第24話 華宮家でお泊り

ご飯を食べ終わってゆっくりして居ると、フウカさんがふと何か良いことを思いついたと言う顔をした。

…すごく嫌な予感がする。


「今日はサユリさんのお家に泊まりたいです!」

「…そんな事だろうと思った」


凄く名案とでも言いたいような様子のフウカさん。

木仙さんもこれには呆れていて、額に手を当てて溜息をついている。


「泊まるにしても、どんな言い訳をするのじゃフウカ様よ。まさか、サユリ様のご両親に暗示をかけるとは言うまいね?」

「それは…」

「無理なものは無理。諦めるのじゃフウカ様」


流石にお泊まりは駄目らしく、木仙さんが説得を試みている。

…でも、私は知っている。

こういう時のフウカさんは、絶対にあきらめないって。

あの目は…納得してない人の目だ。


「…前にも話したと思うがの?人間界に来るというのなら、それ相応の覚悟が必要じゃ。人間は確かに取るに足りない相手ではあるが、その後ろには『天』がおるのじゃ」

「分かっていますとも…でも、それでも…!」

「駄目なものは駄目じゃ。諦められぬと言うのなら、無理にでも屋敷へ連れ帰る。よく考えるのじゃよフウカ様」


う〜ん…正論。

だけど、そういう人は正論を聞いたところで何ら変わらないんだよね。

絶対に諦めないから。


「…どうしたら私はサユリさんの家に泊まれますか?」

「う〜ん…泊まることは簡単だけど、理由がなぁ…嘘をついてもすぐにバレるし…」

「やはり洗脳するしか…」

「やめてね?お母さんとお父さんに変なことしないで?」


とんでもない事を言い始めるフウカさんをなんとか抑えて、洗脳は諦めてもらう。

…とは言っても、フウカさんは何言っても諦めないだろうし、家に泊めるしか無いんだけど…どうしよう?


「…木仙さんが母親のフリをしたらいけるかな?」

「そんなに上手くいかんじゃろ」

「だよねぇ…」


何かあっては困るから、友達が家に泊まる時、お母さんは必ず相手の親に承諾をもらう。

そこが一番面倒で、心配なところ。

だから、木仙さんに母親のフリをしてもらったらなんとかなると思ったけど…まあ、そんなに上手くいかないか。


「ばあや。私のお母様になってもらえませんか?」

「…仮に失敗したらどうするのじゃ?」

「暗示…」

「駄目じゃ!危険すぎる!」


声を張り上げて怒る木仙さん。

店の中でそんな大声を出すなんて…と思ったけれど、よく見ると薄い水面のような膜があり、周りを見渡すと誰もこちらを見ていない。

音を遮断する神通力でも使ってるのか…


「それ以上ワガママを言うようなら屋敷に連れ帰るしか無いぞ。フウカ様」

「だってぇ…」

「もういい歳なのじゃからいい加減にせんか!」

「痛っ!?」


木仙さんに思いっきりぶっ叩かれるフウカさん。

かなり強い力で叩かれてるみたいだし、結構痛そう。


…なんだったら涙目になってるし、本気で殴られたくらいには痛いのかもね。


「…ばあや、もういいです!行きましょうサユリさん!」

「え?」

「は?」


あんな事をされたからか、へそを曲げてしまったフウカさん。

私の腕を掴むと、涙ぐんだ表情で逃げ出そうとする。

そして、私の持っていた鏡を使って何処かに転移してしまった。








「…つまり、親御さんと喧嘩して家出してきたってことかしら?」

「うん。フウカのお母さんと話してきたけど、お母さんもフウカに帰ってきてほしくないみたいだし…今日だけでいいからうちに泊めてあげられないかな?」


あのあと会計の為に店に戻ったら、木仙さんは不機嫌の絶頂だった。

『もう勝手にしたらいい』と怒っていて、フウカさんのお世話を任された。


そして、フウカさんを放置してお屋敷に帰ってしまったから…もうどうしようもない。


「仕方ないわね。私の方からも連絡しようか?」

「いや、もう任せるって言われたし…」

「そう?じゃあ、上がってもらいましょう」


なんとかお母さんを説得することに成功。

私は隠れていたフウカさんを呼ぶと、お母さんは目を見開いた。


「まぁ…!本当にサユリのお友達なの?」

「なんで?」

「とっても大人びてるからよ。落ち着いた大人の女性って感じ」

「ふふん!」


私のお母さんに褒められて、鼻を高くするフウカさん。


「見た目だけだよ。中身は私よりも子供」

「むぅ〜!」

「ほらね?」

「可愛いわね。狭い家だけど、ゆっくりしていって」


なんとかお母さんを説得することに成功。

これでフウカさんを家に泊められる。

…まあ、これからが大変なんだけどね?


「じゃあ、お風呂入っちゃう?フウカちゃんが一番がいいかな?」

「いや、一緒に入る。私も一緒」

「そうなの?仲が良いのね」


仲が良いどころか、もう結婚してるけどね?

夫婦なんだけどね?


「お風呂沸いてるの?」

「ええ。いつでも入れるわ」

「じゃあ入りたいな。フウカの分のパジャマも用意してくれない?」

「クローゼットから引っ張って来るわ。先にゆっくりお風呂に入ってて」


とりあえずお母さんにフウカさんの分のパジャマも持ってきてもらう事にして、私達は家に上がってお風呂場に直行する。

そしてそこで服を脱がし合って浴室へ入ると…フウカさんはまず目を見開いた。


「コレが人間界の庶民のお風呂ですか…?」

「まあね?小さい?」

「いえ…私が知っているものよりも大きいので」

「そうなんだ?…他に何か気になる事ある?」


他にもないか聞いてみると、フウカさんは下の部分を見回って私の顔を見た。


「…薪をくべる場所はないのてますか?」

「無いね。お湯は別の場所で用意して、あそこにある出っ張りから出てくるんだよ」

「なるほど…」


湯船に張られたお湯に手を入れて、温度を確認するフウカさん。

心做しか背中ががっかりしているように見えるのは気のせいかな?

それとも…


「…もしかして、お湯がぬるかった?」

「はい…」

「…まあ、フウカさんのところが熱すぎるだけだと思うけど…人間界はこれくらいが普通だよ?」

「そうなんですか…」


お屋敷のお風呂は熱かった。

だから、それに慣れているフウカさんはうちのお風呂はぬるく感じるだろうね。

…でも、あんな高温のお風呂に入る人はそうそう居ない。

人間界のお風呂だと、フウカさんは物足りなさを感じちゃうだろうね、何処に行っても。


「お湯を温めてもいいですか?」

「それをすると、お母さんとお父さんがお風呂に入れなくなっちゃうから…」

「むぅ…」


諦めてくれたフウカさんに、まずは頭と体を洗う事を進めると、シャンプー、リンス、ボディーソープの使い方を教えてあげた。

似たような石鹸は霊界にもあるので何となく使い方がわかるらしいフウカさんは、特に困ることなく体と頭を洗った。


「人間界の石鹸は凄いですね…とってもいい香りのお花の香りがします」

「何でもかんでも香りをつけたがるのが人間だからね…フウカさん、匂いは大丈夫?」

「このくらいなら大丈夫ですよ。それでは、お先に湯船に入らせていただきますね」


そう言って、まだ体と頭を洗っている私を置いて、先に湯船に入るフウカさん。

あの湯船はフウカさんにはぬるいだろうし…温まってもらう為にも、先に入ってもらわないとね。


頭を洗い終わった私はシャワーを使って泡を洗い落とすと、リンスで仕上げをして自分も湯船に浸かろうとすると…フウカさんが目を丸くしているのが見えた。


……シャワーか。

…ちょっとイタズラしてみようかな?


フウカさんが驚いている理由を理解した私は、シャワーをフウカさんに向けると、いきなりお湯をかけた。

 

「わわわっ!?」


お湯をかけられてびっくりしたフウカさんは、湯船の中で暴れて盛大に転んでしまう。


「あはは!大丈夫?」

「うぅ〜!許さない!!」

「きゃっ!?」


神通力で、湯船のお湯を一気にぶっかけられてびしょびしょに。

それにお湯がごっそり減ってるし…仕返ししないとね?


「くらえっ!」

「きゃあ!?」


温度を最大まであげたシャワー。

普段フウカさんが入っているお風呂と同じくらいの温度のお湯だけど…怒ってるかな?


「…あったかい」

「え?」

「サユリさん…もう少し近くでお願いします」

「あ、うん…」


シャワーを近付けると、受け取って自分で浴び始めたフウカさん。

その表情はとても心地よさそうで、アツアツのシャワーを堪能している。


…あのシャワー、私は10秒も浴びたら火傷するんじゃないかって思って放しちゃう温度なんだけどなぁ。


そんなことを考えてフウカさんをジト目で見つつ、私も湯船に浸かり今日一日の疲れを落とす。

…しばらくして、シャワーの影響で湯船のお湯が熱くなってきたので、私は先にお風呂を上がった。


やっぱりフウカさんと一緒にお風呂に入るべきじゃないね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る