第10話 コンタクトレンズとメイド服ですが、なにか?

 契約書の取り交わしも終わり、メイド活動を初めて最初の土曜日。

 世話が焼けるマジメガネのために時間を割いて、ベイクォーターの眼鏡屋さん。


「案外、怖くなかった……初音さんが居てくれたおかげだ」

「どういたしまして」


 格好もパリッとしたイケメンが表情を安堵させていう。

 ちなみにこのイケメン……服のコーディネイトなども全てが終わり、一度家に戻った後のマジメガネだ。その象徴のメガネは家においてあるケースの中だが。


「良かった良かった。

 これで私も落ち着いて仕事出来るわ」


 まったく世話のかかる。


「色気も何もないけどデートだよな、これ?」

「……っ! 何言ってるの、このマジメガネは!」


 突然、言われ顔が火照るのがわかる。

 何を言い出すんだ、このマジメガネは……。


「そもそもデートなんか、幾度もしたことあるし、こんなのはデートとは言わないわよ。買い物、そう買い物よ!

 ランチは食べたけど、そういうのではないし……」


 私が矢継ぎ早にそういうと、寂しそうな顔を浮かべるしどー君が、


「あぁ、そうなのか」


 とか言ってくれちゃうので、罪悪感が生まれる。

 とはいえ、眼鏡無しのマジメガネなら私なんかみたいなビッチよりもっとマシな女の子にモテる筈だ。

 初デートをこんなビッチが奪うのは気が引ける。


「さて、買い物は終わったわけだが何か他に買うものあるか?」

「べつにー、せっかくだし五番街に出て、だべりましょうよ」

「だべる?」


 コンタクトレンズにしたイケメン顔にハテナマークが浮かぶ。

 うん、ちょっと眩しいくらいだ。


「お話しするってことよ」

「話なら色々してるだろ、家で」

「説教話や勉強話や仕事話や猥談ばかりじゃない。少しは普通の会話を楽しみたくてね。

 ほら、スタバはいろ!」

「あ、待てよ!」


 しどー君の手を握って無理やりビブレの二階へ。


「フラペチーノ買ってくるけど、しどー君は?」

「普通のベンティサイズのアイス珈琲で」

「ラージャ。席は任せたわよ」

「任せられた」


 と言う訳で二人でお洒落カフェのスタバにしけこむ。


「スタバは普通に知ってるんだ、意外。

 席取りも卒なくこなしてたし」

「勉強で使うからな、家ばかりにいても能率が下がる。

 このビルのスタバはアニメイトも入ってるから重宝してる」


 勉強本位性らしいマジメガネな発言である。今は眼鏡してないが。

 他愛も話題が続く中で、


「メイドならメイド服も買わないとダメよね」


 と、提案する私がいる。

 話の流れはこうだ、ハウスキーパーってようはメイドよねと。


「何処に売ってるんだ、そんなもん……」

「オタクなのに知らないんだー、いがいー」

「このビルに入ってるアニメイトとかには無いぞ」


 ちっちっちっと指を振る。

 私はコスチューム撮影やプレイを何度もやってきたことがある人間だ。

 売ってる場所も知っている。


「隣のドン・キホーテよ、ドンキ」


 ついでにメイド服も買ったのはこの時であったし、初めてしどー君とビッチなことをしたのも翌日であった。


 ◆


 さて、士道君がコンタクトレンズにしてから、彼の評判はガラリと女子の間で変わった。


「マジメガネがあそこまで変わるとは……!」「イケメンになるとは、この私の眼をもってしても見えなんだ」「風紀委員x委員長とかスコブル」「それはマテ」


 と、良い評判だ。

 私のお陰だと思うと鼻が高い。

 最近、髪を伸ばせさせ、整髪料の使い方も覚えこませた。

 今はソフトモヒカンみたいな形だ。

 とはいえ、関係はクラス内では秘密なので言えないわけでして、

 

「まぁ、有りじゃないの?」

 

 程度のコメントに抑えておいた。

 でないと、なにかあって同棲バイトがバレたら困る。しどー君のメイドとか、クラスのカーストに影響しかねない。

 同棲生活自体は学校認可だが、それが表面化するのは避けたい。

 さておき、私の仕事は以下である。

 朝起きる。

 朝御飯作る。

 起こす。

 弁当は作らない。同じ弁当なんてしたら同棲がバレるからだ。

 学校へ行く。

 友達と寄り道。

 帰ってくる。

 簡単に掃除する。

 週二は洗濯。

 晩御飯作る。

 塾帰りのしどー君を出迎える。

 勉強する。

 セクハラする。

 こんな毎日の繰り返しだ。

 週五で良いと言われているのだが、基本的に毎日、士道君の家で私は過ごさせてもらう事にしている。

 土日も、昼間に友達と遊びに行くぐらいだし、家に帰る理由がない。

 これでお金がもらえているのでありがたやーである。

 おかげさまで最近は、パパ活をしない約束を守っており、アプリも起動しなくなった。


「それはそれで寂しいんだけどなー」


 男の情けない姿が見るのが好きな私はエス気がたまに沸いてくるとしどー君の寝込みを襲う。

 この前は口でしてやった。

 何をとは言わないが、私としては満足でつやつやになる。

 行き絶え絶えに我慢する姿など、大好物だ。

 精神的充足も重要なのだ。


「とはいえ、彼、ほんとーに自分からはして欲しいって言わないのよね」


 ちょっと、自分の魅力に自信が無くなってきている。

 く、悔しくなんかないんだからね、とツンデレ口調になれたら可愛いと思うんだけど……。

 私はストレートに悔しいと思う。ビッチとしては名折れであり、名誉にかかわる。


「とはいえ、初めては卒業してないのよね……」


 最近、校外の友達と話題にしている話だ。

 処女を無くしてみてどうだとか、こうだとか、生々しい話にはついていけないのだ。

 Bまでならついていけるモノの、


「何とも、まぁ」


 まぁ、それもそれでいいかなとは最近思うようになってきている。

 丸くなったものだ。

 ビッチ返上も近いかもしれない。

 しどー君に感化されている気もする。

 そんなことを考えていたら、全ての授業も終わる。

 塾があるしどー君より先に家に帰った私は晩御飯の用意を始める。


「さておき、仕上げしちゃいますかー」


 今日の晩御飯は、普通のカレーだ。

 運動会や中間テストも近い。だから、作り置きが出来るモノにした。

 私もそろそろ勉強しないとマズいのだ。

 なお、常温で置いておくと食中毒の元になるから注意が必要なので野菜を入れずに炊きあげ、一食分ずつをタッパーに入れて冷蔵庫に入れていく。


「ただいまー」

「おかえりー。

 私にする?

 私にする?

 私にする?」


 最近のマイブームが新妻気取って、タジタジにすることだ。

 今日はエプロン制服で破壊力は抜群だ。


「十分だけ休憩するから、ご飯をお願いする」

「むー、つれない!」

「はいはい」


 それでもコンタクトには慣れたのか、ずっとしてくれているのは彼が真面目だからかと考えつつ、野菜を炒め、カレーも温め終わり、しどー君を呼び、お互いに食べ始める。


「しどー君、しどー君」

「何?」

「時折、目線を授業中感じるけど、気のせい?」

「観ているし、気になる」


 と、ストレートに言われる目線がまっすぐでちょっとドキッとした。

 私、そう言えば告白されたことあっても目線を合わせるようなことはしてなかったなぁ、と思い返す。


「経過観察中だからね」 

「あっそ」


 追加を言われ、凄くなんかムカついた。

 さておき、本題に入る。


「そういえば、勉強教えてくれない?」


 ダメ元だ。

 彼には彼の勉強がある。

 補欠入学の私の面倒を見る義理などないのだ。


「判った」

「やっぱ、ダメだよねー……ぇ?」

「いいって言ったんだが……?」


 お互いに顔を見合わせることにする。


「ぇっと、代わりに息を抜いてほしいとか?」

「ちがうわあああああ」


 久しぶりに顔真っ赤にして叫んでくれた気がする。

 少し嬉しい。


「自分の復習も兼ねてだけどね」


 とクソマジメにもいらない一言を言ってくる。

 言わなければ優しさを押し付けられるとは思わないのかね、このマジメは。

 さておき、勉強を観てくれることになったわけだ。

 結論的には足手まといにしかならなかった。

 でも、彼自身のためになると、そのために言ってくれるので有難かった。

 彼の性格だ、嘘ではないだろう。

 とはいえ、夕ご飯を食べたらのあと片づけたらの間、一時間ほど復讐時間……もとい復習時間を一緒にとることになった。

 結構、スパルタで、細かいところまでつっこんでくるので、


「いつも私がタジタジにさせてるから、その意趣返し?」

「真面目にやるときは真面目にやるだけだ。そんなことはない」


 そう真剣なまなざしで言われたので、それ以外の何物でもなかったのだろうが。

 とりあえず、朝、寝込みにお礼とストレス解消を思いっきりしてやった。

 寝ているのに息が荒くなるしどー君が可愛いかった。

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