第7話 イチャイチャ
私のことが大好きなフウカさんを満足させるにはどうしたらいいか?
今は、夢の中の稲荷神社にあるお社で、フウカさんに膝枕してあげている。
どうやら学校終わりにしてあげた膝枕と頭ナデナデがかなり気に入ったようで、フウカさんは夢の中に現れてすぐそれを要求してきた。
「うふふ…なんだか夫婦って感じがして、いいですね?」
「そう?喜んでもらえて嬉しいなぁ」
脱力して、気持ちよさそうに頭を撫でられているフウカさんを見ると、なんだか私も心がポカポカしてきた。
…それと同時に、ふと気になることが。
「フウカさんは…私以外に恋人がいた事はありますか?」
話を聞く限り、フウカさんは私が初恋の人ってわけでは無い様子。
なら、他に恋人がいた事があってもおかしくない。
それが気になって、思わず質問してみた。
「…私に恋人が居たのは、今だけです」
どこか寂しそうに答えるフウカさん。
恋心を抱いた人は居ても、その人と一つになれた事は無いのか…
しかも、それは1回や2回ではないらしいし…
「私は…私が一目惚れした相手は、いつだって人間の女性でした。でも、人の世界は時の流れが早く、私が行動に移そうとした時には、もうその人達は他に恋人が出来ていました…」
「…そうなんですか?そんなにポンポン恋人って出来るかな?」
私なんて、まだ一回も彼氏ができたことが無い。
そして、この先も出来ることはないだろう。
だから、そんな簡単に恋人なんて出来るとは思えないんだよねぇ…
「いいえ。出来ますとも。私が心の準備を整えるまでの十数年の間に…」
「そりゃあ恋人が出来るよ!!」
「えぇ…?」
じゅ、十数年って…例えば私に今一目惚れしたとして、実際に告白するのは…それこそ私が三十代とかそれくらいでしょ?
それで一度も恋人が出来てないって…それはもう、フウカさんの人を見る目がないって事になる。
…待てよ?
ってことは、私の事は赤ちゃんくらいの頃から気になってたとか?
私はフウカさんを膝から下ろし、少し距離を取る。
「どうして逃げるんですか!?」
「いや…もしかして、私のこと赤ちゃんの頃から狙ってました?」
「あの日の夜が初対面です!一目惚れです!」
「…それはそれで怖い」
「えっ!?」
一生の恋人を初対面で決めちゃうとか…相手が悪かったら本当に酷いことになってたよ?
それに、一目惚れでそこまで出来る行動力も怖いし…
…いや、十数年心の準備に使うんじゃないの?
そのアグレッシブさがあれば、もっと他にも早くにアタック出来たでしょうに…
なんで私にはすぐにアタック出来たんだか…
困惑していると、急にフウカさんが悲しそうな顔をして私の事を見つめてきた。
「…サユリさんは、私の事嫌いですか?」
「え?」
「そんなに呆れた顔をされて…私は、嫌われたんじゃないかって…」
「えぇ?ちょっと呆れただけじゃん…そんなに悲しそうな顔しないで」
再び膝枕をして、頭を撫でるとフウカさんとても嬉しくな顔をしてくれた。
その無邪気な表情が、とても私よりも遥かに長い時間を生きている妖狐には見えなくて、思わず頬が緩んでしまう。
…そうだ。
「夫婦なら、キスくらいは普通だよね」
「キス?」
「知らない…なんてことは無いと思うけど……ああ!アレだ。接吻」
「っ!?」
キスだと通用しないなら、昔の言葉である接吻なら通用するだろうと思ったけど…効果はあった様子。
真っ赤になって、顔を隠してしまうフウカさん。
「どうしたんですか?もしかして、怖いんですか?」
「っ!そ、そんな事はありません!」
「うわぁ!?」
ちょっと挑発してみたら、フウカさんはかなり勢いよく食い付いてきた。
そして、頬を膨らませながら、勢いよく起き上がると、私に詰め寄ってくる。
「しますよ。キス」
「そんなに焦らなくても…」
「あれ?もしかして怖いんですか?」
「……」
「……」
あまりの勢いに、落ち着いてもらおうとしたけれど…そんな事を言われては私も後に引けない。
無言で距離を詰め、少しずつ私とフウカさんの唇が近づく。
緊張から息が荒くなり、私の鼻息がフウカさんにかかる。
それはフウカさんも同じで、フウカさんの鼻息が私にかかってきた。
「………」
「………」
あと少し近付けば簡単に唇同士が触れてしまう位置まできたところで、私とフウカさんは動きを止める。
そして、相手の目をジーッと見つめ、やがて恥ずかしくなって同時に顔をそらす。
「…やっぱり、やめておきましょう。もう少し…お互いを知り合ってからでもいいと思います」
「フウカさんがそんな事を言うなんて…そう思うなら、せめてお付き合いからの関係が良かった」
「あの時は気が動転して…!」
「知ってます。だから、気にしなくて大丈夫」
そう言って、私はフウカさんの膝の上に頭を乗せる。
すると、私が何も言わなくてもフウカさんは頭をなでてくれた。
「どういうわけか、出会って間もない関係なのに、フウカさんに頭を撫でられると安心出来ます」
「ホントですか?」
フウカさんは何処か嬉しそうな様子。
「ええ。いっその事、フウカさんが私の部屋に来てくれて、一緒に寝てくれたらなぁ…なんて思ったり」
「……ホントですか?」
しかし、突然疑いの目を私に向けてきて、かなり訝しげな表情をしている。
…私、何か癪に障るようなこと言ったっけ?
もしくはフウカさんの機嫌を損ねるようなことを考えたとか。
…今は特にそういう事は考えてないはずだけど…
「…本当にそう思うなら、かなり重症ですね」
「何が?」
「ここがどこだか、わかってます?」
「夢の世界」
「じゃあ、サユリさんが寝た場所は?」
「……あっ!」
そこまで言われてようやく思い出した。
私が、今フウカさんの布団で寝ている事に。
「えっと…もしかして、私すぐ寝ちゃいました?」
「すぐ寝たと言うよりは…暗がりで膝枕をしたら、いつの間にかお眠りに…」
「あぁ〜…その、もしかしたら、心地よくて寝ちゃったのかも…」
「でしょうね。まったく、私を置いてすぐに寝てしまうなんて…花嫁失格ですよ」
「はい…」
しっかりとフウカさんに怒られてしまった。
フウカさんは、せっかくの同じ布団での睡眠…添い寝が出来なかったことに、フウカさんは怒っている。
しかも、夢の中に入ってきて、いったんはそのことを黙って、いざ私がその話題を出したら、一気に爆発させるのお芸術点が高い。
「あの…私の事、起こしてもらえます?」
「いいですよ。サユリさんが明日学校に遅刻してもよろしいのなら」
遅刻…それは困るけど、ここで埋め合わせをしないと後が怖い。
私が首を縦に振ると、フウカさんは微笑みながら私の夢の世界から消える。
その直後、突然頭の中に響くようなフウカさんの声が聞こえ、一気に体がだるくなる。
「…ああ、なんだか体に重りをつけられたかのような気分…」
「精神世界からいきなり現実に戻ってくると、よくある現象ですね」
夢の世界から帰ってきた私は、ほの暗い部屋で私の事を見つめるフウカさんと話す。
さて、とりあえず目覚めたわけだけど…どうしよう?
「何しますか?フウカさん」
「私は、一緒に横になるだけでいいですよ」
「それをするとまた寝てしまいそうで…」
何かやっていないと、私はまたすぐに寝てしまいそうだ。
でも何をしよう?
夫婦が夜中に同じ布団ですること…駄目だ、邪な考えしか浮かんでこない。
夫婦で考えるかあらダメなんだ。
カップルがやってそうな事…ちょっと古いけど、愛してるゲームとか?
「愛してるゲームなんてどう?」
「愛してるげぃむ、ですか?なんでしょう?」
「恋人同士の片方が『愛してる』って言うんです。そして、もう片方が『もう一回』って言います。それを繰り返して、先に恥ずかしがった方が負けの遊びですよ」
このゲームは、別にやろうと思えばカップルじゃなくてもできる。
友達とやった事あるけど、今のところ私は常勝無敗。
ましてやフウカさん相手なら負ける気がしないけど…物は試しだ。
「いいですね。それをしましょう」
「じゃあ…『愛してる』」
「ッ!!」
「…私の勝ちですね」
…予想通り、一発目で私の勝ちだ。
囁くような、甘~い声でそう言ってやれば、私に好意を抱いている相手はイチコロ。
コレのせいで、ちょっと面倒なことになった経験があるくらいには自信がある。
フウカさんは、分かりやすいくらい真っ赤になって、顔を両手で隠して悶えている。
「大丈夫?無理ならおしまいにするけど…」
「…いいえ。まだです!!」
フウカさんは顔を上げ、決意に満ち溢れた表情を浮かべた。
そして、再選を挑んでくる。
「愛してる」
「ッ!!…ま、まだです!」
「愛してる」
「ひぅ……ま、まだまだ!」
「愛してる」
「~ッ!!」
「駄目そうだね」
何度も負けて挑戦してくるが、悉く一回目で撃沈。
顔から蒸気が出そうになっている。
「わ、私が言います!それなら勝てるはず…!」
「いいよ。まあ、負けるとは思えないけど」
「じゃ、じゃあ…『愛してる』…っ!」
「すぅ…『もう一回♡』」
「~ッ!!?」
囁くような声に、またもやフウカさんは一発で撃沈。
その後も懲りずに何度も挑んできたが…まるで勝てず、気づけば朝になっていた。
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