第28話 スーパー

 思う存分ランチを楽しんだ俺達は、帰る前にスーパーへ寄っていくことにした。

 俺とイビアにジョンはもちろん、今日転移してきたリリムも連れて。


 イビアの頼みで、今日からリリムもうちで一緒に生活してもらうことにした。

 まさか二日で異世界人二人と同居することになるなんて、全く思いもしなかったけれど……。

 まぁしかし、こればっかりはさすがに仕方ない事態なのだ。

 お願いされずとも、異世界の吸血鬼をこの世界で野放しにするわけにもいかないだろうし、これも元勇者としての責務ということにしておこう……。


 歩きながら、イビアはリリムと何やら楽しそうに会話をしている。

 二人は、この世界における唯一の同胞。

 だからきっと俺にも分からない、募る話とか色々あるのだろう。


「それでな! こっちの世界のチョコレートというのも相当美味でな、リリムにも食べさせたいものだな!」

「そうなのですか、先程のハンバーグよりもですか?」

「ハンバーグとは別だなっ! どっちも美味だ!」


 少し聞き耳を立ててみると、自慢気に食べ物について語るイビア。

 どうやら異世界の話ではなく、こちらの世界の食べ物について熱弁しているようだ。


 ――まったく、何を話しているのかと思えば。


 楽しそうに語るイビアの姿に、つい口元が緩んできてしまう。

 このあと行くスーパーでは、一体どんな反応を見せるんだろうなと楽しみにだな。



 ◇



「うわぁ! なんだここはっ!?」


 スーパーへ到着するなり、楽し気に驚きの声をあげるイビア。


「……市場のようなもの、でしょうか?」


 対してリリムは、見たことのない異世界のスーパーに言葉を失っている様子だ。


「それじゃジョン、ここでちょっと待っててくれな」

「ワン!」


 ジョンには人の邪魔にならないところで待っていてもらい、スーパーへ入店する。


 当たり前だが、ここはスーパー。

 店内には野菜や総菜、生魚や生肉まで色々と陳列されている。

 最早見慣れた日本人にとっては当たり前の光景だが、イビア達にとっては異世界。

 食材の新鮮さ、そして何よりも陳列された商品のバリエーションの豊富さに、ただキョロキョロと見回しながら驚いている。


「……魔王様、これがこの世界の人間の当たり前なのですか?」

「……さぁな、一体どこからこれ程の食材を集めてきているのだろうな」


 たしかに、そう言われてみればその通りだな……。

 これは全て、この国の人々が生み出した流通の成せる業。

 強大な魔法は扱えなくても、人々は魔法以上の結果を生み出すことができているのだ。


 しかし、そんな流通の話をしても理解は難しいだろうから、これもこの世界の魔法のようなものだと説明すると、二人とも息をのんで驚いていた。


 そんなこんなで、野菜、鮮魚、精肉と回って、お次は総菜コーナーへやってきた。


「シンヤ! あれはなんだ?」

「ん? ああ、コロッケだな」

「ほう、コロッケ……じゃあこっちは!?」

「魔王様魔王様! 何だか芳ばしい香りがします!」


 どうやら二人とも、この総菜コーナーに一番興味があるようだ。

 さっきランチを食べたばかりのはずなんだけど、二人とも食欲旺盛だな。


「コロッケ、買ってくか?」

「え、良いのか!?」

「魔王様! こっちも気になります!」

「焼き鳥か、じゃあそれも買ってくか」

「え、いいの!?」


 キラキラとした瞳で、こちらを見つめてくる魔王と吸血鬼。

 二人にとって、この総菜コーナーはさながらテーマパーク。

 そんなにワクワクとした顔をされては、買ってやらないわけにもいかない。


 こうして食材を一通りカゴに詰めたところで、最後はレジでのお会計。

 複数のレジで、次々と清算が済まされていく光景を前に、ここでも二人は驚愕していた。


「どうやらわたしは、とんでもない世界へやってきてしまったようです……」

「ああ、まるで文化レベルが違うな……」


 ここは日本の、ごくありふれた庶民スーパー。

 しかし二人にとっては、まさに異世界の信じられない光景の連続なのであった。


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