第24話 休日

「なんだこれは!? 美味すぎるぞっ!!」


 シンヤの作ってくれたハンバーグという料理に、思わずほっぺが落ちそうになる。

 ミンチ状の肉を固めただけに思えた料理だが、侮ることなかれ食べてビックリ!

 このハンバーグは、見た目から想像した味の数十倍は美味しいのだ!

 これまで散々驚いてきたが、どうやらこの世界にはまだまだ未知が溢れているようだ――。


「なんだ? そんなに美味かったか?」

「うむっ! これは相当美味しいぞ!!」

「あはは、そうか」


 我の返事に、楽しそうに優しい笑みを浮かべるシンヤ。

 思えば無表情だったシンヤも、我の前で笑みを浮かべていることが多くなっているような気がする。

 それが我も嬉しくて、自然と一緒に笑みが零れてしまう。

 ここは異世界だけれど、こんな風に気兼ねのない日常を送れる幸せ。

 こんなに幸せでいいのだろうかと、不安になってくるぐらいだ。


 思えば我は、魔王城を黙って出てきてしまう結果となってしまったが、みな元気でやっているだろうか……?


 どうやらこちらの世界と向こうとでは、時間の流れが違うようだ。

 だから向こうでは、我がいなくなってからかなりの月日が流れていることになる。


 色々と心配ではあるが、まぁ優秀な部下達だ。

 きっと我がいなくても大丈夫だろうし、むしろいない方が上手く回るに違いない。

 だから今は、この目の前の絶品ハンバーグに集中するとしよう――。


「あ、そうだイビア。明日だが、午前中からちょっと出かけようと思うんだ」

「出かける? どこへだ?」

「少し歩いたところにある、河川敷にある公園だ。久々にジョンと遊ぼうと思ってな」

「かせんしき? こうえん?」

「あー、そうか。まぁ、川沿いに遊ぶための広場があるんだ」


 なるほど、つまりそこへ行ってジョンと遊ぼうというわけか。

 そこがどんな場所か興味があるし、何より我もジョンとは遊びたいぞ!


「分かった! 楽しみにしておこう!」

「ああ、よろしくな」


 こうして我は、明日その公園とやらへ遊びに行くこととなった。

 どんな場所かは分からないが、今から遊ぶのが楽しみだ。



 ◇



「わぁ! ここが公園かぁ!」

「ワンワン!」


 次の日、俺はジョンとイビアを連れて河川敷の公園へとやってきた。

 家から二十分ぐらいの距離にあり、イビアは道中も楽しそうに街並みを眺めていた。


 ジョンのリードを外してやると、一目散に走りだすジョン。

 そんなジョンを追いかけるように、イビアも一緒に駆け出していく。


 今日は動きやすいように、Tシャツにデニムパンツ姿のイビア。

 カジュアルな服装でも、イビアが着るとモデルのように着こなしている。

 ポージングでも取っていれば様にもなるのだろうが、無邪気にはしゃぐその姿はモデルとは程通り。

 本当にこうしていると、普通の女の子にしか見えないな……。


「ワンワン!」

「あははは! こらジョン、くすぐったいぞ!」


 ジョンともすっかり仲良くなっており、芝生の上で楽しそうにじゃれ合っている。

 せっかく買った新しい洋服も、これではすぐに汚れてしまいそうだな。


「おい! シンヤも突っ立ってないで、一緒に遊ぶぞ!」

「ワンワン!」

「はいよ」


 空を見上げれば、最高の快晴。

 鞄から持ってきたフリスビーを取り出すと、今日は俺も思う存分遊んでいこうと思ったその時だった――。


 パキッと割れるような嫌な音とともに、ぐにゃりと歪みだす空間。

 それはこの間、イビアがこの世界へやってきた時と全く同じ歪みが生まれる――。


 つまりこれは、また誰かがこの世界への転移を試みているということ。


「な、なんだあれは――!?」


 突然出現した空間の歪みに、驚きの声を上げるイビア。

 それもそのはず、この世界ではろくに魔法を扱うことができないのだ。

 だからイビアが驚くのは理解はできるのだが、残念ながらこれが自分がやってきた時と同じ事象だとは思いもしないのだろう……。


 そして空間の歪みの中から、ゆっくりと姿を現す一人の人物――。



「良かった。成功したみたいね――って、きゃあ!」


 姿を現した人物は、イビアの時と同じくそのまま地面へ落下する。

 黒のゴシックドレスを着た色白の金髪少女で、背中には黒い羽が生えているにも関わらず飛ぶことを忘れていたようだ。

 

 痛そうにお尻を摩りながら立ち上がった少女は、ここがどこかを確認するようにキョロキョロと周囲を見回す。

 そしてイビアの存在に気が付くと、満面の笑みを浮かべる。



「魔王様っ!! 魔王様なのですねっ!!」



 そう言って少女は、嬉しそうに魔王のもとへと駆けだすのであった。

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