第35話 店長の視点
絹のように美しいブロンドヘアーに、透き通るような白い肌。
ルビーのような深紅の瞳は、一目見るだけで吸い込まれてしまいそうになる。
ここは、ヴァンパイアカフェ『ブラッドドレイン』。
選りすぐりの美少女ヴァンパイアのみを集めた、至上の
しかしその来店してきた少女は、この楽園の中においても明らかに別格だった。
上手く言葉では言い表せられないが、とにかく別格なのだ。
そう、例えるならば、彼女はヴァンパイアのコスプレではなく、本物の風格が感じられるというか……。
そんなことを思いながら、わたしは今日もプロとして店長の業務をこなしている。
キッチンで次々頼まれる注文を捌きつつ、時折店内に気を配る。
多くはないが、うちのキャストは全員が美少女。
それ故、たまに問題を起こすお客様も現れるため、わたしがみんなを守らなければならないのだ。
しかし、それでも今日も問題が発生してしまう。
しかも今回は、うちのキャストではなく、お客様で来たあの謎の美少女が絡まれてしまっていた……。
――クソ、また迷惑肉団子ね。
トラブルを起こしているのは、うちの常連の一人の迷惑肉団子もとい、ふとしさんだった。
ブクブクと太った身体をしており、よく上から目線でキャストに調子づいた物言いをする迷惑客だ。
まぁ出禁にするほどではないし、よく来てはくれるからギリギリ受け入れていたけれど、まさかキャストではなくお客様にまで矛先を向けるとは思わなかった。
――よし、出禁決定。
お金より、このお店の秩序が大切。
ふとしさんに出禁を伝えるため、わたしは意を決してキッチンを出る。
……しかしそこで、予想外の事態が発生する。
「……触るな、肉団子」
絡まれていた謎の美少女は、あろうことかふとしさんの身体を、片手で楽々持ち上げて見せたのだ。
軽く体重が三桁超えているであろう青年男性を、華奢で小柄な少女が片手で持ち上げているその光景に理解が追い付かない。
それはふとしさんも驚いたようで、その巨漢を空中でジタバタさせるもビクとも動かない。
「……わたしに、二度と触れるな」
「は、はは、はひぃ!!」
ふとしさんの謝罪をもって、少女はその手を解いた。
興味なさそうに席へ戻る少女だが、わたしはある異変に気が付く。
少女の背中から黒い羽が生えているのである――。
その姿は、まるで本物のヴァンパイアのようだった。
ここのキャストでもないのに、どうして……?
理解が全く追い付かないし、あの羽は本物のようにも見える。
――本当に、何者なの……?
まさかと一つの可能性が脳裏を過るも、すぐにそんなはずはないと否定する。
それでも、先程の光景を総合的に判断すると、そうであるとしか思えない……。
席へ戻った少女は、お連れのもう一人の美少女から叱られていた。
慌てて羽を消すも、逆にそれが決定打となる。
この世界、手品でもあんな風に物を出したり消したりはできないのだ。
――やっぱりあの子、ヴァンパイアだわ!
そう確信したわたしは、意を決して少女達のテーブルへ近づく。
「あの、すみませんっ!」
「なんだ?」
意を決して声をかけると、ヴァンパイアの少女ではなく、隣の美少女が返事をする。
その様は凛々しくて、ヴァンパイアの少女を守るように間に立ちふさがる。
目の奥にある力強さは、間違いなく本物。
そんな美少女の陰に、ヴァンパイアの少女は申し訳なさそうに隠れている。
しかしわたしも、今更引けない。
背中からじわりと嫌な汗を流しながらも、振り絞って言葉を続ける。
「あ、あの、い、今のご職業は!?」
「はぁ?」
「だ、だからっ! 今、ど、どこかで、働いているのかと!」
「……それが今、関係あるのか?」
尚も厳しい視線を向けてくる美少女。
そしてその言葉も、100%正しかった。
変に前置きをしようとしてしまったから、言い回しが変になってしまった。
だからここは、覚悟を決めて単刀直入に用件を伝える作戦へと変更する。
「す、すみませんっ! その、も、もしよろしければ、うちで働きませんかっ!?」
そう、わたしはこのヴァンパイアの少女に、是が非でもうちで働いて欲しいと思ってしまったのであった――。
--------------
<あとがき>
間隔空いてしまい申し訳ございません。
マイペースにはなりますが、続けていきますのでよろしくお願いします!
評価や感想もありがとうございます! とても励みになっております!
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