第2話 軽はずみ

突然の求婚に困惑する私。

それでもなんとか冷静さを取り戻し、状況を整理すると…一段低い段に降り、こちらを見上げるフウカさんの顔を見つめる。


(これ…アレか!雨は降ってないけど、狐の嫁入りってやつ!)


嫁入りに行くのは私の方だけど…多分そうだろう。

そう言えば、今朝晴れてるのに雨が降ってて、『こういうのって、狐の嫁入りって言うよね〜?』なんて話をしてた気がする。


こんな夢を見る理由はそれだと思う。

そう考えると、今までのモヤモヤが全部消えてなくなった。


「あの…どうされました?」

「へっ?」

「私の顔をずっと真顔で…その、私のような女では…ダメ、でしたか?」

「い、いえいえ!そんな事は無いですよ!」


眼の前のフウカさんを無視して考え事をしていたからか、少し不安な気持ちにさせてしまったようだ。


…とは言えこれも夢何だよね?

もしかして、あのクラスメイトの告白が夢で形を変えて再現されてる?


「その…今すぐに返事がほしいという訳ではありませんので…えっと、後日でも…」

「ああ!い、今言います!」

「本当ですか?」


露骨に落ち込まれ、罪悪感を感じた私はすぐに返事をすると口走ってしまう。


…まあ、所詮は夢だ。

目が覚めたら終わりだし、そもそもコレは私の1日の記憶を元に作られた幻。

存在しない虚像。


だったら、別にOKしても問題ないよね?

それに、この状況が今日された告白を思い出しての夢なら、夢でくらい首を縦に振っちゃおう!


…OK出した瞬間、フウカさんの姿が変わってアイツになったら最悪だけど。


「すぅ……フウカさん。私は、OKです」

「――っ!?ほ、ホントですか…?」

「はい」

「嘘とか、夢じゃないですよね?」

「は、はい」


夢といえば夢だ。

だってこれは、私の夢何だから。

でも、フウカさんから見れば夢じゃない。


私にOKをしてもらえてよほど嬉しかったのか、尻尾を高速で振って喜びを表現し、耳をピコピコさせている。

…可愛い。


「えっと…じゃあ、準備してきますね?」

「…なんのですか?」

「何って…結婚式とか、同棲の準備です。式には親戚一同と、お友達と後は…お父様とお母様が沢山呼ぶでしょうし…大きな会場を探さないと…!」


なんか、すでに結婚式の規模が大きい。

そんなに大きな結婚式にしたいのか…出費ヤバそう。

というか、そういう式にはあんまり行きたくないなぁ…

大変そうだし。


「あの…結婚式は絶対なんですか?」

「はい!…嫌でしたか?」

「いや、その……今時、式を挙げない結婚も普通になってきてるらしく、無理して大きな式を挙げる必要もないと思うんですよね」

「そうでしょうか?」

「そうですね。とにかく人を呼んで大金を掛けて盛大に結婚式をするって考え方は…ちょっと古いって言うかなんていうか…」

「えっ!?」


私の言葉がよほど衝撃的だったのか、目を見開くフウカさん。

そうして、顎に手を当てて何かブツブツつぶやきながら、同じところを行ったり来たりすると、急にこっちの方を向いてきて、決意の硬そうな顔を見せてきた。


「わかりました!では、式は挙げずにすぐに同棲と言うことで!」

「は、はい…?」


同棲…というのもかなり気が早いな。

いや、出会ってすぐに『結婚してください』って言うのも中々に気が早いけどさ?

まあ、そこは夢だからって事で。


そうやって一人で納得していると、フウカさんが私の手を握ってくる。

ほんのり手が暖かくなり、あったかい手だなぁとか考えていると、


「では、早ければ明日にでも使いの者をお迎えに送ります。あっ!もちろん花嫁道具などはいりませんので、ご心配なく」

「はぁ…?」

「では、私はお先に失礼します」


フウカさんはそう言うと、まるで煙のように消えてしまった。

その直後、私も猛烈に眠たくなって階段のど真ん中で眠り…気が付いたら朝になっていた。









「―――ほんと、不思議な夢だったなぁ」


お昼になり、お弁当を食べながら友達に昨日の夢の話をする。


「狐の女性って…沙友理、それ本当に大丈夫?」

「え?なんで?」

「なんか、良くないことが起こる前兆だったりしない?って事。そういうのには興味ないけど、そこまでハッキリ覚えてるならそういう事なんじゃない?」

「ちょっと〜!怖いこと言わないでよ、ミズキ〜」


私の親友、宇良瑞姫うらみずきにそんな事を言われ、ちょっと怖くなる。

ミズキはそういう都市伝説だとか迷信だとかはキライなタチだけど、ここまでハッキリとした明晰夢の話をされては、ちょっと思うところがあるんだろう。


少し心配になっていると、隣りにいたもう一人の親友、羽山環はやまたまきがスマホを見せてくる。


「狐が出る夢は、あなたを騙そうとしている人が近くにいる警告なんだって」

「騙そうとする人……アイツか?」

「昨日の彼?確かにそうかも」

「だとしたら、フッて正解だったね。危うく騙されるところだったんじゃない?」

「こんな夢見なくても、絶対にアイツはお断りだけどね〜」


そんな話をしながら、ゆっくりとお弁当を食べる。

…ただ、やっぱりあの夢が気になって仕方がない。

とはいえ同じ話ばっかりしても楽しくないし…


「そう言えば――」


悩んでいた私に、ミズキが声を掛ける。


「アイツどうするの?裏垢を共有して粛清する?」

「そうだよ。アイツ本当に許せないね!」

「2人とも過激だなぁ…」


2人はフラレたからって裏垢でとんでもない行為をしたアイツを許す気はないらしい。

哀れ、女子を敵に回した後の高校生活は碌なことにならないよ…


…まあ、流石にそれは可哀想だ。


「まあまあ。私はもう何も思ってないし、別にいいよ」

「分かってないなぁ。それだから馬鹿な男子共に『売れ残り』だとか言われるのよ」

「そうそう。もっとガツン!と言ってやらないと!」

「…2人もひどくない?」


別に自分の事じゃないのに本気になる2人。

止めようにも、多分意味ないし…まあいいや。

放っておこう。


別に、私がなにかした訳でもないんだから。


「ん?あれ?時間ヤバイ?」

「うわっ!マジじゃん」

「次の授業、地理だっけ?あの授業眠くなるんだよね〜」

「「わかる〜」」


意外と時間が経っていた事に驚き、急いでお弁当を食べてしまう。

そして、教室に戻るとパパッと準備を終わらせて授業が始まるまでみんなとお喋りしていた。

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