第17話 帰宅
「お世話になりました」
検査の結果、どこにも異常がなかった私は、家に帰ることが出来るようになった。
木仙さんが持ってきてくれた服に着替え、いきなり服装が変わって驚かれ何用にした後、木仙さんのところにやってくる。
そして、頭を下げた。
「しっかり挨拶できることはいい事じゃが…」
「フウカさんの事ですか?あれは…まあ、また今度何とかします」
私が帰ることになって、フウカさんがへそを曲げてしまった。
私が話かけてもそっぽを向くばかりで、話にならない。
頬を膨らませてぷりぷり怒る姿はとても、大人とは思えない幼さがあり、とってもかわいい。
昨日フウカさんに夢の中でさえずっと抱きしめられていた時の、フウカさんの気持ちが分かるくらいにはかわいい。
「しかしのぅ…フウカ様があの調子では何を言い出すか」
「何かあるんですか?」
「強引に攫ってきて監禁されたり、何か契約を結ばされたり…」
「もうどっちもやられてるので問題ないですよ」
「確かに…」
会えないことを悲しんで私の事を攫おうとしてくることも、変な契約を結ばせることも今更だ。
だってもうどっちも経験してるし。
ならもう別に怖くない。
「それに、むしろ行方不明って事にしてずっとこっちに居ていいんですよ?帰りたいときは木仙さんに送ってもらうつもりなので」
「簡単に言ってくれるのぅ…しかし、こちらに永住するとなると、それも難しくなるぞ?」
「え?」
永住すると、人間界に戻るのが難しくなる?
なんで?
「前にフウカ様から聞いたと思うのじゃが、人間界と霊界の行き来には制限が掛かっておる。今は『妖狐族と契約を結び、遊びに来ている』程度であるがゆえに我が自由に連れてこれるが…」
「永住するとなると、年に数回の里帰りくらいじゃないと帰れない、って事ですか?」
「そうじゃ。霊界の住人になるのじゃから、当然人間界に行ってはならない。我々に設けられている制限が適応されるようになってしまう」
…イメージ的にはお盆とかハロウィンみたいなものかな?
ご先祖様が帰ってくるくらいの時期じゃないと、人間界に――家に帰れない。
「何とかして自由に行き来する方法とか…」
「そんなものはない。自由に行き来できる存在は、霊界にも人間界にも大きな影響を与える者じゃ。サユリ様のような人間にそんなことが出来るとは…待てよ?」
「?」
木仙さんは何か心当たりがあるのか、顎に手を当てて何かぶつぶつしゃべっている。
そして、「少し待て」と言って姿を消すと、変わった手鏡を持ってきて、それを渡してくる。
「転移の力の籠った鏡じゃ。使えば好きな場所、思い描く場所へ行けるが…ふつうはまともに使えん」
「そんな物貰っても…」
「まあまあ。サユリ様なら使えよう。受け取るのじゃ」
「はぁ…?」
半ば強引に渡された手鏡を受け取ると、ポンポンと肩を叩かれた。
「フウカ様に呼ばれた時はそれを使うとよい。最近、人間界に行きすぎて目をつけられておるからの。そう易々と人間界に行けんのじゃ」
「すいません…私のせいで…」
「サユリ様が謝る事ではない。もとはと言えばフウカ様が悪いのじゃからな」
後ろでへそ曲げているフウカさんを指さし笑う。
そのせいで更にフウカさんがへそを曲げてしまったように見えるけど…まあ、木仙さんにご機嫌取りを頑張ってもらおう。
…まあでも、お手伝いくらいはしてあげないとね。
私は、フウカさんの前までやってくると、じっとフウカさんの顔を見つめる。
「…なんでしょうか?」
私に見つめられて、少し顔を赤くしながら冷たい反応を見せるフウカさん。
そんなフウカさんの顔を両手で挟んで無理矢理こっちを向かせると…
「んぐっ!?」
ちょっと乱暴に、勢いよく唇を重ね、キスをする。
フウカさんは驚きが勝っているようで、目を見開いて固まっている。
唇を離すと、まだ固まって上の空なフウカさんに小悪魔のような笑みを見せると…
「また今夜」
そう言って木仙さんの元に戻ってくる。
「なかなかやるではないか…」
「ふふっ…そうでもないですよ」
木仙さんに褒められた。
ちらっとフウカさんを見ると、まだポカーンとしていて、現実を受け止め切れていない様子。
フウカさんはよく私の事を可愛いというけれど、フウカさんもとても可愛い。
そんな可愛いフウカさんから目をそらすと、木仙さんに家まで送ってもらった。
家に帰ってきた私は、まるで重病人の介護のような待遇を受けた。
どうやら疲れがたまりすぎて倒れたということになってたらしく、常に誰かがつきまとってくる。
学校でもずっと付きまとわれて逆に落ち着かない。
でも、やっぱり慣れた場所は安心するもので、誰かに付きまとわれる生活も…あのお屋敷よりはリラックスできた気がする。
「」
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