第25話 再会

 空間転移でやってきたのは、金髪の少女だった――。


 少女はイビアを見つけるなり、泣きながら抱き付く。

 そんな少女を受け止めながらも、少し困ったような笑みを浮かべるイビア。


 そんな抱き合う美少女二人の姿を見ていると、俺もようやく思い出す。

 あの少女は、魔王城へ行った際に玉座の間の前で立ちふさがってきた吸血鬼だと。


 だから少女は、その見た目に反して魔王軍の中でも指折りの存在だろう。

 当時の俺の力が強すぎたせいで、正直異世界の相手は全てが同じにしか思えなかったのだが……。


 だが、そうなると危険かもしれない。

 今はイビアと嬉しそうに抱き合っているが、何を目的に来たのかで対応も変わってくる。


 というか……。


 ――おい女神。またか?


 俺は呆れつつも、念話で女神へ問いかける。

 そもそも、イビアで異世界転移は無理だったのだ。

 その側近が、単独でこの世界へ転移してこられるとは思えない。


 となれば、これをやったと思われる人物はただ一人……。


『ええ、だって頑張ってたんだもの』


 程なくして、何の悪びれもなしに女神からの返答がくる。


 ――そんな理由で、ホイホイと異世界の住民をこっちへ連れてくるなよ……。


『それはまぁ、そうかもしれないわね』


 そうかもしれない、じゃないだろ……。

 俺を異世界へ連れて行ったり、異世界の魔王や側近を連れてきたり、ちょっとこの女神さん自由すぎやしないか……?


『でもいいじゃない。イビアちゃんも一人だと不安だろうし?』


 ――じゃあ、イビアを元の世界に帰した方が良かったんじゃないか?


『ああ、たしかに』


 たしかに、じゃねーよ。

 どこまで考え無しなんだ、この女神は……。


『でも、もうしばらくはこっちに居させてあげなさいよ。二人とも、望んでこっちへ来てるんだから』


 ――それは……まぁ、帰れるなら。


 反論しようと思ったが、脳裏にハンバーグを美味しそうに食べているイビアの姿が思い浮かぶ。

 こっちの世界の料理を食べながら、あんな幸せそうな姿を見せられてしまっては、もうしばらくこっちの世界にいさせてやってもいいかと納得してしまう自分がいた……。


『てことで、あの子――リリムちゃんも、面倒見てあげてねっ!』


 ――あ、おい待て!


 呼び止めようとするも、女神との念話はそこで途絶えてしまう。

 本当に自分勝手な女神様だ……。

 これからどうしたものかと一人頭を悩ませていると、やっと落ち着いたのかリリムは俺の存在にも気が付く。


 そして、この場に俺がいると知るや否や、警戒するようにその表情を険しくさせる。


「……お前は、勇者」


 イビアを庇うように、俺の前に立ちふさがるリリム。

 その臨戦態勢を取る姿は、魔王城で会った時と完全にシンクロする。

 あの時は俺が攻撃を受け止めたが、もしまた同じように飛び掛かられたら今の俺では恐らく無理だろう。


 しかし、リリムは俺の力のことは当然知らない。

 近接戦は敵わないと踏んだリリムは、俺との距離を保ちながら別の行動を取る――。


「食らい尽くせ――ブラッド・ドレイン!」


 片手を前へ突き出しながら、高らかに魔法を詠唱するリリム。

 しかし魔法陣はすぐに飛散すると、そのまま魔法は不発に終わってしまう。


 それもそのはず、この世界にはマナがほとんどないのだ。

 そんなおっかない攻撃魔法、この世界で扱えるはずがないのである。


「――なっ!?」


 魔法が使えないことに、驚いて言葉を失うリリム。

 そして、何を思ったのか俺を鋭く睨みつけてくる。


「何をしたっ!?」

「何って、何も……」

「嘘だっ!!」


 どうやらリリムは、俺が魔法を打ち消したと勘違いしているようだ。

 どうしたものかと思っていると、ゆっくりとリリムの背後に近づくイビア。

 そして右手を上げると、そのままリリムの頭目がけて軽くチョップを食らわす。


「あいたっ!」

「馬鹿者、少し落ち着け。シンヤはもう敵ではない」

「で、ですが魔王様! 相手は勇者で!」

「おい。我の言うことが聞けぬのか……?」

「い、いえっ! 申し訳ございませんでしたっ!」


 食い下がるリリムに、イビアは魔王の威厳を発揮する。

 するとイビアの言葉に、リリムは慌てて頭を下げるのであった。


 家では最早、ゆるキャラの域に片足突っ込んでいたイビアだが、やっぱり魔王は魔王なようだ。

 そんな、初めて見るイビアの魔王らしい姿に感心していると、イビアは小声で「せっかくジョンと遊んでいたというのに……」と愚痴を漏らしており、どうやらリリムとの再会よりもジョンとの遊びの方が大切なようだ。


 まぁ、魔王からしてみればこっちの世界へきてまだ三日目。

 リリムと別れてまだ日も浅いから、そんな感慨にふけることはないのだろう。


 こうして、イビアはリリムにこっちの世界でのことを説明したうえで、俺に一つ相談を持ち掛けてくるのであった。


 無理は承知で頼みたい。リリムも一緒に、住まわせてはくれないか? と――。


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