第23話 オムライスとカレーライス

注文をしてから10分ほど。

頼んだ料理がワゴンに乗せられて一斉に運ばれてきた。


「フライドポテトです」

「真ん中にお願いします」

「かしこまりました。ハンバーグセットです」

「それは私です」


机の真ん中に置かれたフライドポテトと、私の前に置かれたハンバーグセット。


「オムライスです」

「それはこの人ですね」

「カレーライスです」

「それは私だな」


2人にも料理が届き、全員の注文が揃った。

伝票を貰うと、私は2人に向き合う。


「さあ、どうぞ。美味しいですよ」

「…サユリ様、飲み物と似たような色をしているが大丈夫じゃろうな?」

「調理方法も似たようなものだよ?」

「…信用していいんじゃな?」


私のとんでもドリンクを飲まされ、疑心暗鬼になった木仙さん。

コーヒーとジンジャーエールと緑茶と紅茶と乳酸飲料を混ぜただけなんだけどなぁ…?

ちょっと意地悪しすぎたか?


「大丈夫ですよ。カレーは嫌いな人がいないと言えるほど人気で美味しい料理なので」

「ホントじゃろうな?」


木仙さんは、警戒しながらスプーンを器用に使って一口食べてみる木仙さん。

その様子を心配そうに見守るフウカさんがかわいいくて可笑しくて…ちょっと意地悪してよかったと思う。


「……」

「ばあや、大丈夫ですか?」


味を置く深くまで確かめるように長く咀嚼する木仙さん。

じっくりと時間をかけた後喉が動き、ようやく嚥下した。

そして私の事をじっと見つめると…


「これが、人間界で好まれる味のかの?」


私にそんな事を聞いてきた。

意図があんまり読めないけど…人間界に対する知見を広めようとしているんだと考えて、正直に首を縦にふる。


「個人差はありますが、概ねそうです。まあ、国によってはそうではないかもしれませんけど」

「そうか…フウカ様も食べてみるか?」

「では一口いただきましょう」


フウカさんは握りしめるようにスプーンを持って、木仙さんが食べたカレーを一すくい。

かなり食べ辛そうにしながら口の中へ入れると…目を見開いて私の方を見る。


「おいしいです!」


口の中にカレーが残った状態で大きな声を出すフウカさん。

…霊界には、口の中にたべものがある状態で喋っちゃダメってマナーは無いのかな…あ、木仙さんに叩かれた。


「何度も注意していたはずのですがな…フウカ様は一体いつになれば学ばれるのですか?」

「うぅ…それだけ美味しかったんですよ」

「ずいぶん複雑な上に濃い味付け…確かに美味じゃが、はしたないですぞ?フウカ様」


まあ、私の予想通り木仙さんに叱られるフウカさん。

霊界にも食事中に喋るのはよくないってマナーはあるんだね。

…流石に無言で食べろって言うわけではないだろうけど。


「カレーも美味しいですけど、オムライスも美味しいよ。ぜひ食べてみて」

「そうですね…では――」


また食べ辛そうな持ち方でスプーンを使いながら、今度はオムライスを頬張るフウカさん。

今度は流石に学習したのか、目を見開いて私の方を見たけれど、声は出さなかった。

そして、口の中の食べ物をすべて呑み込んでから話しかけてくる。


「この卵を使った料理も美味しいですね。ふわふわで中はトロトロの卵。こんな食感の卵は食べたことがありません!」

「ふふ…霊界には多分卵を生で食べる習慣が無いと思うし、同じ理由で半熟の卵も食べたことがないんじゃない?」

「半熟…そんな物食べたらお腹を壊してしまいますよ?これもそうなんですか?」

「人間界の――いや、日本の卵は清潔で安全なので、生や半熟でも食べられの。人間界でも生で卵を食べられるのはこの国くらいだよ」


初めて食べる半熟卵の味に感動した様子のフウカさん。

私の説明を受けた後、また木仙さんにはしたないって怒られそうな勢いで、ガツガツとオムライスを平らげてしまった。


…そして、私の食べかけのハンバーグを物欲しそうに見つめている。


「…一口食べる?」

「はい!!」


私がハンバーグのお皿とフォークとナイフのセットをふうかさんの前に置くと…なんとか私の真似をしてハンバーグを一口食べる。

そして、本日何回目かも分からない目を見開いた顔を見せてくれた。


「これ、なんのお肉ですか?」

「…豚と牛の合いびき肉かな?」

「別々の動物の肉を使っているんですか…にしても柔らかいような…」

「元々肉が柔らかい上に、柔らかくなるような工夫がされているから、とっても美味しいでしょ」


霊界のお肉は食べたことないけれど、そんなに柔らかいお肉でも美味しい肉でもないと思う。

あの時代感的に、まだ家畜が道具の時代。

食べて卵と乳くらいだろう。


お肉なんて…用無しになった年老いた家畜くらいしか食べないだろうし…そんな肉美味しくない。

牛肉なんて、靴の皮って表現されるくらいだろうし…美味しい肉なんて食べたことないだろう。


「いいお肉を使っているんですね…」

「まあ…家庭で食べる肉よりはいい肉だと思うよ」


ハンバーグがお気に召したらしいフウカさんは、感想を一通り話した後も私のハンバーグを眺めて、まだ食べたそうにしている。


「…食べてもいいよ。全部」

「で、でも…」

「フライドポテトもあるし、セットだからご飯もスープもあるし…好きなだけ食べて」

「じゃあ…お言葉に甘えて…」


遠慮しているように見えて…体は素直だ。

よだれが垂れそうになっているし、顔がもう…おもちゃを買ってもらったこどもくらい喜んでいる。


「…やれやれ、フウカ様まだまだ子供じゃな」

「むっ!別にいいじゃないですか…」


木仙さんに呆れられて不服なようなフウカさん。

その顔もかわいくて、フライドポテトをご飯のお供にしながら夕食を楽しんだ。

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