第5話 玉の輿は大変

「ここは、私が着替える部屋です。そして、その奥に私の服が保管されている部屋があって、毎日使用人が服を選んで着せてくれるんですよ」

「そ、そうですか…ちなみに、あと何部屋くらいありますか?」

「38部屋ですな。すべての部屋を見たいと言ったのはサユリ様。私はお助けしませんぞ」

「そんなぁ…」


お互い婚姻に納得した事で始まった、私とフウカさんの結婚生活。

どうしても家の紹介をしたいフウカさんの気持ちを汲み取り、すべての部屋の案内をしてほしいと言ってしまったために、私はかなりの地獄を見ることに。


おそらくだけど、100近い部屋のあるこのお屋敷のすべての部屋を見るのは、相当私の精神を削るのだ。

この時間だけで、私はもうすでにヘトヘト。

流石に疲れてしまったので、残りの部屋は後回しにしてもらおうと思う。


「フウカさん…もう十分わかりました…続きは、また今度にしませんか…?」

「そうですか?…まあ、サユリさんがそう言うのなら、仕方ありませんね。次で最後にしましょう」

「まだあるんですかぁ…?」


正直、もう懲り懲りだけど…フウカさんはまだ話したいらしい。

仕方なくそれに付き合う事にして、フウカさんの後に続くと、比較的小さな部屋にやって来た。


高い見た目は旅館の客室のようで、色々な飾りや、立派な絵の描かれた壁紙がある。


「ここは私の寝室。…いえ、今日からは私とサユリさんの寝室です!」

「ここが…って、えぇ!?」


フウカさんと私の寝室!?

い、いきなり一緒に寝ることが決定事項なの!?


「一緒に寝る…うん?待てよ?」

「どうかなさいましたか?」

「あの…ここの時間の流れって、私のいた場所と同じですか?」


話を聞く限り、ここは私の居た世界とは違うらしい。

異世界…というか、裏世界とか妖怪の世界的な感覚だ。

そんな妖怪の世界と私のいた現世。

その時間の流れが違うのならもっと面倒くさいけれど、同じなら…


「時間の流れ?同じですよ?」

「えっ?じゃあ…」


スマホを取り出して時間を確認すると…


――19:21――


「う、うわああああああああ!!!」

「「っ!?」」


スマホの時計に表示された時刻は19時を過ぎている。

私はそれを見て発狂し、2人を驚かせた。


「すいません!今すぐ家に返してください!!」

「えっ!?」

「ずいぶん唐突じゃな…何かあったか?」

「門限過ぎてるんです!このままだと家に入れてもらえなくなる!!」


うちの門限は19時だ。

それを過ぎると家に入れてもらえない。

そういう決まりだ。


「木仙。サユリさんを家まで送り届けてあげて下さい」

「よろしいので?ええ。お話なら夢の中でも出来ますから。もし家に入れてもらえなければ、また屋敷に来てください」

「ありがとうございます!木仙さん、お願いします!」

「うむ。任された」


木仙さんは私の手を握ると、何か変わったオーラ?のようなモノを纏う。

そして、一瞬にして景色が変わり、そこは私の家の前だった。


「さて、鍵は開いておるかの?」

「は、はい…」


恐る恐る手を伸ばし、ドアノブを握ると…鍵はかかっていなかった。


「ほっ…大丈夫でした!」

「それは良かった。では、フウカ様が夢の中に現れる事じゃろう。あの方は抜けているところもあるが、どうか良くしてやってもらえぬか?」

「ええ。私はこのチャンスを逃すつもりはありませんよ!それでは!」


私は木仙さんに見送られながら、家の中に入った。


「…やれやれ、似つかわしくない愚か者ではないようじゃが…このままでは、長続きするかの?」


家の中に入っていた私には聞こえなかったが、木仙さんはそんなことを呟き、夜の闇にその姿を消した。








「サユリさん」

「あっ!フウカさん!」


早めに寝ろという言いつけを守り、いつもより数時間早く布団に入ると、夢の中にフウカさんが現れた。

夢の中のフウカさんは何処かもじもじしていて、現実であった時よりも消極的だ。


「その…明日も来てもらえますか?」

「明日もですか?う~ん…友達と遊ぶかも知れないし、何より今日みたいに気づいたらもう遅い時間、なんてことになったら困るので…」

「夫婦生活でも、ですか…?」

「それは…」


フウカさんの言う通り、私達の関係は友達とか知り合いとか、そういうのではなく夫婦。

夫婦なら一緒に過ごして当たり前だし、同じ屋根の下で過ごすのが普通。


…フウカさんのプロポーズに応えたのだから、私もそれ相当の誠意を見せないと。


「じゃあ…明日はフウカさんの屋敷に泊まりますね?」

「ホントですか!?嬉しいです!!」


私にはフウカさんが喜ぶ理由がわからないけれど、喜んでもらえたようだ。

…でも、友達の家に泊まりに行くって理由で1日泊まるのは良いとして、その後だよなぁ…


お母さん、流石に何日も高頻度で泊まりに行ったら怒るだろうし…それを盾に週に…いや、2週間に一回くらいが限界かな?

よし、その案でいこう!


フウカさんの知らぬところでそんな事を考えていると、突然、フウカさんの顔色が悪くなる。

そして、とても冷たい目で私を見つめてきた。


「…酷いです。私は毎日一緒がいいのに…2週間に一回だなんて…」

「え…?」


…なんで、私が行くのは2週間に一回だけって事を知ってるの?

…もしかして、夢の中だから考えてることがダダ漏れとか?


「私は相手の心を読むことが出来ます。これを使うと誰からも信用されないので、出来れば使いたくなかったのですが…」 

「心を…読む…?」

「ええ。サユリさんが何か良からぬことを考えている気がして…つい」


そ、そんな…じゃ、じゃあ私はフウカさんには何も隠し事が出来なくて、やましいことを考えれば即バレ…

おまけに、万が一愛想を尽かされたら私は500年分の寿命を支払わされて死ぬ…


どうしよう…どうすればいいの?


心を読まれると言う恐怖に、読まれていることも考えることが出来ないまま、ぐるぐると答えにならない考えが巡る。

すると、フウカさんが私のことを優しく抱き締める。


「ふふっ…怖がられて、嫌われても…もう私達は離れない。絶対に離さない。そうだ!ここでは意志の強い方が、相手を好きなように出来るんですよ?なにせ、夢の世界ですから」

「何を…」

「勝負です。婚姻を結んで、それが望むものでは無かったとしても…結果的に受け入れてくれた。それなのに、こんな酷いことを考えるサユリさんには、罰が必要ですからね」


そう言ったフウカさんは、私のおしりに手を伸ばすと、突然ズボンの中に手を入れてきた。


何をされるのかわからない私は、必死に抵抗しようとするが…何故か体に力が入らない。


「ここで動けないと言うことは…サユリさんの、『離してほしい』とか『嫌だ』と言う意志よりも、私の『愛』のほうが強いと言うこと。この勝負、私の勝ちですね」

「イヤ…離して…!」

「ふふっ、なら頑張って抵抗してみてくださ、いっ!?」


本気で離れようとすると、体に力が戻ってきて、私はフウカさんの拘束を振りほどく事ができた。


「わぁ…!瞬間的ですが、私より強い意志を持つことができるとは…ふふっ、もしこれが私を心から愛してくれるようになれば、どうなることやら…」

「ふぅ…ふぅ…」

「そんなに警戒しちゃって…にしても、拘束できないと言うことは、それだけ強い意志が…コレは…怒りですか?」


…フウカさんの言う通りだ。

私は怒っている。

凄く怒ってる!


「先に手を出してきたのはそっちですからね…それに、勝負を持ちかけてきたのも」

「はい!」

「なら、乗ってあげますよ。私は、好き放題できるほど弱い女じゃないって事、教えてあげます!」


そう言って、私はフウカさんに飛びかかる。

フウカさんはそれを受け入れ…夢の中での攻防が始まった。



…翌朝、目を覚ました私は、汗塗れのパジャマを脱いで、隈のできた自分の顔を見つめる。


「駄目だ。あの人強すぎる…」


最初の勝負は、惨敗に終わった。

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