第14話 晩御飯

「せっかく買った服、着替えなくて良かったのか?」

「ああ、今日はこれでよいのだっ」


 俺の問いかけに、どこか機嫌よく答える魔王。

 どう考えてもさっき買った洋服の方がお洒落なのだが、今着ている服にも愛着みたいなものが湧いているのだろうか、魔王がそう言うのなら仕方がない。


 というわけで、とりあえず今日の目的はこれで達成された。

 歯ブラシとか細かい雑貨類のこともあるが、足りないものは帰りにコンビニへ立ち寄り買い揃えればいいだろう。

 既に結構なお金を使ってしまったが、元々無趣味な俺だ。

 これまでの貯めた小遣いがあるし、過剰とも言える親からの振り込み額もあるのだ。


 元勇者として、これは俺の務め。

 こっちの世界で魔王が平穏無事に生活できることは、ある意味世界平和のためでもあるのだ。

 これも、日々仕事を頑張ってくれている親に感謝だな……。


「よし、じゃあ良い時間だし、今日はここでメシを食ってくか」

「メシ……? そうか、ここには本当に何でもあるのだな」

「その通りだ、行くぞ」


 感心する魔王の姿に、俺も自然と笑みが零れてしまう。

 ……とは言っても、俺の場合は少し口角が上がるぐらい微々たるものなのだが。


 しかし、そんな微々たる変化でも魔王には気付かれてしまったようだ。

 今を楽しむようにワクワクとした笑みを向けてくる魔王の姿は、もはや魔王ではなくただの女の子にしか見えなかった。


 こうして俺は、最後に魔王を連れてフードコートへと向かうのであった。



 ◇



「……な、なんだここはっ!?」


 このショッピングモールにも随分慣れてきた様子の魔王も、驚きの声をあげる。

 ショッピングモールのある階へとやってきたのだが、ここはフロアのほとんどがフードコート。

 全部で八店舗の飲食店が集まっており、たこ焼きからドーナツまで有名なお店が並んでいる。


 魔王からしてみれば、雑貨や服だけかと思いきや今度は飲食店の並ぶ賑わい。

 全てが驚きの連続で、まるで子供のように驚く魔王の姿に、自分も子供の頃はフードコートではしゃいでいたことを思い出す。

 何が楽しかったのかは自分でも分からないが、こういうところに来るだけで謎のワクワクがあったのだ。


「で、何が食べたい? 今日は何でもいいぞ」

「なんでも良いのかっ!? やったぁー!」


 昼から時間も経っているし、魔王も腹が減っていたのだろう。

 試しに幼い頃父親から言われた言葉を伝えてみると、その目を輝かせながら大喜びする魔王。

 その姿はやっぱり子供のようで、見ているこっちまで何だか幸せな気持ちにさせられる。

 きっとあの時の父親も、はしゃぐ俺を見て同じ気持ちだったんだろうな。


「よし、決めた! 我はあれがいいぞっ!」


 そして必死に悩んでいた魔王は、決心した様子で一つのお店を指さす。

 それはドーナツの有名チェーン店で、どうやら魔王はドーナツに最も興味を引かれたようだ。


 ――晩御飯に甘い物ってのも少し気になるけど、まぁ今日は良いか。


 こんなにワクワクしている魔王の望みを、ここで断れるはずもなく。

 まぁ甘くないものも置いてあるし、今日のところは魔王に合わせることにした。


 こうしてお互いに、食べたいものをトレーに乗せて会計を済ませる。

 そのシステムも新鮮だったようで、選ぶところから会計をするまで、ずっと魔王は興味津々なご様子。


 そしていよいよ、ドーナツの実食――。

 昼のチョココロネは口に合ったみたいだから、恐らくドーナツも口に合うとは思うけど……。



「んんっ! んまぁい!!」



 しかし、俺の心配も他所に、一口食べると極上の微笑みを浮かべる魔王の姿。

 それはもう、魔王を飛び越えて天使にすら思えてきてしまうほど、顔に幸せと書いてあるようだった――。


「そうか、美味いか」

「うむっ! こっちも美味いぞ! これもだ!」


 夢中になって、一口ずつドーナツを食べては幸せそうに微笑む魔王。


「ちなみに、どれが一番美味しいんだ?」

「んー、悩ましいが……これだっ! この黒いのが美味いぞっ!」


 嬉しそうに魔王が手に取ったのは、チョコレートたっぷりのオールドファッション。

 昼のチョココロネといい、どうやら魔王はチョコレートがお好みのようだ。

 そんな幸せいっぱいな魔王の姿を見ながら食べるドーナツは、たしかに何だか幸せな味がするのであった。


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 <あとがき>

 甘い物大好きな魔王ちゃんでした。

 もはや完全にゆるキャラ化してきましたねw




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