第13話 次は洋服
無事に下着を購入した魔王を連れて、今度は服屋へとやってきた。
施設内には様々な系統の服屋が並んでいるが、魔王は特に希望もなさそうだったため、ここはシンプルな洋服が無難だろうと思い一番良さげなお店に入ることにした。
魔王も少しずつこの世界にも慣れてきたのだろう。
店内を見回すその表情は、驚きから感心へ変わっているように見える。
オマケに下着も購入したことで、もう胸の自由度も落ち着きを……と思ったが、そこに胸が存在することに変わりはなく、むしろしっかりと主張されている。
――さっき俺が選んだやつを、今着けてるんだよな……。
油断をすると、ランジェリーショップでの出来事をつい意識してしまう。
何となく、本当に何となくだが選んだ下着を、今魔王は身に付けているのだ。
そのことを意識してしまうと、何だか魔王を直視できなくなる自分がいた。
「いらっしゃいませー! って、まぁまぁ! すっごい美人さんじゃないですかぁ!」
店内へ入ると、またしてもすぐに女性の店員さんがやってくる。
そしてここでも、魔王のその類稀なるルックスに興味を引かれているご様子だ。
「今日はどんな感じのものをお探しですかぁ?」
「あ、ああ、正直よく分からんのだ……だからその、オススメを教えてほしい……」
グイグイくる店員さんへ、魔王は恥ずかしそうにしつつも用件を伝える。
やはり先程の下着購入の経験で、魔王も学んでいるのだろう。
まぁ不安そうにこちらをチラチラと見てきている辺りは、まだまだ不安たっぷりなご様子だが。
こうして魔王は、店員に連れられて色々な服の合わせ方を教わる。
その一つ一つに、魔王は真剣なまなざしでうんうんと頷きながら聞いている。
こういうところは、結構真面目だよなと感心しつつ、俺はそんな魔王の初めてのお買い物を見守ることにした。
かれこれ二十分以上は経っただろうか。
そろそろまとまってきたかなと思っていると、魔王がこちらへ駆け寄ってくる。
そして――、
「あの女に言われたのだ……その、どっちがいいと、思う……?」
魔王は手にしたデニムパンツと黒のスカートを突き出しながら、恥ずかしそうに問いかけてくるのであった。
急に訪れた、その女性との買い物における定番の展開。
それがまさか、自分にも訪れる日がやってくるとは……。
「ど、どっちって……」
「わ、我ではまだよく分からんのだっ! そしたら、カレシ……? とやらに、聞いてこいと言われてな!」
「彼氏!?」
「なんだっ? 何故驚く!? お前のことだと言われたのだが!?」
驚く俺に、驚く魔王。
そうか、魔王に言葉は伝わるが、この世界固有の単語や俗語までは分からないのだ。
だから彼氏という言葉の意味が分かっていないのは仕方ないのだが、こうして直接彼氏と言われるのはちょっと……。
「……いや、何でもない。それで、俺にどっちがいいか選ばせろって言われたんだな?」
「ああ、そうだ! シンヤの好みでよい!」
「分かった」
魔王にとって、これが初めての洋服のお買い物なのだ。
だからここは、後悔しないよう俺がしっかりと考えてみることにした。
まずはデニムパンツ。
恐らく魔王は、この世界の誰よりも身体能力が高い。
それこそ、かの霊長類最強ともいい勝負だろう。
しかし、そのスタイルはモデルのようにスレンダーで、見た目だけは普通の女の子なのである。
だからきっと、魔王ならこのスキニーのデニムパンツも完璧に着こなすこと間違いなし。
さらっとTシャツと合わせれば、シンプルイズベスト。それだけで完成系だ。
次に、黒のスカート。
こちらはデニムパンツと異なり、シンプルながらもデザイン性のあるスカートだ。
より女性らしく感じることから、元着ていた黒のドレスの印象に近いかもしれない。
だから魔王なら、こちらも綺麗にかっこよく着こなせるはずだ。
そんなデニムパンツと黒のスカート。
どちらも印象が異なるだけに甲乙がつけがたく、どっちも絶対に似合うのは間違いなかった。
そこまで思い至った俺は、一つの答えを出す。
「――よし、両方買おう」
「ま、またそれかっ!? 駄目だろ!」
「駄目じゃない」
「いや待て! この世界の貨幣価値は分からぬが、そんなにあれもこれも買って貰うわけには――!」
「むしろ、これでも少ないぐらいだ。可能なら三パターンぐらいは買い揃えておきたい」
「まぁまぁ! そうなのですね! それじゃあ彼氏さんもこう言っていることですし、こっちのワンピースも絶対に似合うと思ってたんですよー!」
俺が三パターンと口にすると、その言葉を聞き逃さなかった店員さん。
再び魔王を連れ出すと、グイグイと服のオススメを再開するのであった。
そんなこんなで、最終的にこのお店でしっかり三パターン、魔王の洋服を買いそろえることができたのであった。
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<あとがき>
何を着ても似合ってしまう魔王様でした。
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