第19話 人間界と狐の姫
放課後
ミズキとタマキをなんとか説得して一人で帰ることに成功した私は、鏡を使って一瞬で家に帰ると、すぐに着替えてまた鏡を使う。
「短時間で2度も鏡を使うとは…末恐ろしいな」
「恐ろしいって…渡したのは木仙さんじゃないですか?」
「そうじゃがの…普通の人間が使えば、今の2回で死んでおったぞ?」
「…まじ?」
た、たった2回鏡を使っただけで?
そんなはずはないよ…確かに、鏡を使ったあとはちょっと気分が悪くなるけど…何回かグルグル回って、目が回るくらいの気分の悪さだよ?
「境界の鏡を使って目が回る程度の気持ち悪さ、ですか…」
「え?うん…でも、本当にちょっとクラってするだけだよ?」
「流石ですね…」
何処かフウカさんに引かれているような気がするのは気のせいだろうか?
「まあいいです。それよりも、人間界の美味しい物を沢山食べたいんです!」
「美味しい物、ですか…ちなみにお金は?」
「我が用意した。心配することはないぞ?人間界にも、つてはあるのじゃ」
「流石は3000年生きるバ―――凄い妖狐ですね!」
「今、我のことをババア呼ばわりにしたな?我の耳は誤魔化せんぞ?」
口を滑らせてしまって、木仙さんに怒られる。
まあ、それは良いとして…人間界にもその影響力を持つ木仙さんは、私が思っているよりもすごい人なんだって改めて感じた。
まあ、それはともかく美味しい物をか…何が良いかな?
「この辺りで美味しい物…コンビニかな?」
「コンビニ…?」
「あー、分かりやすく言うと…日本全国何処にでもある小さなお店で、ちょっとお腹が空いた時や外出先で何か食べ物を買う時に役に立つお店だよ」
うちの周りには、料理の店がない。
だから、コンビニが一番簡単においしいものを食べられる場所だ。
…ただその前に。
「先に木仙さんが持っているお金を見せてもらえませんか?」
「ん?ああ、コレの事かの?」
そう言って木仙さんが取り出したお金は…金色に輝いていた。
「…あの、これは?」
「この国の貨幣じゃろ?沢山持っておるぞ」
「…これ、全部本物…?」
私はこの貨幣を教科書で見たことがある。
…主に歴史の教科書で。
「小判…?しかもこれって、まだ金の純度が高い頃の…」
中学生時代。
歴史にドハマりした時期があり、そのころに色々勉強した甲斐あって、人より知識が多い。
だから、この小判が金の純度が高い頃の小判ということに気が付いた。
「かなりの大金と聞いたが…どの程度使えるのかの?」
「そうですね…確か小判は6gくらいのはずだから、6万円くらいか。これ一枚で、庶民が行く高級店で10人以上の人が十分に食べられると思いますよ」
「ほう。なら問題ないな」
「ただし…」
「ん?」
そう、この小判の価値を考えればそんなところだろう。
ただ…たった一つ、小判には大きな欠点がある。
その欠点というのは…
「この小判には、さっき言った程度の価値はありますが、今は使えないんです」
「何?」
「これ、2、300年は前のお金なので…」
私がそう言うと、フウカさんと木仙さんは目を見合わせた。
そして、苦笑いを浮かべる。
「たった300年程度で貨幣が使えなくなるとは…人間界と言うのは、不便なものじゃのう」
「そうですね…サユリさんも、苦労してるんですね?」
「はぁ…?」
300年…そう、300年だ。
その時間を、『たった』と言えるあたり、妖狐族と人間の感性はだいぶ違うということがわかる。
「フウカさん達からすればそうかも知れませんが、私達からすれば300年と言うのは国を支配する王家が滅び、新たな体制になるには十分な時間です。木仙さんがその小判を手に入れた時から今の間に、国を支配していた家が滅亡し、新たな体制が生まれたんです」
「そうか…それを我々の時間に置き換えると、理解できるのかもしれんな……」
どうやら木仙さんは理解を示してくれたようで、首を縦に振っている。
しかし、フウカさんはあんまり程度が分からないらしく、いまだに首をかしげている。
とりあえず仕方がないので私が自腹を切ることにして、コンビニへ向かう。
その間、フウカさんは初めて見る現代の人間界に興味津々で、ありとあらゆるものに目を輝かせていた。
「なんか、微笑ましいなぁ」
「そうじゃな。しかし、華野に来た時のサユリ様の表情も凝んなものじゃったぞ?」
「そうなんですか?なら、フウカさんも同じ事を考えてたのかも…」
初めての事に目を輝かせる私とフウカさん。
どちらも相手の事を微笑ましく見ていて、似た者同士。
うん、いいね。夫婦としてうまくやっていけそう。
そんな事を考えていると、一番近いコンビニ到着した。
「これが、サユリ様の言う『こんびに』というやつかの?」
「はい」
「大きなガラスの窓…こちらでは普通だとは知っておるが…」
「恐ろしいですね。人間界の発展というのは…」
コンビニのガラス窓を見てフウカさんと木仙さんはかなり驚いている。
そうか、霊界にはガラスを大量生産するほどの技術がないのか…
「まあまあ、ガラスのの事は後回しにして早くいきますよ」
「ええ、そうです――ッ!?」
私がコンビニに入ろうと自動ドアに近づくと、フウカさんが急に血相を変えて木仙さんの背後に隠れる。
「サユリさん!そこから離れて!!」
「はあ?」
「一切の霊力を感じない…どういうこと?」
「???」
理由は分からないけど、フウカさんが何かを警戒している。
人間界にそんな危険なのもは無いと思うけど…待てよ?
「もしかして、自動ドアに驚いてる?」
「…なんですか?それは」
「コレの事ですよ。この扉、近付くだけで勝手に扉が開くからくりです」
「…そんな事が…すごいですね、人間界は」
そう言いつつも、木仙さんの後ろから出てこないフウカさん。
どうやら得体のしれないモノが怖いようだ。
…ちなみに木仙さんはというと、自動ドアの存在を知っていたのか、すごくニヤニヤしていたけれど…見なかったことにした。
あと、フウカさんの警戒心を解くのに5分くらいかかった。
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