第39話 お弁当はどうする?

 昼休み。

 それは、一日の学校生活における一番の憩いの時。

 午前の疲れを癒すとともに、午後の活力をつけるための貴重な時間でもある。


 ……のはずだったのだが、俺は静かに本日一番の問題に直面している。


「信也ー! メシ食おうぜー!」


 いつも通り、昼飯を一緒に食べるため俺の元へとやってくる勇作。

 それは至っていつも通り。

 しかし、そんな俺達のことをじーっと見つめてくる人物が一人……。


「……昼食、ねぇ」


 俺達のことを見ながら、どこか不満そうな様子でボソッと呟くイビア。

 今は昼休みで、待ちに待ったお弁当タイム。

 だから当然、今日は登校する際にイビアの分の弁当も一緒に買ってきている。


 そう、弁当は持っている……持ってはいるのだが……。


 周囲を寄せ付けないイビアは、すっかりこのクラスでボッチになっていた。

 いや、正確にはボッチというわけではなく、周囲から嫌われているとかそういうわけでもない。

 ただ人を寄せ付けようとしないイビアに、みんな興味はあっても近付けないのだ。


 それは明るい勇作や桃花も例には漏れず、まだみんなどのようにイビアと接していけばいいのか距離感を探っているといった感じだ。


 というわけで、現在この教室においてイビアは一人きり。

 俺はてっきり、この調子なら昼も一人で済ませるものだとばかり思っていたが、どうやらそういうわけではなさそうだ……。


「おい、信也……」

「あ、ああ、分かってる」

「じーーーっ」


 隣からじっと向けられる視線に怯えるように、勇作は対処を俺に丸投げしてくる。

 まだ一言も会話すらしていない勇作が、こんなにも困惑したことがかつてあっただろうか。

 これも魔王の仕業というやつなのだろうか。

 ……仕方ない、ここは唯一の知り合いである俺が何とかすべき場面だろう。


「あー、なんだ、その。イビアさん?」

「……なんだ?」

「俺と勇作は、いつもここで向かい合わせで一緒に昼飯を食べてるんだ。だから、隣にはいるから」


 そう、俺達は別にどこかへ行ったりはしない。

 だからお互い、自席で食べればほぼ一緒に昼食を取っているようなものと言えるはずだ。

 離れるのは良くない、でもくっ付き過ぎても目立つから避けたい。

 我ながら、ナイス落としどころである。


 そんな俺達のやり取りは、クラスのみんなからも注目を集めてしまっている。

 本日やってきた美少女転校生の昼休みの過ごし方が、たった今決まろうとしているのだ。

 みんな、期待と心配が入り交ざったような何とも言えない視線を向けてきている。


「……そう。分かったわ」


 しかしイビアは、意外と冷静だった。

 さっきまで探るような視線を向けてきていたくせに、俺がここで昼食をとることを知ると意外と反応はドライ。

 それ以上何を言うわけでもなく、鞄から買ってきた弁当を取り出す。


 その様子に、俺も勇作もホッとする。

 さぁ気を取り直して弁当を食べようと思ったその時、また新たな事件が起きる――。


 ズズズズ――。


 人がひとり通れるぐらいあったスペースを埋めて、イビアはまたしても机を隣にくっ付けてきたのである。

 何だろう、こいつは「机くっ付け屋」か何かでも営んでいるのだろうか……。


 しかし、こうも俺とだけ親しくするというのは、周囲からも変に見られるに違いなく……。

 現に勇作含め、周囲から驚きの視線がこちらへ向けられている。


「なんでくっ付けるんだ?」

「なんでもなにも、さっきのは一緒に食べるって合図でしょう?」


 驚く俺に対して、外行きモードでほほ笑むイビア。

 ついこの間まで異世界の独裁魔王をしていたというのに、どこでこんな社交モードを身に付けたんだ。


「それに、二人より三人の方が楽しいんじゃない?」

「急に社交的なんだな」

「もちろん人は選ぶわよ」

「ああ、そうかい」


 まぁ、この世界でイビアの面倒を見ると決めたのは俺だ。

 一人で飯を食わすのも気になるし、今は勇作も一緒。


 あまり深いことを考えず、転校生と仲良くしているだけなのだ、うん。

 というわけで、急に当事者になってしまった勇作はというと、至近距離にあるイビアの顔を見て固まってしまっている。


 もしかして、イビアという存在に慣れてしまっている俺の方がおかしいのだろうか……?

 いいや、きっとみんなも二、三日すれば慣れるはずだ。


 というわけで、この周囲から見れば謎の三人で一緒に弁当を食べることに――、



「えー!? なになに、三人で食べるならわたしも混ぜてよぉー!」



 ――ならなかった。


 謎の張り付いたような笑みを浮かべながら、自分の弁当箱片手にやってきたのは桃花。

 いつもの仲良しメンバーの輪を抜けて、俺たちの方に混ざってきたのであった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る