第28話 カミングアウト
門限が近付いたので鏡を使って家に帰ってきた私。
しばらくして、お父さんとお母さんが帰ってきた。
晩御飯が始まり、テレビを見ながらご飯を食べていた私は、意を決してテレビを消す。
「どうした?嫌いな内容の番組だったか?」
いきなり私がテレビを消した事でお父さんが心配してくれる。
心配は嬉しいけど、こっちは本気だからね。
真剣な表情を作って、お父さんとお母さんを見る。
「……お父さんとお母さんに紹介したい人が居るの」
「………母さん」
「ええ。ついに、その時が来たのね」
私の言葉に、2人は覚悟を決めた顔を見せてくれた。
…娘がついに彼氏を連れてきたとか、そんな事を考えてるのかもしれないけど…そんな次元じゃないからね。
「私…信じられないかもだけど……結婚したの」
「そうよね。あなたもそう言う年頃……なんて?」
「……ん?今なんて言った?」
突然の告白に頭が追いつかないお父さんとお母さん。
まあ、いきなり結婚したって言っても伝わらないか。
私は、今日この時の為に練習した事の成果を活かし、手の甲を2人に見せる。
そして、そこにある婚姻の証を輝かせて見せた。
「これは、婚約を誓った事を示す証。妖狐族の姫、フウカさんと婚姻を結んだ証なんだよ」
「「………」」
2人とも口をポカーンと開けて固まっている。
…狐につままれたってのは、こう言うことを言うんだろうね。
少しして、現実に戻ってきた2人が少し怒ったような顔を見せる。
「沙友理。そう言う冗談はよしなさい。お母さんもお父さんもビックリしたじゃない」
「だいたい、その入れ墨?はなんだ?今日入れてきたのか?」
「お父さん。流石にペンか何かで描いたものよ。入れ墨なんてお金がかかるもの、いつ入れるのよ」
「それもそうか…とにかく、下らない事をするな」
…まあ、理解はしてもらえないか。
さて…こうなったらやるしかないね。
ホントは嫌だったんだけど…仕方ない。
「冗談でも嘘でもないよ。……お願いします」
私がそう言うと、ドアや窓は全て閉まっているのに風が吹き、急に部屋が妙に暗くなり、私の前に狐火が現れた。
「な、なんだ!?」
「ひっ!人魂!?」
「狐火だよ。…まあ、似たようなものだけど」
演出だと分かってるとなんにも怖くないけど…何も知らないお父さんとお母さんからすれば恐怖だろうね。
事実、かなり怖がってる。
立ち上がって後ずさるお父さん。
腰を抜かして椅子から崩れ落ちたお母さん。
…大の大人がそこまで怖がらなくたって良いのに。
全く、2人とも怖がりなんだから。
そんなことを考えていると、狐火の勢いが強くなり、私の影がくっきりと壁に映る。
その影は次第に形を変え、私のものではなく、化け物のようなものへと姿が変わっていく。
最終的に巨大な狐のような姿になり、その影から真っ黒な手が伸びてきた。
「ひっ…!」
「沙友理!逃げなさい!!」
「悪いものじゃないから大丈夫だよ。大袈裟だなぁ…」
本気で怯えるお母さんと、怖がりながらも私に逃げるよう促すお父さん。
その大袈裟な反応に笑っていると、後ろから抱き着かれた。
「もう…抱き着く必要無いじゃん。どうせ今は影でしかこっちに来れないんだから」
私に抱き着いてきたのは、フウカさん。
正確には、フウカさんが操っている、フウカさんの形をした影、だけどね。
影で抱き着くのと、実際に抱き着くのとでは大きく違うはず。
実際に抱き着いた方が何倍も良いのにね。
しかし、私に抱き着いて離れないフウカさん。
もう…アピールし過ぎは誤解を招くって言ってたのに…まあいいや。
これだけイチャイチャしてたら2人も分かってくれるはず。
そう思ってお父さんとお母さんの方を見ると…
「沙友理から…離れろ化け物!!!」
「うわっ!?」
お父さんが血相を変えて私に突撃してくると、影のフウカさんを突き飛ばした。
フウカさんと言えど、ただの影。
何もできず突き飛ばされ、影はまるで水風船のように弾けて消えてしまった。
「沙友理!大丈夫か!」
お父さんは汗だくな顔で私の肩を掴み、激しく揺らす。
頭がグワングワンなって気持ち悪い。
「お、お父さん!落ち着いて!」
私が叫ぶが、お父さんはまるで落ち着いてくれない。
「落ち着いて居られるか!すぐに寺に連れて行ってやる!母さん!!」
「え、ええ!」
変なことを言い出して、二人がかりで私を家から引きずり出して強引に車に乗せられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます