第3話 ファミレスでだべりですが、なにか??

「ミラノ風ドリア、ポテト、ドリバー、プリンを食後で。

 伝票は書いて♪ お願い♪」


 と、オーダー用紙とペンをマジメガネに営業スマイルで渡す。


「野菜もとらないとダメなんだぞ?

 追加してくれ」


 するとくそ真面目に返される。

 営業スマイルがスルーされたのはこれが初体験である。何というかムカついてきたので、遠慮なく、


「奢らせてる時に追加注文しろと言われたのは初めてだわ……。

 子エビのサラダも追加で」


 追加注文をする。


「自分はドリンクバー、オニオンスープ、海藻サラダで……っと」


 慣れたように書いていく彼の注文の量が少ないのにイラつきを覚えて、店員が確認した後に言ってやった。


「男だったら肉食べなさいよ?

 食べていない男をみると不安になるから」


 これはリアルパパ、つまり実父が多く食べていることに起因する。

 それもあってちゃんと食べている人や恰幅の良い人の方が安心する。


「家でプロテイン取るからいいんだよ!」

「ほんとマジメガネだねぇ……。

 あ、私のコーラとってきてー。

 お腹冷えるから氷無しで」

「はいはい」

「はい、は一度でよろし」


 とはいえ、素直にとってきてくれるのは私の中で評価が良い。

 なお、よろしは私の口癖だ。

 

「で、何をしてたんだい?」


 喉を一旦、湿らせてからそう聞いてくるマジメガネ。

 彼のコップは炭酸水だろう、無料で飲めるのになぜとってくるのか不明である。

 メガネは光っている。

 威嚇でもしてるつもりなのかしらね? 男性に対して百戦錬磨の私にそんなのは効かないのに。


「聞いてたでしょ、処女散らそうとしてたの」

「ぶ、しょ、しょ、処女ってつまり……」


 震えだすマジメガネは想定通りではあるので、そっかー程度の声色でうんうんと納得し、彼に衝撃を与えるための言葉を放つ。


「えんこーよ、えんこー、援助交際よ。

 パパ活なんて目じゃないガチのやつ」

「な、な、な」

「未遂だけどねー、どっかの誰かさんのせいでね」


 前に座ってむせているマジメガネが思いのほか面白いので、悪戯心が芽生える。だから、逆にこちらから問いかけてやることにする。


「あんたチェリー?」

「……なんだい、それは?」


 ニヤニヤと表情に愉悦とうかんでしまう。


「それもしらないんだー、

 おせーたげる。

 おいしょっと」

「な、な、なんでこっちにくるんだよ!」

「大っぴらに言えないからよ!」


 と、彼側の席へと座り直し、耳元で意味をささやいてやる。


「ど、ど、ど、どうていって、当たり前だろ⁈

 まだ高校生なんだから!」


 マジメガネよ、大声で言うな。わざわざ配慮してあげたのに。

 とはいえ、ガヤガヤとした店内では雑音として消されたようで何よりだ。


「おくれてるー。

 クラスの委員長だって、お嬢ときっとずっこんばっこんよ。

 吊り橋効果抜群よね、あのお嬢からの溺愛ぷっりは」


 クラスメートの話はさておき、


「結構な割合で、処女、童貞は高校で卒業。

 ソースはネットとクラスと横浜友達の話よ。

 実際、卒業してる娘も出てきてる」

「ネットはソースとしては不完全なんだぞ……。

 それに友達が、って話も無理矢理に周りに適応する必要は無いかと思うんだが?」


 正論を言われてイラっとした感情を覚えた。

 だから、叫ぶように、


「うるさいわね!

 だいたいね、青春ドラマとかも高校生で性描写とかふつーでしょ。

 というか、少女漫画ですらあるわよ。

 月に代わってお仕置きよで有名な漫画でも。

 だから、ふつーなの!

 それに話についていけないってのはそれだけでデバフなの!」

「そ、そうなのか……」


 現実、というか常識で殴りつけてやると打つひしがれるマジメガネ。

 高校生の性事情なんてこんなもんである。

 あまり夢を見ない方がいい。


「というわけで、アンタのバカまじめすぎる頭が間違いなの!

 このマジメガネ!」

「……それでも不純異性交遊はダメだ。

 校則にも違反するし、そもそも条例にもひっかかる。

 それにどこか自分を傷つけようとしてないか?」


 心に刺さる言葉がマジメガネから出てくるのでイラッと来た。

 だが、私は目的を優先することにする。


「というーか、学校にチクったりしたら許さないからねー。

 もしバラしたら、虐め……あんたも道連れにして退学してやる……!

 私の事を援助交際させてお金を強請ってたって!」


 虐めは委員長が危険なのでやめておく。

 なんせ、委員長の妹を虐めていたお嬢を虐め返し、その上で虐めはよくないとクラス認識を書き換える所業をしている。更にその上でマッチポンプだが、それでお嬢を惚れさせているのが委員長だ。

 ヤベー奴には違いないし、虐めが嫌いなのにも嘘は無いので触らぬのが良い。


「初音さん、よく考えてみろ。

 それを言って一般的に僕と君のどっちを信じるかは……僕の方だろうなぁ」

「それは確かに……」


 成績優秀風紀委員と落第すれすれビッチの信頼度の差、何てそんなもんだ。

 

「とはいえ、未遂しかおさえてないから通報はしない」

「あっそ、それでいいの?

 風紀委員的には」


 と、当たり前の問いに彼は、


「あくまでも未遂だろ。

 それに通報しても誰も得しないし、風紀委員の腕章をしていない時の未遂を通報するのは規定にない。僕はあくまでも偶然出会った同級生に一般的な風紀の範疇で注意をしただけだ」


 断言してきてくれるので毒気が抜かれた。

 変なとこで律儀である。

 マジメガネだけに本当に真面目である。


「そしたら今度はバレずに処女散らすわ……」

「そういう問題じゃないだろ。

 それに僕以外にも先輩や同級生もあそこは通るんだぞ?

 いつかパパ活でもバレる。

 それにだ、許可の無いバイト活動すら通報対象だしな」


 私が町田を避けているのは、先生の巡回や他の生徒の目があるからだ。

 それと同じであれば、横浜でやるのもリスクが高いぞ、と言われた気がした。

 ならば、


「ち、別の場所でやるしかないのかー」

「まずはパパ活や援助交際をやめる発想にしろと……」

「だってー、援助交際はさておき、パパ活はお金欲しいんだもーん、女子高生はお金かかるのよー」

「普通にバイトしろバイト。

 学校からあざみ野、それで横浜まで出てくるのですら電車賃かかるだろ?

 確か、住んでるのあざみ野だったろ?」

「何で知ってるの? ストーカー? ……確かに、出てくるだけでもお金かかるんだけど」


 少額とはいえ、お小遣いのない女子高生にはめちゃくちゃ痛い。

 しかし、クラスメイトに出会う可能性が高いことも考慮し、横浜に出てきている。


「バスを降りているのを見ていて、そこから住宅街に抜けていくのを見ただけだ」

「あっそ。それにバイトは許可制でしょ。許可なんて出ないって先輩が言ってたわよ?」


 実際、先輩の中に進学校なので学業がメインだと却下されたことがあると聞いている。


「そんなことは無いぞ。委員長はバイトをしている」


 確か、金持ちでそんなことしなくてもいい筈だ。

 それに、


「初めて聞いたわ、そんな話」

「僕も許可の通知を風紀委員の全体共有で知るまで知らなかった」


 普通に会話している私たち、他から見たらカップルにでも見えるのだろうか。

 それは勘弁してほしい。

 だから怒気をはらませながら次の言葉を言う。


「さておき、こっちの友達と会ってカラオケいって、遊んだりするだけで滅茶苦茶金かかるから、大変なんよ?

 だからパパ活ぐらいは認めてほしいわよ!」

「友好関係を広めるのは良いことだと思うが、身の丈の付き合いというのも重要だと思うぞ、自分は」

「ふーんだ、マジメガネは学園外の友達いないからそんなこといえるのよ。

 いつもクラスじゃ、オタク達とつるんでるだけじゃん」

「ムリしない関係は気楽だからいいんだよ。

 それと塾でも友達は居る」


 睨み合う私たち。

 取っ組み合い含めた、いがみ合いになりそうになる。

 平行線だ。

 丁度、そこに料理が来た。

 しばし休戦しつつ、食べることにする。


「コーラもってきて」

「はいはい」


 と言いつつ、持ってきてくれるのはありがたい。

 今度のマジメガネのコップの中も茶色だが、泡が立っていない所を観るにお茶だろう。

 真面目だねぇ、と逆に関心の域に入る。


「で、マジメガネはなんでワザワザ横浜の塾なんか来てんのよ」

「僕はこっちに家がある」

「ほーん、横浜からあざみ野まで毎日はるばる通ってんだ。

 確かに進学校だからいるといえばいるか」


 結構な数いた気がする。

 六割は横浜方面の筈だ。


「横浜に家があるって金持ちなの?」


 な訳ないなと思いながら聞いてみる。

 横浜と言っても田舎は田舎だ。旭区とか。

 なお、学校のある青葉区は特に田舎だ。狸が闊歩し、畑が広がっている。


「うーん、どうなんだろう?」

「正直に言ってみそ?」


 とりあえずの話題という奴だ。

 それなりの金持ちがいるのは進学校ならではなのだ。

 それに本当のお嬢様はクラスに居る。


「親が京都で医者だからあるといえばあるんだろうけど。

 横浜駅隣接のマンションも僕一人で住んでるし……うん」


 瓢箪から駒だ。

 急にマジメガネからお金の匂いと後光が差してきた。

 ともあれ、危急な話題がある。


「ぇ、マジで。

 今日泊めてよ!

 パパ活するつもりでいるって言ったら、妹を怒らせて家帰れないんだわ」

「どんな計画してんだよ、初音さんは……」


 さすがに呆れられるので、舌を出しながら、


「てへっ☆」

「笑ってごまかすなよ……」


 真面目な妹を持つと苦労する……っと、自分の所業の悪さは棚に上げておく。


「まぁ、それぐらいならいいが。

 クラスメイトが困っているのはみてられない」

「やった!

 持つべきものはお金持ちのクラスメートだわ!」


 と、無理難題を吹っかけたつもりだったが、あっさりと了承してくれる。

 チョロいなぁっと思いつつ、抱き着いてあげる。

 これぐらいはサービスである。


「ちょっと、まて、初音さん、胸が胸があたってる!」

「騒がない騒がない、騒いだ方が注目されるわよー。

 ふふふー」

「くっ!」


 純すぎて、ちょっと可愛くなってきた。

 からかうのが楽しい。

 それにマジメガネの性格から見れば、絶対安全マンだ。


「それじゃ、あんたの家に行きましょう!」


 新しいおもちゃを見つけた気がした。

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