第3話 狐の使い

「また明日〜」

「「ばいば〜い」」


学校が終わり、放課後。

私とミズキ達は帰る方向が反対なので、校門前でサヨナラだ。


高校から家まではそんなに遠くないし、いつも歩いて来ている。

自転車を使えばもう少し早く行けるんだけど…シールを貼れだの決まったルートで来いだの鍵をかけろだの学校側がうるさい。

だから、私は自転車登校を辞めた。


別に自転車を使えば早いってだけで、全然歩いて通える距離だから、大した問題ではないのだ。


今日もいつものように通学路を歩いて帰っていると…いつもと景色が違う事に気が付いた。


「…車が一台も通ってない?」


普段なら、常にエンジン音が聞こえるのに、今日は全然聞こえない。

車道を見ていると車が一台も走っておらず、なんだか不気味だ。

おまけに…


「車どころか…誰もいない…?」


同じ方向に帰る生徒も、散歩をしているお爺さんお婆さんも、買い物帰りの主婦もいない。

まるで、この町に私だけが取り残されたような静寂。


気味が悪くなって走り出す。

私の家は、今の道をまっすぐ郵便局まで歩き、そこで右折。

今度は銀行まで行って左折したらすぐそこだ。


郵便局で右へ曲がり、目印の銀行を目指す。


「はぁ…はぁ…」


呼吸を粗くしながら走り、どんどん苦しくなるが…それに比例して恐怖が増していく。

なんとか銀行まで走り抜け、左折するともう家の前。

後は住宅街の中にある私の家、に…


「…え?」


大きい道路が周りになく、住宅街のど真ん中に入ったところで、私は異変に気が付いた。


「神社…?」


私の家や、近所の人達の家のある場所に、何故か神社がある。

それも、この町に不釣り合いなほど、大きな神社。


これほど大きな神社はこの街には無かったはず。


「嘘っ…!」


怖くなって反対方向へ走る。

学校だ。

私が家の次に安心できる場所といえば学校。


来た道を走り、学校へ辿り着いた私に待っていたのは…


「そんな…」


学校もまた、神社へと変わっていた。

私の逃げ場を潰すように、行く先行く先に現れる謎の神社。


恐怖でその場に座り込んでしまった。

スマホを取り出して助けを呼ぼうとするが、当然のように圏外。


ふと顔をあげると、眼の前の神社から1人の女性が歩いた来た。


「華宮サユリ様ですね。お迎えにあがりました」


私の前まで歩いてきて、そんな事を言い出した女性は…昨日の夢に出てきた女性、フウカさんと同じように狐の耳と尻尾があった。


…まさか――


「私を…ここに閉じ込めたのはあなたですか?」

「はい。フウカ様の命により、花嫁であるあなた様をお迎えに――「ちょっと待って」――はい?」


私の想像した通りの答えが返ってきて、私は更に頭の中がこんがらがる。

でも…一つ確かな事は…アレは夢じゃなかったという事。

私は、狐のお嫁さんになってしまったという事だ。


「……迎えは、あなた1人だけなの?」


もう諦めて、そう尋ねる。

いや…考えることを放棄したと言ったほうが良いかもね。


こんな非現実的なこと…すぐには受け止められない。

だから、こういう時はお母さんが言っていた方法を使っている。


『頭がこんがらがるような状況に出会った時は、変に考えず思考を放棄しなさい。そうした方が、いくらかマシよ』


今みたいな頭がこんがらがる時は、考えることを止めたほうがいい。

…その結果、テストで酷い点を取って怒られたのは言うまでもないけど。


「人数が必要でしたらすぐにでも部下を手配しますが…フウカ様によれば、あなたは派手な事を嫌うお方。迎えは少ないほうがいいとフウカ様はおっしゃっておられました」

「私がいつそんな事を…」

「はい?サユリ様は結婚式を行う事に否定的だと伺っておりましたので…仰々しい迎えは不快かと思いまして…」

「ああ〜…そんな事言ってたね」


…って事は、もしあの時結婚式はいらないって言ってなかったら、盛大に迎えられて、それはもう凄い結婚式に理由もわからず付き合わされてたんじゃ――恐ろしい。

昨日の夢の私、グッジョブ!


「では、私の後に続いてください。この空間は、そう長持ちするものではありませんので」

「ちなみに、時間切れになったらどうなりますか?」

「世界中の何処かに突然飛ばされます。酷い時は、火山の火口なんかに転移することも…」

「早く行きましょう!時間が…!時間切れだけは…!」


迎えの女性の背中をグイグイと押して、先を急ぐ。

その転移というのは、別に火山の火口じゃなくたって数百メートルの空中に放り出される可能性だってあるはずだ。


そんなのとても看過できないし、死にたくない。

だから先を急いで何としてでもこの空間から脱出しないと…


「そんなに急がなくとも、すぐに出られますよ。ほら」

「…ふぇ?」


気が付くと景色が変わっていて、大きなお屋敷の前に立っていた。


「ここは…?」


よく手入れされた庭には大きな松の木やすでに花の散った桜の木。

また多くには柿の木も見え、広い庭にたくさんの気が植わっている。

真っ白な石で白く彩られ、場所によってはキレイな模様まで描かれている。


「サユリさん!」


聞き覚えのある声で名前を呼ばれ、その方向を見ると…これまた見覚えのある人物がこちらへ走ってきていた。

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