第2話 事の始まりですが、なにか?
そもそも何で、私がしどー君のメイドになったかと言うと、彼が風紀委員だからで私がビッチだったからである。
二つの言葉が全く繋がらないと思うので、簡単にストーリーで説明していくとしましょうか。
◆
時は五月の初旬の日曜日、湿気でジメジメし始めたころ、制服も早々に衣替えした頃に遡る。
その日は、さすがの私も緊張している。
ショーウィンドーのガラスに映る、胸元まで伸ばした茶髪をツインテールにした私はいつも通り可愛く、美人であるが、動きが硬く見える。
らしくない。いつもの私じゃない。
それもその筈、
「なるほど、女子高生にもなって処女だとマウントが取れなかったり、話題についていけないと……大変だねぇ、最近の子は」
「そうそう大変なのよ」
「おじさんとしてはそれでこうして役得出来るわけだから、嬉しい限りだが」
「ちゃんと払ってねー?」
「それはモチロン」
夕闇の町。
日曜日なのに制服姿な私。
手をつないだ先は好きでも何でもない、いつもとは違うアプリで出会ったオジサン。
何回か会ったことはあり、話を聞いてあげるだけでお金も何度か貰っている。
続けるうちに手、口まではした。
つまり男が気持ちいいマッサージだよ、いいね?
私は他にも何名かに同じようなことをしている。とはいえ、普段のパパ活は、安全が保障された人だけの入れるアプリからだ。基本的にそのアプリからならばコスプレして写真撮影をしたり、話を聞いてあげたりが多く、ヌキ無しでも支払いの良いオジサンが登録されている。
女子高生は化粧、友好費……などなどと色々とお金がかかるのだ。
あとこれが一番重要だが、ヌキしてあげるとどんな男性も情けない声を出してくれるのは楽しいのだ。
「優しくしてあげるからね、ふひひ」
じゃぁ、なんでそのアプリから逸脱し、気持ちの悪い笑みを浮かべるオジサンに会ったかと言うと、処女が邪魔に感じてきたからだ。
オジサンの言っている通り、他の横浜女子高生の友達たちが処女を失い始める中、話題についていけなくなり焦ってきた。同調圧力というヤツである。
「締まりのない笑いはやめてよー。
引くわ、引く」
「すまないね、君みたいなスゴく可愛い真面目系ギャルとは初めてなんでね?」
スゴく可愛いのは当然として、真面目と言われても褒められている気がしない。私が真面目なら不純異性交遊などしてないし、処女を失おうなんて考えないだろう。
「私は真面目なんかじゃないけどねー、ビッチよビッチ」
「そうかい?
何だかんだ気を使ってくれてるし。
肌は焼いてないし、白くて絹のようにきめ細かい肌。
スタイルもいいし、胸もでかいし、揉み心地は抜群。
サラサラとした手触りのよい茶髪だって天然だ」
「褒めても何もないわよ?」
初めてを売ると決めたのは高値で買ってくれるからだ。
それだけだし、こういう会話に興味はない。
「――うん」
とはいえ、これで失うのだと思うと、少し寂しい気がした。
小さい頃に夢見たにはカッコいい男子と恋愛して、キスしてと、純粋だった。そんな幼稚な時の私はもういないのだ。
話題についていけない女は置いて行かれる。
処女ぐらいで仲間を手放したくない――覚悟は決めている。私の性分は、やるからにはトコトンだ。
「ちょっと待て、その茶髪、クラスメイトの初音さんかい⁈」
「げ、マジメガネ⁈」
っと、ホテルに入ろうとしたところを止められた。
観れば、同じクラスの男子生徒だ。
名前は憶えていない。
丸眼鏡が印象的でクラス内での通称はマジメガネ。安易に真面目と眼鏡の組み合わせでマジメガネと呼ばれている。
風紀委員に所属しており、口うるさい。私はスカートの丈の短さにこだわりがあるので登校日の朝にいつも校門で捕まっている。
データキャラという雰囲気も見た目からの印象が強い。しかし、入学テストの首席であるクラス委員長に勝てなかったため、見掛け倒しという印象もある。
「初音さん、如何わしい事をしようとしているのではないか?
風紀委員として観てしまったものは止めないとならない」
初音。私の苗字だ。
某ボーカロイドとは関係ない。名前もそう読めるが、全く関係ない。
というか呼ばれたら、呼んだ奴を殴る。
「あのー、マジメガネ、かんけーないっしょ?
何、日曜日まで横浜市内を見回りですか?
真面目すぎやしませんか?」
「普通に毎週の塾帰りにカップ珈琲を買ってから、アニメイトによろうとしただけなんだが……」
確か、近くのビブレにアニメイトが入っているし、珈琲問屋という美味しい店から見れば直線状になる。
確かにカーストオタクのマジメガネが通っても不自然ではない。
「ともかく、流石にクラスメイトが如何わしいホテルに入ろうとしたら止めないわけにもいかない。責務放棄になるからな」
「ウザ……」
しかし、正論だし、相手が正しい。
このまま、ホテルに入ったら通報される流れだ。
困った。
どうしたものやら。
「いや、道を教えてもらっていただけだ、ワシは。
ありがとね!」
「ちょ、なにいって……あー、いちゃった!」
と思っていたら、情けない後ろ姿を晒したオジサンが逃げ出していた。
「あー、もう、処女散らす覚悟決めてきたのに!
どーしてくれんのよ、マジメガネ!」
私は憤りを見せて責任を取れと追及する。
「処女ってお前……っ!」
逆に彼も憤りを見せてくれるが、彼の気遣いはおせっかいでしかない。
だから、
「言い方悪いって?
バージンよ! バージン!」
私は言いくるめにかかる。
その言葉にタジタジになるマジメガネに、
「何赤面してんの?
ははん、マジメガネはオタクだもんね?」
自分の処女を棚に上げつつ、にじり寄ることにして、
「ウリウリ、女の子柔らかいでしょー?」
「ちょ、おま、やめろよ!」
「ほらほらー、同級生の胸なんて触る機会ないんでしょー?」
おっぱいを押し付けてあげると、赤面してくれる。
可愛いなぁ、童貞だ、これは。
まぁ、童貞だろうとそうじゃないにしろ、どちらにせよ、こいつの口は止めておかなければならない。退学は勘弁だ。
「聞きたいんでしょ?
何してたか?
ファミレスおごってよ、ファミレス」
「判った。
しかし、ちゃんと聞かせてくれよ」
「それはモチのロン。
あんたが赤面して逃げなきゃね?」
とはいえ、タダで済ますつもりはないのだ。
横浜駅内を移動して、イタリアンチェーンのお店へ向かうことにした。
これが私と彼の最悪の出会いだった。
そして私たちの運命が大きく変わった瞬間だった。
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