第21話 お酒とジュースとおつまみ

2人を引っ張ってコンビニをでた私は、近くの公園に来ていた。

ここなら何か食べていても文句は言われないはず。

それに、外で食べていても恥ずかしくない。


…ついでに最近は公園で遊ぶ子供が減ったから人も来ない。


「じゃあ食べようか。…とは言っても、晩酌でもするのかって物しか無いだけど」

「まあまあ。その歳で細かい事は気にするべきでは無いぞ?サユリ様よ」

「…絶対、木仙さんが食べたいだけですよね?」

「こっちの世界でしかコレは食べられぬからな。悪いの、フウカ様」

「ばあや…あなたは私の従者ですよね?」


私は呆れ、フウカさんはかなり不満がある様子。

それに対して木仙さんはどこ吹く風であり、この人も大概自由人で、我が道を行く人である事が伺える。


「さてさて、何から食べたものかの?」

「お好きにどうぞ。はい、フウカさん」

「ありがとうございます」


フウカさんに缶チューハイを渡し、好感度を稼ぐ。

両手で缶チューハイを受け取ってくれたフウカさんは優しく笑っていて、もう既に好感度が高い。

私がお酒を飲める歳なら…あるいはここが霊界なら、私も一緒にお酒が飲めたのに。


それが残念な私は、袋からソーダを取り出して飲む。

すると、チラチラとフウカさんがこちらを見ているのがわかった。


…もしかして?


「…ふふっ、もしかして開け方がわかりませんか?フウカさんでも」

「……いえ、そんな事はありません」


初めて見る缶の飲み物。

開け方がわからないのは当然だ。

悪戯心から軽く煽るように聞いてみると、あら不思議。

効果テキメンなようで、どうにか自力で開けようとしている。


缶の上部を見て、何となくこれを使うんだろう事に気付いたフウカさんは、つまみを持って色々試行錯誤している。

いい感じに持ちやすい形。

何を思ったのか、それを引っ張るモノだと勘違いしたフウカさん。


バチンッ!と言う音と共に、つまみが取れてしまった。


「…どんなパワーしてるんですか」

「だってぇ!」


開け方がわからないのは仕方ない。

だから、つまみが取れてしまうことも仕方ない。

…でも、私達が普通に蓋をあけるのと同じくらいの感覚でつまみを引き千切ったフウカさん。

必死に弁明しようと、私に抱きついてきた。


「わた、私は頑張ったんですよ!?この穴は指を引っ掛けるための穴で、この切れ込みのようなモノはここが開いて中の飲み物が飲めるという仕組みなんですよね!?」

「う、うん…」

「このつまみを引っ張ればこの切込みが…!」

「フウカ様」


なんとか弁明しようとするフウカさんに、もう笑っているのを隠す気すらない木仙さんが呼ぶ。

そして、さも当然かのように缶を開いた。


プシュッという音が鳴り、フタが開かれて中の液体が見える。

木仙さんはそれを飲むと、まるで風呂上がりのおっさんの様な表情を見せ―――


「くぅ〜!やはり人間界の酒は美味いのぉ」


本当におっさんみたいな態度でお酒をグビグビ飲み始めた。

一方のフウカさんはと言うと…


「ばぁ〜や〜!!」

「おお怖い怖い。サユリ様、助けてくだされ」

「ええ!?」


私の前で盛大に恥を掻き、その事をバカにされて真っ赤になっている。

今にも襲いかかりそうなフウカさんを抑えてほしいと木仙さんに頼まれ、なんとか抑制はしているけれど…フウカさんは本気。

中身の入ったアルミ缶を握り潰し、耳や尻尾の毛を逆立たてせて――ん?


「ちょっ!フウカさん!耳が!尻尾が!」

「え?あっ…!」


慌てて神通力を使い、尻尾と耳を隠す。

もしこれを人に見られてたら本当に危ない。

全く、気が抜けないんだから…


「怒るのはわかるけど、気を付けてよ…」

「ごめんなさい…」

「ふふっ、シュンとしてるフウカさんは可愛いね」

「そ、そうですか?えへへ…」


なんかフウカさんが叱られた犬みたいに見えて可愛かったので頭をなでてあげる。


はたから見れば同年代の女の子同士がじゃれ合ってる微笑ましい光景だけど…年齢差が280歳くらいあるんだよね…

何だったらフウカさんの正確な年齢次第ではもっとあるかも。


「…それでフウカ様、それはどうやって開けるのじゃ?」

「あ〜…こうします!」


そう言って、フウカさんは切込みの入った部分に指を押し付け、そのまま指一本の力で蓋を開けた。


「…どんなパワー」

「だってぇ!!」


さっきも見た光景に、木仙さんはまた笑う。

涙目のフウカさんは、とても300年生きた妖狐族のお姫様とは思えない。

まるで歳の近い妹みたいだなぁなんて思いつつ、木仙さんからおつまみを取り上げてフウカさんに渡す。


「はい。多分、一緒に食べると美味しいよ」

「ありがとうございます」

「我のスルメ…」

「木仙さんは今持ってるだけで我慢してください」


私がそう言うと、木仙さんは耳をペタンと垂れさせて落ち込んでしまう。

私の方をチラチラ見ながらスルメをチビチビ齧っているのが…なんとも言えない罪悪感を湧かせてくるのだ。


これが3000年生きた妖狐の泣き落としか…!


「どうですか?フウカさん」

「ちょっとニオイが鼻に付きますが…美味しいですよ!」

「あはは…まあ、スルメですから…」


フウカさんにはスルメはちょっと臭かったみたい。

でも、味までは悪くないようで、鋭い犬歯でスルメを嚙み千切り、味わって食べている。


…見た目からは想像できないくらいワイルド。


「スルメもいいけど、お酒も美味しいはずだよ」

「そうですね。では一口…ッ!?」


私に勧められてフウカさんはお酒を含む。

その瞬間、全身をピンと張ってお酒を飲むのをやめた。


「な、何か入ってます!」

「…はあ?」


凄く真剣で、驚いた様子のフウカさん。

そして、何かの神通力を使いながら慎重に観察をする。


「毒…いや、そんな味はしなかった…それにあの感覚は…何かが弾けるかのような感覚は…」

「あ~…そういう」


何かが弾けるような感覚…おそらく炭酸の事だろう。

…あの時代って発泡酒無いのかな?


「それは炭酸と言って、水に空気が溶け込んでいるんだよ?水に刺激を与えたり、温めたりすると水の中から出てきて何かが弾けたみたいな刺激を与えるの」

「そうなんですか…でも、どうしてそんな事を?」

「それが美味しいからだよ」


私が炭酸の説明をすると、フウカさんは理解してくれたけど納得はしてないみたい。

まあ、水をわざわざこんな風にする理由は、何も知らないと分からないよね。


「これが美味しいなんて、よくわかりませんね」

「まあ、大人味だからね」

「へ?」


ちょっとフウカさんの事をイジメたくなった私は、それっぽく少し馬鹿にしたような言い方で話す。

この時、フウカさんを見ずに言うことを忘れない。


「ちっちゃい子や、子供舌な人には飲めないの。フウカさんには無理だよ」

「…聞き捨てなりませんね」


私の挑発に乗ったフウカさんは、缶チューハイを見つめて意を決した表情になるとこちらを見る。


「その喧嘩、買いましょう。んっ――!!」


そう言って缶チューハイを一気飲みし始めた。

意固地になった子供のようにすぐに挑戦を受けたことを、多分内心後悔しているんだろうなぁ、なんて思いつつどんどん顔色が悪くなるフウカさんを見つめる。

なにせ、炭酸は慣れていても、一気飲みすると体が拒絶する。

それを無理に飲んでいるのだから…まあ、大変だろうね。


「うっ!」


多分半分も飲めなかったくらいで失敗、優しく背中を撫でてあげると、何故かプルプル震えている。

まるで何かを我慢しているみたい。

もしかして怒ってるのかな?


顔色を窺おうとすると、突然世界から音が消えた。

それと同時にフウカさんの震えが収まった。

すぐに音が戻り、何か神通力を使ったか聞こうとすると、先に木仙さんが口を開いた。


「サユリ様や。それは炭酸の飲み物を飲むときは必ず付き纏うもの。それほど恥じる必要はないぞ」

「ですが…はしたないではありませんか」


炭酸…はしたない…あっ!


「そういう事か…私はそんな事じゃ幻滅したりしないし、なんとも思わないよ。それよりも、人間界のお酒はどう?」

「とっても美味しかったですよ。甘くて、果物の味と香りが強く感じられて…よく熟れた果実をそのまま食べているようでした」


果物をそのまま食べたような味。

確かにその通りだ。

そう考えると、最近の技術はすごいね。

現代科学の努力の結晶がうかがえる。


「それはよかった。…懐が一気に寒くなっても買ってよかったよ」

「すいません…お代は後程ばあやに用意してもらいます」


フウカさんの色々な姿が見られたのは嬉しいけど、それとこれは別問題。

きっちり木仙さんにはお代を用意してもらおう。


「お酒もおつまみも、まだたくさんあるから是非食べてよ」

「では、お言葉に甘えさせていただきます」


フウカさんはその後もたくさんのお酒を飲んで楽しそうだった。

最終的に、レモンサワーと木仙さんがいつの間にかかごに入れていて、買わされる羽目になったチーズ鱈の組み合わせがお気に入りなんだとか?


…意外と好みがおっさんっぽい。


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