第22話 謎の美女
それは、昼休みのことだった――。
「おい聞いたか? 謎の美女の話」
「ああ、なんか校内で目撃例がいくつもあるらしいな」
「すっごいカワイイ子だったらしいよ?」
「えー、わたしはすごい美人だって聞いたけどー?」
「銀髪の外国人らしいな」
「俺体育の時少し見たぞ! めっちゃ可愛かった!」
クラスのみんなが、突如学校に現れた謎の美女の話題で持ち切りになってしまっていた。
この学校という箱庭の中でともに過ごす生徒達だ。
同じ場所で起きた異変は、みんなにとって共通のホットな話題なのである。
故にその噂は、あっという間に全校生徒へと知れ渡ってしまっていた。
「なんか、マジの美女だったらしいなぁ」
「それ多分、今朝わたしが話した子と同じ人だよ!」
「ああ、そう言えばそんなこと言ってたな」
「そう言えばって何よ? どのぐらい可愛いのか、わたしも一目拝んでみたいなぁ」
勇作と桃花も、やはりその美女の存在が気になっているご様子だ。
俺だって、それが見ず知らずの他人ならばきっと同じことを思っただろう。
――でもそれ、もしかしなくてもイビアのことなんだよなぁ……。
その正体を知っている俺は、驚きではなく困惑している。
来週から一緒にこの学校へ通うことになっているが、果たして本当に大丈夫なのだろうかと……。
一応先生からは、こっそりとイビアが帰ったことは伝えられているのだが、ちゃんと帰れているのかも正直不安だ。
まぁイビアなら、この世界の誰よりも強い。
たとえ銃を向けられたとしても、恐らく平気だろう……。
だからこの不安は、イビアの安全半分、この国の安全半分だったりする。
どうか、面倒ごとだけは勘弁してくれ……。
――女神、聞こえてるんだろ? 言われた通りイビアを学校へ連れてきたぞ。
――だから、イビアが変なことに巻き込まれないように頼むぞ。
そういえばと思い出した俺は、ダメ元で女神へ脳内で語りかけてみる。
『あー、平気平気。もう家に帰って犬とじゃれ合って遊んでるわよ』
GPSを超えた、超高精度の女神GPS。
脳内にその映像まで映し出してくれるおかげで、無事を確認した俺はほっと胸を撫で下ろす。
子供のようにはしゃぐイビアに、ジョンも楽しそうで何よりだ。
……というか女神って、意外と便利だったりする?
『神相手にそんなことを考えるのは、多分貴方ぐらいなものよ……。まぁいいわ、今日はお疲れ様ね』
――そうか、それはすまんかった。
「なんだ信也? お前は気にならないのか?」
「ん? ああ、まぁ別に」
「そうよ勇作! 信也の傍には、なんたってこのわたしがいるんだもの。どこぞの美女なんて興味ないのよ」
「そういうわけではないんだけどな」
「だってよ?」
「いやいやー、ちょっと恥ずかしがってるだけだよねー? 信也くーん?」
勇作の言葉に、桃花は張り付いた笑みを浮かべる。
そして桃花から発せられる無言の圧に、俺は「そうかもしれない」と答えるしかないのであった。
◇
なんやかんやあり過ぎたけど、今日も一日無事に授業が終わって帰宅する。
玄関を開けるとすぐに、いつも通りジョンが俺の帰りを迎えてくれる。
「ワンワン!」
「ジョン、ただいま」
本当にジョンはお利巧だなぁ。
もしかしたら、世界一お利巧さんなのかもしれないなぁ――。
モフモフ、モフモフ。
「お、帰ったか」
「おう、ただいま」
「う、うむ、おかえり……」
少し遅れて、リビングから出てきて出迎えてくれるイビア。
しかし、イビアにもただいまを伝えると、何故かその顔を赤らめる。
その理由はよく分からないが、こうしておかえりを言ってくれる人がいることが、俺は素直に嬉しかった。
別に一人でも大丈夫だと思っていたけれど、やっぱり心のどこかでは寂しいと思っていたのかもしれないな……。
ちなみに今日は金曜日。
明日から土日で学校は休みのため、こっちの世界へ帰ってきてやっとゆっくりできそうだ。
とは言いつつも、今はイビアも一緒。
この土日でやっておくべきことは、まだまだありそうだな……。
今日だって色々あったけれど、それはイビアも同じ。
見知らぬ世界で、学校見学を頑張ったイビアのことを少しは労ってやらないとな。
だから今晩は、イビアのためにハンバーグを作ってやることにした。
ハンバーグには少し自信があるから、イビアがどんな反応を見せるか今から楽しみだ。
---------------
<あとがき>
イビアちゃん、さっそく学校中の話題に!
当の本人は、モフモフの犬と子供のように戯れているのでした。
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