第20話 ホームルーム
教室で一人、深い溜め息をつく――。
――イビアを置いてきてしまったが、大丈夫だったろうか。
授業が始まるから、これは仕方ないこと。
しかし、だからと言ってまだ右も左も分からないイビアを一人にさせてしまったことが、時間経過とともにどんどん気になってくる。
まぁあいつも子供ではないし、変なことにはならないと思うが……。
でも魔王だもんなぁ~。
「おっすー! おはよう信也ー」
「おう、おはよう……」
「なんだ? 今日も元気ねーな?」
「まぁな、色々あるんだよ……」
今日もノー天気な勇作が、俺の席へやってくる。
今日ばかりは、このノー天気さがちょっと羨ましくもある。
「やっぱりお前、昨日から変だな?」
「まぁ、そうかもしれないな……」
「うん、やっぱ変だ」
確信するように頷く勇作。
そんな勇作の相手をしていると、今度は桃花がやってくる。
「よっすー、どしたー?」
「今日も信也が変なんだよ」
「えー、今日もー?」
心配しているようで、ただ興味津々なだけなのがバレバレな桃花。
桃花は勇作と示しを合わせると、俺に理由を迫ってくる。
しかし、そんなに期待されたところで「実は今日、学校に魔王を連れてきたんだ」なんて言えるはずもなく、百歩譲って答えたくても答えられないのである。
「なんだよ、訳アリか?」
「んー、まぁな」
「もしかして、今日学校に現れた謎の美女と関係してたり?」
「謎の美女?」
「うん、さっきクラスの子達が話してたんだけどね、何やら銀髪の美女が学校にいたらしいよ」
まるでミステリーの話でもするかのように、コソコソと俺達だけに教えてくれる桃花。
まぁもしかしなくても、それはイビアのこととみて間違いないだろう……。
今朝何人かには見られてしまったから、こうして噂されるとは思っていた。
しかし、さっそく同じクラスにまで広がってしまったのはちょっと想定外だった。
「なんだ? 信也は驚かないんだな?」
「やっぱり、関係あり? うちの学校の男子と歩いてたっていうけど、それって信也のこと?」
訝しむ勇作に、無駄に鋭い桃花――。
「はーい、ホームルーム始めるわよー」
そこへ、担任の青柳先生が教室へとやってくる。
イビアとの話は済んだのか、いつも通り教室へやってきた青柳先生。
一応先に帰ってくれて構わないと伝えてはあるが、ちゃんと帰れるかも含めてとにかく不安だ……。
イビアなら、たとえ魔法が使えなくてもこの世界の誰よりも強いから、何か事件に巻き込まれることはないと思うけど……。
それからホームルームを終えると、今日は一限から体育。
男子はバスケで女子はバレーらしいが、正直気持ちはそれどころではない。
すると、ホームルームを終えた青柳先生が小さく手招きをしてくるため、俺はこっそり教室を抜け出して先生と立ち話をする。
「とりあえず、このあとイビアさんに学校のルールを説明したあと、校舎を軽く見学してもらうつもりよ」
「え、見学ですか?」
「ええ、いきなり編入してきても困っちゃうでしょ? これはイビアさんに限らず、編入性みんなにやっていることよ」
まぁ、それもそうか……。
先生の言うことはご尤もだ。
「……分かりました。では、すみませんがイビアをよろしくお願いします」
「ええ、任せなさい。一限は授業がないから、わたしが責任をもって案内しておくわ」
良かった、青柳先生が付いてくれるならきっと大丈夫だろう。
そう安堵しつつ、次の体育のため急いで体操着へ着替えることにした。
◇
「お待たせしました、イビアさん」
することもなく窓の外を眺めていると、さっきの先生が部屋へと戻ってくる。
二人きりはちょっと緊張するが、ニコニコと微笑む先生は接しやすい感じがした。
それから我は、この学校について必要事項を色々と説明を受けた。
ところどころ聞きなれない単語があったのだが、聞けば何でも答えてくれたおかげで概ね理解することができた。
自分で言うのもなんだが、我はこの世界の人間ではないし、ましてや魔王だ。
だというのに、この先生は我に臆することもなければ、この国の人々とは異なる我の容姿に何の偏見を抱くことなく丁寧に接してくれる。
そのことが、我は素直に嬉しかった。
向こうの世界の人間であれば、我を見るだけで怯えるのが当たり前だったから。
だからシンヤだけではなく、この世界の人々は向こうとは違うし、全てが新鮮に感じられる。
何より、我も今度からこの学校の生徒として、シンヤと一緒に学びを受けることができるのだ。
この世界の文化や学問には興味があるし、これで家で留守番をしなくても済む。
ジョンと過ごす時間が減るというのは、少し寂しくもあるが……。
そうして説明を受け終えると、最後はこの学校の施設について簡単に案内してくれることとなった。
我も学校の施設にはとても興味があったから、正直楽しみだ。
もしかしたら、学校でのシンヤを拝めるかもしれないと思うと、自然とワクワクしてきてしまうのであった。
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