第21話 バスケ
「へい信也! パスパス!」
「あいよ」
勇作の呼びかけに応じて、俺は相手の隙を突いてパスを成功させる。
そのまま勇作がシュートを決めると、隣でバレーをしているはずの女子達から黄色い歓声が上がる。
まぁそんな声援なんてどうでもよく、我ながら今のは中々精巧なパスだったと思う。
その証拠に、相手チームのバスケ部は勇作よりも俺のパスに驚いている。
「信也! ナイスパスだ!」
「ナイスシュート」
シュートを決めてご満悦な勇作と、ハイタッチを交わす。
「……あいつら、帰宅部とサッカー部だよな」
「ああ、このままじゃバスケ部の面子的に不味い……」
どうやら、相手チームのバスケ部二人も火が付いたようだ。
勇作はともかく、帰宅部の俺に負けるのはさすがに不味いと思ったのだろう。
こうして火が付いた結果、ただの体育の授業の域を越えたガチ対決の火蓋が落とされる。
相手のバスケ部が決めれば、俺と勇作のコンビネーションを起点に点を返すというシーソーゲーム。
試合のペースは速く、同じ試合に出る羽目になった文化部の人達は既にヘロヘロ状態だ。
「おいおい、一限からこんなに走るってマジかよ!」
「どうした? まさか、もう疲れたとは言わないよな?」
「いや、つーかなんで帰宅部のお前が一番疲れてねーんだよ!」
そう言われてみると、たしかにそうだった。
毎朝ジョンと散歩という名のランニングをしているから、元々体力には自信はある方だ。
しかし今の俺には、勇者の後遺症の力がある。
勇者をやってた頃は、10メートルを超えるバケモノの群れと、小一時間ぶっ続けで戦ったことだってあるのだ。
それを思えば、この程度の運動では息一つ上がるはずもなかった。
相手のバスケ部も、どうやら疲れが回ってきているようだ。
息が上がり、明らかに動きも鈍くなってきている。
これは、たかが体育の授業。エンジョイのスポーツ体験。
しかし俺は、昔から割と負けず嫌いなところがある。
故に俺は、ただの体育の授業でも決して容赦はしない。
疲れてきている相手の隙をつき、俺はロングパスを放つ。
「ほれ、走れ勇作」
「ちょ! 鬼畜かよっ!」
足の速い勇作なら、全力を出せばギリ追い付けるはずだ。
こうして勇作のシュートのお膳立てをしてやると、またしても女子達から黄色い声援が上がるのであった。
そんなこんなで、この熱の籠る真剣試合。
俺達はワンゴール差で、バスケ部相手に勝利を収めるのであった。
◇
(……あれは、何をやってるのだ?)
先生に、たいいくかん……? という場所に連れられてきた。
中には人がいるようで、何やら激しい物音と声が聞こえてくる。
扉からそっと中を覗いてみると、そこには手で球を弾いている女達に、一つの球を奪い合っている男達の姿があった。
「女子はバレーで、男子はバスケね」
「バレー? バスケ?」
「あら? 知らないの? スポーツの名前よ」
そう先生が説明してくれるが、残念ながらそのスポーツというのも何のことなのかよく分からない。
しかし、もはやそんなものはどうでも良かった。
何故なら我は、男達の中にシンヤの姿を見つけたのだ。
球を器用に扱いながら、華麗に相手を抜き去るその姿。
他の者達は息が上がっておるというのに、シンヤだけは涼し気な顔をしている。
――もはや、圧倒的だな。
その姿に、気付けば釘付けになってしまっている自分がいた。
相手にも身のこなしが軽やかな者もいるが、それでもシンヤとは比べるまでもない。
二手に別れる戦いの中、シンヤだけは別格であることが一目で分かった。
女共は別の男に騒いでいるようだが、見る目が無さすぎる。
あの場において、真に戦いを制しているのは間違いなくシンヤだ。
まぁ中には、そのことに気付いてる女もいるようだが――。
「凄いわね、大滝くん大活躍ね」
「そのようだな」
どうやら先生も、見る目があるようだ。
中々良いものが見られたことに満足しつつ、我はまた別の場所へと案内されることとなった。
まぁなんだ。
我に言えることは、ただ一つ――。
シンヤ、やっぱりカッコイイ――!
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