第27話 心の変化
フウカさんが家に泊まった日から1週間。
「…どうしたの?そんなにボーッとして」
「え?…あ、あはは」
「何かあった?相談に乗るよ」
「いや、大丈夫だよ。大したことじゃないから」
少しボーッとしていたせいで2人に心配されてしまった。
…あの日以来、フウカさんは会いに来ない。
木仙さんも音沙汰無し。
私の方から念話をしようとしても、何も聞こえない。
いつもなら、常に私の事を意識しているから、私が呼びかけたらいつでも念話を繋いでくれるフウカさん。
でも、いくら呼びかけても返事が来ない。
こんな事なら、木仙さんに念話の使い方を教えてもらえばよかった。
「もしかして、彼氏と何かあった?」
「……うん」
「えっ!?じょ、冗談のつもりだったんだけど…」
「いや、単に連絡が取れないってだけだよ。でも、心配だなぁって」
フウカさんの事だし、私のことを嫌いになったなんてことは無いだろう。
それに、万が一そんな事があれば、今私の鞄の中にある鏡を回収しないはずが無い。
だから…何かあっちであったのかな?
「…会いに行ったら怒られると思う?」
「いいんじゃない?忙しいなら話は別かもしれないけど…来てくれるなら喜んてくれると思うよ」
「そうなのかなぁ…」
鏡を使えばフウカさんに会える。
でも、会いに行っていいのかな?
何かあったなら、あっちにはあんまり行かないほうが…
いや、でもなんの連絡も無いのはおかしい。
一回、会いに行ってみよう。
そう心に決め、いつも通り過ごして放課後…
「よし!行こう!」
普段着に着替えて鏡を使う。
いつも通り浮遊感と景色が揺らぎ、気付けば見知らぬ場所に居た。
「…あれ?」
私はフウカさんの屋敷に行こうとしたはず。
でもここは…草原?
いや、山と雲しか見えないし、なんだったら自分がいる位置よりも低い所に雲がある。
…天国?
「何者だ?」
「ひうっ!?」
突然後ろから声をかけられて驚いて飛び跳ねる。
振り向こうとすると、突然肩に硬くて冷たい物が置かれた。
…それは、槍の先のようなものだった。
「人間か?しかし人間ごときが……ん?」
声の主は何かに気付いた様子。
…まさか――
「境界の鏡だと…?だがそれはあの忌まわしい獣に奪われていたはず…」
「………し、失礼しましたぁー!!!」
「なっ!?待たんか小娘!!」
私は急いで鏡を使って逃げる。
家…に逃げると家を特定されるかもだから、昔旅行で行った神奈川県の港に逃げる。
…なんとなく思いついた場所がそこだったからね。
「……ふぅ…危なかった」
「ああ、驚いたさ。まさか人間ごときに鏡が使えるとはな」
「えっ!?」
振り返ると、そこにはまるで昔の侍のような格好の男性が居た。
人間界まで追いかけてきたんだ…私のことを。
「さ、さようなら!」
また鏡を使う。
今度は小学校の頃に行った山だ。
街を一望できて中々にお気に入りの場所。
「ふむ、絶景だな」
「ええっ!?」
またその男性が居た。
急いで次の場所へ逃げる。
今度は中学生の修学旅行で行った奈良公園。
鹿が怖くて逃げ回っていた覚えがある。
「ふっ…うい奴め」
「わわっ!」
男性は妙に懐いている鹿の顎を撫でていた。
次の場所!
次に転移したのはつい去年に行ったスキー場。
ここなら流石に……
「いい眺めだ」
「……なんで?」
やっぱり男性は付いてきていた。
しかもなんか楽しそうだし。
「なんだ?人間界の観光は終わりか?狐の嫁」
「っ!?」
男性は退屈そうにとんでもない事をしれっと言った。
私の正体がバレてる…
「大方、接触禁止を食らって会いに来れなくなったあの姫に会いに行きたいと言った所だろう。不審物を持っていないか調べる。そのまま動くな」
そう言って、私の体をじーっと見つめる男性。
何をしてるのか分かんないけど…何か検査してるんだと思う。
すぐに検査は終わり、私の肩に手を置く男性。
「不審物は無いようだ。ならば問題はあるまい。日が暮れる前には帰ることだ。それ以上となると強制送還せねばならん」
「は、はい」
「では、行ってよし!」
そう言って、男性は転移を使って何処かに消えてしまった。
私もすぐに鏡を使うと…何事もなくフウカさんの屋敷に転移することが出来た。
「はっはっはっ!傑作ですなフウカ様!」
「ええ。まさかこれ程面白い話が聞けるとは」
「むぅ…私は本気で焦ったんだよ!」
フウカさんと木仙さんにさっきの話をすると、それはそれは盛大に笑われた。
木仙さんなんか笑い転げて床に倒れてるし。
「天界の守り人を相手に鬼ごっことは…流石はサユリさんですね」
「好きでそんな事してません!」
「じゃが、何度も転移して逃げ回ったのじゃろう?紐をつけられているとも知らずに」
「え?……あっ!」
「くっくっくっ…ようやく気付いた様じゃない」
「ええ。本当に…笑いをこらえるのが大変でしたよ」
「わ、私の事騙したなぁ〜!!」
よく見ると、袖のボタンに切れた紐が付いている。
この紐があの男性に繋がっていて、手を繋いでいるような状態になってたんだ…
その事に気付かず、私は男性を連れて日本旅行を…
「ひぃ~…ひぃ~……こんなに笑ったのはいつぶりでしょうな?」
「ばあやがこれ程声を上げて笑うのは本当に久し振りですね。貴重な体験ですよ?」
「……嬉しくない」
頬を膨らませてそっぽを向くと、また木仙さんに笑われた。
まあ、フウカさんは私の機嫌を取ろうとしてくれたから許す。
でも、木仙さんは許さない。
「しかし、よくこちらに来れましたね」
「どういうこと?」
「天界の守り人がそれほど寛大な措置をとるとは…私達は人間界に行けないように監視されているというのに」
「…もしかして会いに来てくれなかった理由って…」
「ええ。私達の方からの接触を制限されていたからですね。どうやら前々から目を付けられていたようですが、私が勝手に人間界へ訪れたことでついに交流を制限されてしまいまして…」
なるほど…その制限には夢の世界での交流や念話なんかも含まれてて、全然会いに来てくれなかったんだね。
「その点、不審物を持っていないかの確認だけで済んだサユリさんはすごい、という話です」
「ふ~ん…」
「にしても、わざわざこちらに来るという事は…もしかして私が恋しかったんですか?」
「そ、そんな事は…」
「ふふっ…私に嘘がつけるとでも?」
…フウカさんはお見通しのようだ。
嘘はつけないね。
「…大した時間一緒に居たわけでも、なにかときめくような事があった訳でもないのに…今はフウカさんがいないと寂しくて…不安になるんです。私に何か暗示を掛けました?」
「いいえ。どうやら、私達は相性がよかったようですね」
木仙さんの方を見て確認をする。
木仙さんはフウカさんの言葉に首を縦に振っているから、嘘ではないみたい。
……なら、この気持ちは嘘や偽りじゃないって事だ。
「私、多分フウカさんの事が…」
そこまで言って、言葉が詰まった。
しかし、フウカさんはそれを受け入れて私を優しく抱きしめてくれる。
私は…それをしてもらって急に心が熱くなった。
自分にも、フウカさんにも嘘はつけないね。
私は自分からフウカさんに抱き着き、心の中でお思いを伝えた。
きっとフウカさんは私の心を読んで、私の思いが伝わっているはず。
その事に満足していた私は、手の甲で輝いている婚姻の証に気付くことはなかった。
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