第22話 お金をもらって

あっという間にコンビニで買ったモノを食べきってしまったフウカさんと木仙さん。

まだ物足りない様子だし、どうしようかなぁと思っていると、お母さんから電話が掛かってきた。


「もしもしお母さん?」

『サユリ?アンタ今何処にいるの?』

「公園だよ。何か用事?」


何故か少し怒っている様子のお母さん。

どうしたんだろう?


『いつの間に帰ってきて、いつの間に家を出たのよ。お母さん心配したんだからね?』

「あぁ…ごめんごめん。ちょっと今日は…あ〜、友達と遊んでてさ」


フウカさんの事はまだお母さんにも話してない。

私が普段…と言うか、最近何をしているかは誰にも話してないし、みんなに秘密にしている。

だから、お母さんやお父さんからは疑われているんだけど…それでもまだ、その時じゃない気がするから話さない。


『6時には帰ってきなさいよ?それと、お金はちゃんと持ってる?』

「お金は…全然無いかな。ねえお母さん。1万円くらいお小遣いくれない?」

『…まあ、良いわよ。その代わり、誰と何処で遊ぶのか教えなさい』


誰と何処で…

フウカさんと…ご飯を食べに行くかな?


「えっとね。最近新しくできた友達のフウカと、何処かにご飯を食べに行こうと思ってて…」

『…それ、6時には帰ってくれるの?』

「…わかんない」

『はぁ…まあ良いわ。7時まで待ってあげるから、それには必ず帰ってきなさい』

「は〜い」


お母さんは7時には帰ってこいと言って、電話を切った。

そして、その後すぐにスマホの決済アプリに1万円送金されてくる。

よし、これで今日フウカさんに食べさせてあげる人間界の料理のお金は手に入った。


あとは何処で食べるかだけど…そうだ!


「ファミレスなんてどうかな?」

「ふぁみれす?」

「名前は聞いたことあるの。どういう食事処なのじゃ?」

「家族でご飯を食べるお店です。小さい子供の誕生日や、私くらいの年代の若者が友達とご飯を食べる場所ですね」


今あるお金でいいのもを食べようと思ったら、ファミレスが丁度いい。

色々なものが食べられるし、満腹になるし、フウカさんは触れたことがないであろう洋食というのもを食べさせてあげられる。

…木仙さんはお酒も飲めるだろうし、いいと思う。


ここから歩けばちょうどいい時間に着くだろうし、行先は決定だね。


「少し距離はあるけど、歩いて行けるからそこに行こうと思って」

「いいですね!どんなお料理が食べられるのか気になります!」

「我は酒を飲めるのなら何でもいいが…人間界の美味い料理も食べたいところじゃ」

「決まりだね。じゃあ、ファミレスへ!」


2人を連れて公園を出ると、もうすぐ夕日に染まるであろう16時の空の下を歩いた。








それから1時間半後。


「ここがふぁみれす、ですか…」

「霊界では見慣れない建築じゃが思っていたほど立派ではないの。本当に家族の祝いの席で訪れる店なのか?」

「あはは…田舎のファミレスなんてこんなものだよ」


到着したファミレスの外観を見て、フウカさんと木仙さんはなかなか辛口な評価をした。

ここは別に大手のチェーン店じゃないから、外装も内装もそこまできれいじゃない。

昔からこのファミレスにはお世話になってきたけど…いつ見ても綺麗とは言えないね。


「見た目はあれだけど、私のお父さんが子供のころからある歴史あるお店だけあら、味は確かだよ?」

「言うてもたかが2,30年程度じゃろう?そんなに信頼できるのか?」

「人間の寿命でいえば十分信頼できる年数だから大丈夫。ささ、行くよ」


2人の背中を押して店に入ると、いつもの店員さんに挨拶をしてテーブル席に案内してもらう。

そして、メニューを2人に渡した。


「私はハンバーグセットにしようかな?フウカさんはどうする?」

「そうですね…サユリさんのお勧めで!」

「じゃあオムライスなんてどう?多分、新感覚だよ」

「ではそれで。ばあやはどうしますか?」

「…サユリ様、任せるぞ」

「木仙さんの料理か…そうだ、カレーライスとかいいんじゃないかな?」

「ならそうしよう。あと、酒を頼む」

「はいはい。一回だけですよ?高いので」


飲食店のお酒は高い。

ドリンクバーで我慢してもらわないと。


「すいませ~ん」


店員さんを呼ぶと、私はメニューを閉じる。

別に開かなくたって分かるからね。


「ハンバーグセットとオムライスとカレーライス。後はドリンクバーを3つと…あ~、レモンサワーを一つ。あと、フライドポテトもお願いします」

「かしこまりました」


注文を入れると、私は席を立って2人を呼ぶ。


「ドリンクバーを頼んだから、ジュースが飲み放題だよ」

「なんですか?それ」

「私がさっき飲んでた甘い飲み物。アレが好きなだけ飲めるよってサービスの事。お酒はないけどね」

「なら我は要らんな」

「でも一杯分しか頼んでないよ?」

「…仕方ないの。こーら、じゃったか?あれを頼む」

「自分で取りに行けばいいのに…」


本当にこの人は従者なのか疑問にお思いながら、私はフウカさんとドリンクバーのある場所に向かう。

そして、ドリンクバーの使い方を教えてあげた。


「う~ん…」

「どうしたの?」

「どれも初めて飲むの飲み物なので、どれがいいのか分からなくて…」

「じゃあ、一つずつ飲んでみて、一番気にったものを飲めばいいと思うよ」

「そうですね!…ちなみに、サユリさんは今何を?」

「木仙さんへの嫌がらせ。従者のくせに、私を使たバツと…誰かにドリンクバーを任せるとどうなるかの洗礼です。ふひひ…」


ドン引きするフウカさんの横で、私は着々とダークマターを完成させる。

そして、悪魔のような笑みを浮かべながら席に戻るのだった。


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