仕事振りが好ましいって……」
「現実、受け入れなよ」
私は言葉で突き放し、さらにマウントを取りにかかることにする。
「委員長、今日手続きするから、あんたらと同じことしていいわよね?」
「あぁ、委員長としてその発言を担保に、保証するとも。
そもそも賭けの秘密で聞いていたのがそれだからね?」
委員長からも許可を得られる。だから、
「やるわよ、しどー君」
「やるってまさか……⁈」
私の声が教室中に響く。
何事かとクラスメイトが視線を集めてくる。
私の彼が、嫌な予感を感じた微妙な顔をしてくるが、構うモノか。
「今、ナウでキスして!」
「ちょっと待て!」
しどー君があわてた。
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