第18話 人間界での日常

「サユリ〜。無理しないでよ?」

「もう…大丈夫って何度も言ってるじゃん!」

「でもねぇ〜?あなたには前科があるからねぇ〜?」

「うぐっ…」


今日の授業には体育があり、その内容はテニス。

うちのクラスは、どういう訳かテニスが上手、或いは中学時代テニス部だったという人が多く、もちろんテニスの授業は白熱する。

男女関係なく試合をするこの授業は、やってることが体育の授業のレベルじゃない。


みんな汗まみれになるんだけど…私は倒れられたら困ると言うことで、無理矢理審判を押し付けられている。


そんな私をイジるために…後は、私がこっそり試合に参加しないようにと、ミズキとタマキが常に隣にいる。

2人は試合に参加しないのかって聞いたら、交代で試合をしていて、成績の心配は無いんだとか?


まあ、それはそうとして…


「ずっと審判なんて面白くないよ〜」

「私かタマキが相手なら良いよって、先生言ってたよ?」

「それだとめちゃくちゃ手加減されて面白くない!」


体育の授業中に倒れるなんて事になったら相当面倒くさいのか、事実上試合への参加が認められていない。

それだと成績がもらえないじゃん、と思ったけれど、何もしてなくてもやってるのと同じ成績がもらえるらしい。


そんなの不公平だと思ったけれど、クラスメイト全員が『華宮さんは休んでてて』と口を揃える。

ここまで来るともはやイジメに近い気がするのは私だけかな?


「これじゃあまだあっちに居たほうが楽しいよぉ…」

「あっち…?」

「ああ。ミズキ達には関係ないから大丈夫」


フウカさんのお屋敷での暮らし。

正直、することが無くて困ったことが多々あったけど、あそこには確かなお話の相手、フウカさんがいる。

…まあ、今も隣にミズキとタマキが居るからいつでも話せるけどさ?


「見てるだけのテニスとか面白くないよ…」

「はいはい。また来年やればいいじゃん?」

「来年って……私居るのかな?ボソッ」

「ん?何か言った?」

「いや、なんでもないよ」


もしかしたら、来年には学校をやめて家を出て、フウカさんの屋敷に住んでいるかもしれない。

長い時間を生きるフウカさんからすれば、1年はなんでもない時間かもしれないけれど、いつ本格的に同棲しようって言われるかわからない。

もしかしたら、明日にでも……ん?


「あれ?あのシルエットって…」

「ん?どうかしたの?サユリ――「あぶなーい!!」――っ!?」


ふと学校の外を見て目に入った人影につられ、少し動いたその時――


誰かが叫んで警告してきた。

反射的にその方向を見ると、すぐ目の前までボールが飛んできている。

避けられない。

腕が腫れることを承知で咄嗟に手を出すと…


『全く。危機感が足りんの』


頭の中で木仙さんの声が響き、テニスボールが私の手の中に収まる。


「…あれ?」

「うおぉ…」

「まじか…」


恐る恐る手の中のテニスボールを見ると、何やら紫色のモヤがかかっているように見える。

しかし、すぐにそれは消えてしまった。

…木仙さんの神通力かな?


「サユリ!大丈夫!?」

「う、うん。私は平気」

「手とか大丈夫!?ケガしてない?」

「うまくキャッチ出来たのか、無傷だよ」


…実際は、当たる直前に木仙さんがなんとかしてくれたおかげで、勢いがほぼ死んでいたから、ケガしてないだけなんだけど…


とにかく、私は無事だという事を伝えると先生に呼び出されて、『試合中コート周辺をうろつくな』と、怒られてしまった。

そして、ミズキとタマキからも『余所見して歩かないで』と叱られた。


…幻聴かもしれないけれど、フウカさんの笑い声が聞こえた気がする。

もしかしたら、フウカさんがこっちの世界に……いや、それは無いか。

フウカさんはこっちに来るのが難しいって言ってたもんね。


私は頭の中からフウカさんと木仙さんの事を追い出すと、審判の仕事を再開することにした。







「そして、ここにX=3を代入すると―――」


体育が終わり、疲れた中での数学の授業。

私は全く運動してないから何ともないけど…何にかは眠そうだ。

まあ、私も暇で眠たいから似たようなもの。

なんとか起きようとするのと、この退屈な時間から目を逸らそうと窓の外を見ると…


「……えっ!?」

「ん?どうした華宮」

「あっ…そ、その…なんでもないです」


突然大きな声を出したから、クラス中の視線が私に集まる。

なんでもないと言って授業を再開してもらうと、もう一度窓の外…グラウンドを見て目を見開く。


(な、なんでここにフウカさんが…!?)


誰も使っていない広いグラウンドに、フウカさんと木仙さんが立っている。

フウカさんは私に手を振っていて、明らかに私の事を認識している。


(聞こえますか?聞こえますか?)

『はい。もちろん聞こえてますよ?』

(良かった…えっと、どうしてこんなところにフウカさんが?)

『ばあやに頼んで連れてきてもらいました!』

『全く。フウカ様の奔放な性格には困ったものじゃ』


念話でフウカさん達と話す。

念話で会話するのももう慣れたもので、普通に会話ができる。


(確か、フウカさんがこっちに来るには面倒な手続きが必要なんじゃ…)

『気付かれなければそんな手続き必要ありません』

(そんなバレなきゃ犯罪じゃないみたいな…)


どうやらフウカさんは決まりを破ってこっちに来ているよう。

本当に大丈夫なのか心配しながら…先生にバレないようにこっそり念話を続けた。

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