第27話 ランチ

 今日は土曜日。

 ジョンとイビアを連れて公園へとやってきたのだが、異世界の住民がまた一人増えた――。


 異世界からやってきたのは、イビアの側近だった吸血鬼のリリム。

 魔王に続いて、まさかの吸血鬼まで日本へお出ましである。


 しかし、リリムはイビアと違って警戒心も高いようで、最初はどうしたものかと思っていたのだが……。


「ちょ、くすぐったい」


 ジョンに頬を舐められるリリムの姿。

 そう、最初の態度はどこへやら、小一時間もすればイビアと一緒になってジョンと遊ぶリリムの姿。


 最初こそ戸惑っていた様子だったが、気付けばすっかり一緒になって遊んでいたのである。

 しかし何というか、こうして見ていると本当に二人ともただの女の子にしか見えないんだけどな……。


 というわけで、一緒に遊んでいたらあっという間にお昼時。

 俺は二人とジョンを連れて、近くにあるペット可のカフェへとやってきた。


 ここは以前より通っているお店で、俺もジョンもお気に入りのオシャレスポットだ。

 テラス席は解放感もあり、公園で遊んだあとはここで食事していくというのが定番の流れ。


 しかし今日は、イビアとリリムも一緒。

 今のイビアは、こちらの世界のカジュアルな服装をしているものの、リリムが着ているのは異世界のもののまま。

 どうしたものかと少し悩んでみたが、まぁ大丈夫だろうという判断になった。

 何故なら、今リリムが着ているのは全身黒づくめの服。

 それはこの世界で言うところの、所謂ゴシックファッションなのだ。

 周囲から目立たないとは言わないが、だからと言ってそんなに浮くようなものではないだろう。


 というか、目立つのはリリムというよりも……。


「ん? どうしたシンヤ?」


 俺の視線に気が付き、ワクワクした様子で笑みを向けてくるイビア。

 しかしその服装は、俺の心配通り土や草の汁ですっかり全身汚れてしまっている。

 どっちがお店で食事をするうえで駄目かと言えば、残念ながらイビアの方だ。

 まぁそれも、ジョンと沢山遊んでくれた証拠だから、今日のところはよしとしよう。


「イビア、ちょっとこっちに来い」

「ん? どうしたのだ?」


 全く自覚のないイビアを、俺はそっと人目の付かない所へ連れて行く。

 そして、周囲に誰もいないことを確認した俺は、魔法で全身を浄化してやる。


 これは異世界で何度も使ってきた、超絶便利魔法だ。

 風呂に入らずとも、いつでもお風呂上りのように衣服も全身もサッパリ。

 この世界にマナはなくとも、このぐらいの魔法なら実は使えたりする。


「なっ!? 魔法!?」

「まぁな」

「どうしてシンヤは使えるのだ!?」

「俺だって、この程度が限界だ。お前のツノ消しと一緒でな」

「むぅ……、我に対してそんな物言いをできるのは、シンヤぐらいなものだぞ……」


 不満そうに、口を尖らせるイビア。

 しかしその表情は、不満そうな言葉とは裏腹に少し照れているようにも見えた。


 というわけで、イビアの汚れも落としてやったところで店内へ入る。

 しかし、先にいたお客さんや店員さんが、みんな一斉にこちらを見てきていることに気付く。


 汚れはちゃんと落としたんだけどな……と思うも、みんなの表情からその理由に気が付く。

 そうだった、汚れ云々ではなくそもそもの問題があったのだ。


 イビアにリリム、二人の異世界の存在は、こちらの美的感覚からしても相当に美しい。

 故に男性だけでなく女性までも、二人の姿に完全に見惚れてしまっているのである。


 イビア一人なら、まだ良かったのだろう。

 そこへリリムも加われば、海外のモデルや俳優でもやってきたのかというぐらい目立ってしまっている。


「なんだ? まだ汚れているか?」

「いいえ、綺麗に汚れは落ちていますよ」


 当の本人達は、このように自覚ゼロ。

 楽しそうに微笑み合っている。


 まぁ周囲の反応はどうあれ、俺も腹が減った。

 もう見られてしまったものは仕方ないと切り分け、いつものテラスの席へと案内されると全員分のランチを注文する。


「……ここは、一体なんなのですか?」

「さぁな……シンヤ、ここは何なのだ?」

「カフェだよ。ゆっくりと飲食を楽しむ場所だ」

「なるほど。だから内装も、凝っておるのだな……」


 イビアは興味深そうに頷きながら、店内を見回す。

 そんなイビアの柔軟さに、リリムはまだ少しついてはいけない様子だ。


 そうこうしていると、注文した料理が届けられる。

 ジョンにはいつもの特性ドッグフード。

 残りの俺達は、適当に同じAランチセットを注文したのだが、今日はハンバーグプレートだったようだ。


「なんです、この料理は?」

「おい! ハンバーグだ! ハンバーグ!」


 初めて見る料理に戸惑うリリムより、ハンバーグに夢中のイビア。

 美味しそうに食事を始めるイビアの姿を見て、リリムも見様見真似でハンバーグを口へ運ぶ。


「――ん、美味しい」


 口に含んだ瞬間、目を見開いて驚くリリム。

 どうやらリリムの口にも合ったようで何よりだ。


 まぁ色々ありすぎる土曜日だが、こうしてみんなで仲良く昼食をいただくのであった。




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