第9話 お世話
「あらあら…珍しい状態ですね」
「あっ、フウカさん」
眠ってしまった事で、フウカさんが夢の世界に現れた。
…この人暇なのかな?
まあ、何か仕事してるわけじゃないだろうし、暇なんだろうっ!?
「イタタタッ!?」
「私に隠し事はできませんよ。プンプン!」
「べ、別にいいじゃないですか…!どうせフウカさんは何も仕事してないんでしょ?」
「それは…まあ」
…やっぱりフウカさんは無職だった。
しかし、その事を指摘したり馬鹿にすると怒られる。
今みたいに、頬を抓られてね…
「それはそうと、ちょっと面倒なことになりましたね」
「何がですか?」
「…まあ、サユリさんはわからなくて当然ですね。あなたは霊力すら感じられないのですから」
「…?」
何かあった事は間違いない。
でもそれは、フウカさんや木仙さんが持っている特別な能力の話で、私にはわからないことのようだ。
「不思議なこともあるものですね。まさか、結果的には使えなかったとは言え、人間のサユリさんが神通力を使えたとは…」
「神通力…?」
「私たちの持つ特殊な力です。今使っている、夢の世界へ入る力や、心を読む力、後はばあやがよく使う転移の力ですね」
フウカさんたちの不思議な力は、神通力と言うらしい。
そして、それは本来人間では使えないモノのようだけど…私はそれを使ったらしい。
…そんな覚え無いけど。
「無自覚、ですか……間違いなく人間のはずですが、あなたはかなり特殊なようですね」
「あの…もしかして、何かよくない事が…?」
「いえいえ。何も心配することはありませんよ。怖がらせてしまって、申し訳ないです…」
フウカさんは、そう言いながらお社の奥から布団を引っ張ってきて、私にそこに寝転がるよう言ってきた。
そうして、横になったわたしの頭と胸に手を置き、何かをしている。
何処かくすぐったくて、体を動かしたくなるけれど、強い意志で必死に堪えていると、こんな事を言われた。
「精密に調べたいので、サユリさんには眠ってもらいますね」
「はい?」
「今のサユリさんは、体は眠っていますが、精神が起きています。なので、精神にも眠ってもらって、しっかりと休んでもらおうと思います」
「なる、ほど…?」
よくわからないけど…アレかな?
レム睡眠とノンレム睡眠ってやつ。
どっちが深い眠りだか忘れたけど…これから私は夢を見ない方の深い睡眠を取るらしい。
…もしかして、最近私全然眠れてなかった?
「では、おやすみなさい」
「おやすみなさ〜い」
そう言って目をつむると、確かに意識が深い深い眠りについたような気がした。
◆
「眠ったようじゃの?」
「ええ。では、検査を始めましょうか」
私はサユリさんの精神の奥深く…魂に触れるように神通力を使う。
こうする事で、その人物が持つ力を知ることができる。
人間は本来神通力を使えない。
だから、私たちに対抗すべく陰陽術や様々な呪術、或いは降霊術などを発明し、私達に対抗してきたそう。
「あの時、間違いなくサユリ様は読心の神通力を使いかけていた。陰陽術による贋作ではなく、本物の神通力。我の目は誤魔化せません」
「ばあや。別にあなたの目を疑っているわけではありませんよ。ただ…にわかには信じられないだけ、で…」
「…フウカ様?どうなさいました?」
サユリさんの魂に触れ、彼女の核心を見た私は固まってしまった。
そして同時に――恐怖した。
「……ばあや」
「なんでしょう?」
「…人間の…それこそ20歳にもならない小娘が…我々妖狐族を……ひいては、霊界に住まうどの種族よりも遥かに多い霊力を持つ事は可能ですか?」
私がそう尋ねると、ばあやは押し黙る。
そして、その長い年月を生きた経験からかなり始めた。
「…霊力とは、その生きた年数が多ければ多いほど増えるもの。外部から与えられる等の干渉がなければ、それはありえない事でしょう」
「そうですよね…」
「フウカ様。あなたは何を見られたのですか?」
そう聞いてくるばあやに、私は手を伸ばして答える。
私の手を取ったばあやは、私が見ているものを共有され、絶句した。
「馬鹿な…この霊力は…我の10倍はあるぞ…」
「ばあやの10倍…それはつまり、サユリさんは私の50倍の霊力を若くして持っていると言うことですか…」
…彼女に一目惚れをし、すぐに婚姻を申し込めた理由。
なんとなく、わかった気がした。
「…私も、乙女ということですね」
「血には抗えませんな…惜しむらくはサユリ様が女性であること。男性であれば、お世継ぎを残せたと言うのに…」
「ばあや。その話はナシだと言ったではありませんか」
「ですが…」
確かに、サユリさんが男性であれば私が子を残し、それが男の子供であれば世継ぎにできたかもしれない。
けれど、私はそんな事のためにサユリさんを選んだわけじゃない。
「この先、同じことが起こらぬよう、一度安定するまでお世話が必要かもしれませんね」
「そうですな。では、偽物と入れ替えておいましょう。我にお任せあれ」
「頼みます。ばあや」
私とばあやはサユリさんの夢の世界から抜け出すと、サユリさんを迎え入れる準備を開始した。
使用人の1人にサユリさんと入れ替わってもらい、彼女の記憶を送ることで、数日の間彼女のフリをしてもらう。
誰もいない隙を見計らってすり替え、私は自分の部屋の布団にサユリさんを寝かせた。
◆
「う〜ん…?」
目が覚めると、見慣れない天井が見えた。
見間違いか、寝ぼけているのかと目を瞑ってもう一度見ても、同じ天井。
体を起こして辺りを見回すと、見覚えのある部屋に居た。
「お目覚めでしょうか?」
「うわぁっ!?」
突然後ろから話しかけられ、私は思わず飛び跳ねてしまう。
恐る恐る振り返ると、狐の耳と尻尾の生えた女性が、正座していた。
「花姫様をお呼びしますので、もう少々横になられていてください」
「は、はい…」
冷静にそう言って、女性は部屋を出ていった。
やがて、フウカさんが部屋に駆け込んで来て、私に抱きついてくる。
「おはようございます!サユリさん!」
「お、おはようございます…」
何処か嬉しそうなフウカさん。
尻尾が千切れそうなほど勢いよく揺れてるから、扇風機の前に立っているような風を感じる…
「思っていたよりも早いお目覚めですね。もしかして、私が恋しかったんですか?」
「さぁ…?」
「むっ…そこは冗談や嘘でも、『そうですよ』って言っていただけれ――ふにゃっ!?」
「フウカ様。我は何度あなたに注意をすればいいのですかな?廊下を走るな、と…」
遅れて部屋にやってきた木仙さんが、フウカさんの頭を叩く。
まあ…お姫様が廊下を走るのは、確かにはしたないね…
「さてサユリ様。あなたは本当に本当に…知れば知るほどフウカ様があなたを選ばれた理由がわかる人間じゃ」
「…はい?」
「まあ…詳しい話をすればすぐに話が右から左へ流れていくであろう。詳細は省くが…これから数日、サユリ様はここで面倒を見ることになったのじゃ」
「……はい?」
…もうすでに
本当にこの人たちは話をいきなり進めるんだから…
にしても、このお屋敷で私の面倒を見るって…しばらくお世話になるって事?
でも、それじゃ学校や家は…
「安心してほしい。すでに人間界には身代わりを送ってある。サユリ様に化け、サユリ様のフリをしておるのじゃ」
「じゃあ、とりあえずあっちは問題ないと……それで、どうして私はここでお世話になることに?」
「そうじゃな…フウカ様から話はある程度聞いておろう。サユリ様は人には過ぎた力を使おうとしてしまった。その結果、尋常ならざる負荷が幼い体に掛かってしまったのじゃ」
「幼くないよ…?」
私は木仙さんのとある言葉が引っかかった。
確かにまだ子供だけど、幼くはないよ?
というか、その幼いってフウカさんや木仙さんから見てだよね?
私、人間からみたら全然幼くないよ。
…まあ、そんなバカな話は良いとして。
多分、私が神通力を使った話だろう。
やっぱり、アレが良くなかったのか。
でも、私自身神通力を使った自覚なんて微塵もないし、何もできなかったと思うけどなぁ。
「まあ、そうでしょうな。自覚する前に体が壊れてしまったからの」
「体が壊れた…?」
「ええ。我が掛けた眠気を飛ばす力がなんとか最悪の事態を防いだとは言え…今のサユリ様は、一歩間違えれば死んでいる状態」
「えっ!?」
思わあず飛び上がりそうになった私の体を、フウカさんが抑える。
フウカさんの顔を見ると、首を横に振っている。
動くなって事か…
「そんなに酷いんですか?」
「ええ。サユリ様は神通力に関してはまだまだ子供。そんな子供に、高難易度の神通力である読心の神通力はあまりにも無理があるからの。神通力が使えるほどの力はあっても、それを扱える基礎が出来ていないのじゃ」
「…例えるなら?」
「そうじゃな…生まれて初めて口にしたものが、蒸留酒のようなものじゃな!」
「な、なるほど…」
た、確かに酷いや…
どうしようかな…私の体、大丈夫だよね?
「何、気にする事は無いぞ。ここでフウカ様と我が面倒を見ているうちは、少なくとも安全じゃ」
「そうですよ。私達に任せてください!」
「こ、心強い…!」
2人が私の事を守ってくれるようだ。
この2人なら何とかしてくれるって信頼を、私は感じてる。
そして、家や学校は二人の部下が何とかしてるみたいだし…こっちでゆっくりしよう。
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