第10話 話し合い
「とりあえず、だ……」
「あ、ああ……」
ソファーへ座りながら、改めて魔王と向き直る。
今朝はバタバタしていたが、魔王とはもっと色々と話し合わなければならない。
魔王は渡したパーカーを着ているが、恥ずかしそうにモジモジとしている。
どうやらさっきの件を気にしているみたいだ。
やはり異世界の魔王であっても、中身は女の子ということだろうか。
その件に関しては、見てしまった俺も申し訳ないとは思っている。
「改めて色々質問させて貰うが、いいか?」
「今更隠すアレもない。言うがよい」
「そうか、じゃあまず初めに。――どうしてこの世界へやってきた?」
そう、まず一番肝心なこと。
どうして魔王が、この世界へやってきてしまったかについてだ。
今朝は俺との決着を付けにきたと言っていたが、それが真実ならば俺も色々考えなければならないだろう……。
「……それは」
俺の問いかけに対して、魔王はどこか恥ずかしそうな素振りを見せながら言葉を濁す。
しかし、ここははっきりと包み隠さず教えて貰わないことには話が進まないと思った俺は、魔王が言うまでじっと見つめて待つ。
「……その、あれだ」
「なんだ?」
「あ、あまりジロジロ見られると、ちょっと言いづらい……」
「いいから言え」
「むぅ……だから、その……暇、だったのだ」
「……は?」
魔王から語られたその理由に、俺の口はあんぐりと開いて固まってしまう。
あまり感情を表に出さない俺をもってして、その魔王からの返答は全くもって予想外のものだった――。
――暇だったから、この世界に来た?
――何を言ってるんだ、こいつは?
驚いて、言葉が続かない。
暇だから世界を渡る存在なんて、世界広しと言えどこいつぐらいだろう。
すると魔王は、俺の反応を受けて慌てて言葉を付け足す。
「い、言われた通り、人間の国王とはちゃんと和平を結んだぞ!? だからもう、かつてのように人と魔族が争うことはなくなったぞ!」
「そうか、それはちゃんとやってくれたんだな」
「あ、ああ! でなければ、魔王である我がここへいるはずもなかろうっ!」
言いつけを守ったことに感心する俺に、魔王はドヤ顔を浮かべる。
まぁ和平を結んだからといって、こっちの世界へきて良い理由には全くもってならないのだが、話が発散するからここはつっこまないでおく。
「しかし、そうか。思ったより早く片付いたのだな」
「へっ? 早くとは、どういう意味だ?」
「どうって、俺がそっちの世界から帰ってきて、まだ一日しか経ってないからな」
「なん、だと……!?」
俺は昨晩、こっちの世界へ帰ってきた。
だから厳密には、まだこの世界へ帰ってきて一日すら経っていないのだ。
しかし目の前の魔王は、何故か驚いた表情を浮かべている。
「……そうか、こっちとは時の流れが大きく異なるのだな」
「どういう意味だ?」
「向こうでは、一年と数ヵ月が経過している」
「なるほど、な……」
魔王の反応から何となく察しはついていたが、やはりこっちと向こうの世界では時の流れが異なるようだ。
魔王がこっちの世界へやってきたのは、今朝のこと。
つまりこっちの数時間が、向こうだと一年の時と比例するということになる。
女神は俺に時間は戻ると言っていたが、そもそも俺が異世界へいたのは約一ヵ月ほど。
つまり時間を戻さずとも、こっちの時間軸では一時間も経っていなかったということになるわけか……ややこしいな。
「国王との和平はすんなり決まってな、僅か二ヵ月ほどで全てが締結した。その後は国王に、人間の文化について色々と教えて貰い、その中で内政というものを学んだのだ」
「ほう?」
「国の民は、みな我の言うことにただ従っていた。だがそれでは、国としての機能が行き届かない。限界があったのだ。だからこそ、人間の内政という仕組みに興味を持った我は、自分の国でも内政の導入を試みたのだ」
なるほどなと、俺は頷く。
思ったよりも、魔王はちゃんと国のことを考えて行動していたことに感心しながら。
「我の配下は、元々みな優秀だ。内政を導入した結果、みなで協力し合いすぐに機能しだした。――その結果、何が起きたと思う?」
「さぁ、何だろうな?」
「答えは――――我のすることが、ほとんどなくなってしまったのだ」
どこか寂し気に、そんな答え合わせをする魔王。
「争いがなくなった結果、みなの矛先は、いかに我を楽にさせるかに代わっていったのだ。それはありがたいことだし、気持ちも嬉しい。……しかし、優秀な部下に恵まれ過ぎた我は、本当にすることがなくなってしまったのだ……」
「……なるほど」
「何かしようにも、いつも『魔王様はゆっくりしていてください!』って止められてしまってな、ただ自室で自堕落な日々を送るしかなくなってしまったのだ。そんな中、何度も思い出されたのが――」
「――俺ってことか」
「そうだ。圧倒的な力をもってして、この世界を平和へと導いてくれた勇者――。することのなくなった我は、あのあまりに一方的だった戦いのことを何度も思い出すようになった。どうしたら勝つことができたかと、何度も脳内で挑み続けてみるものの、残念ながら勝てるプランは全く思い浮かばなかったな」
「まぁ、そうだろうな」
「自分で言うな、馬鹿者。――まぁそんなわけで、することの無くなってしまった我は、あの時のことを思い返す度にもう一度お前に会ってみたくなったのだ」
「それで、こっちの世界へ来たと?」
「ああ、まさかそのまま帰れなくなるとは思いもしなかったのだがな」
最後は苦笑いを浮かべながらも、包み隠さず理由を教えてくれる魔王。
――なるほどな、それで今魔王はここにいるわけか。
理由は分かったし、どうやらこっちの世界で暴れに来たわけではなさそうなことにひとまず安心する。
「まぁ、何ていうか、色々あったのだな」
「まぁな……だが、今思えばこれで良かったのかもしれない。そこに我がいれば、みな我のことを第一優先してしまう。だからいっそ、国のことを思えば我はいない方が良いのだ。これからは我ではなく、国の民の方を優先して欲しいと思うから」
それはきっと、魔王の本心――。
だって、そう語る魔王の表情には、優しい笑みが浮かんでいるから。
「それにだ」
「なんだ?」
「こっちの世界は、美味しいし面白い! 全ての文明が、異次元だ! だから我は、もっとこっちの世界のことを色々と知りたくなったぞ!」
そう楽しそうに語る姿はもう、魔王ではなくただの少女にしか見えないのであった。
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<あとがき>
ニートになった魔王様、異世界を自由に謳歌する
こっちのタイトルでもいいかな?笑
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