第19話 一緒に登校
「おかえり、シンヤ」
今日もジョンとの散歩を終えて家に帰ると、イビアが出迎えてくれる。
ちゃんと支度を済ませてくれていたようで、今日は昨日買った白色のワンピースを選んだようだ。
改めてよく似合っているというか、服がどうこうと言うよりもイビアなら何でも似合ってしまうのだろう。
「うん、ただいまイビア」
そんなイビアに、俺もただいまを返す。
こうしておかえりを言って貰うのは、思えばいつぶりだろうか……。
これもイビアが一緒に居てくれるおかげかと思うと、ちょっとだけ嬉しい気持ちが込み上げてくる。
当のイビアはというと、何故か顔を赤らめながらわたわたとしているが。
そんなこんなで、朝食と身支度を済ませると、イビアを連れて一緒に家を出る。
ちなみに食事をしながら、今日これから学校へ行くことは伝えてある。
女神の指示により、一緒に学校へ行かなくてならないこと。
それから、俺自身も未だに半信半疑なのだが、来週からイビアも同じ学校へ通うことになるかもしれないということ。
こんな話を急にされても、きっとイビアだって困惑してしまうだろうと思っていたのだが、意外にもイビアは興味津々な様子だった。
そういえば、女神もこれはイビアが望んだことだとか言っていたな。
聞けば、どうやら昨日テレビで女子高生の特集が放映されていたようで、それに少し影響されているみたいだ。
「シンヤの通う学校がどんなところか、楽しみだな!」
「普通の学校だぞ」
「むしろ、それがいいのだ!」
満面の笑みを浮かべながら、ワクワクした様子のイビア。
よく分からんが、イビアが楽しみだと思うならまぁいいか。
こういうポジティブなところは、俺も見習うべきなのかもしれないな。
そんな会話をしながら歩いていると、通っている高校の近くまでやってきた。
高校は徒歩圏内にあり、毎日家から歩いて通学している。
「ほう、あれがシンヤの通う学校か?」
興味深そうに、学校を眺めるイビア。
周囲にはちらほら同じ高校の生徒の姿もあり、女子達の制服姿にもどうやら興味があるみたいだ。
まぁそんなイビア以上に、周囲の人達はイビアの姿を見て驚いているみたいだが……。
やはりこの容姿は目立つようで、男女関係なくその姿に見惚れてしまっているようだった。
遠巻きに「お姫様みたい……」なんて声も聞こえてくるが、残念ながらお姫様ではなく魔王様だ。
早めに家を出てきたから、幸いまだあまり多くの人には見られていない。
しかし、あまりのんびりしていると騒ぎになってしまうだろうと思い、俺は急いで職員室へ向かうことにした。
生徒の出入り口とは別に、訪問者用の入り口から来賓用のスリッパに履き替えると、そのまま職員室の扉の前までやってきた。
「……ここだ。開けるぞ」
「う、うむ……」
俺の緊張が伝わったのか、イビアも緊張の面持ちで頷く。
俺は一度深呼吸したのち、3回ノックをして扉を開ける――。
「失礼しま――」
「あ、来た来た!」
俺が言い終えるより先に、待ってましたとばかりに担任の青柳先生が駆けつけてくる。
俺のクラスの担任で、担当科目は国語。この高校のOBでもあるらしい。
歳はまだ20代半ばぐらいで、歳も近くて話が合うと生徒からの人気も高い先生だ。
茶色のフワフワしたミディアムヘアー、綺麗よりも可愛い寄りの見た目をしており、噂によると彼氏は暫くいないらしい。
しかし、なんで先生は今日俺達が来ることを分かっていたのだろうか……?
ワケが分からないながらも、俺達はそのまま応接間へと案内される。
「じゃあ、早速本題ね」
「は、はい」
「そちらのイビアさんが、わが校へ編入希望されているってことでいいかしら?」
「え、ま、まぁそうです」
待て待て、先生はどこまで知っているんだ……?
まだイビアの自己紹介をしていないし、この話は俺が昨晩初めて女神と会話した内容だというのに、何故か先生は全ての事情を知っているようだった。
「本来なら編入試験が必要なのですが、イビアさんは特待生ということで免除されているわ」
「えっ?」
「ん? どうかした?」
「いえ、何も……」
ずっと気になっていた懸念が、まさかの特待生の一言で解決してしまったことに驚いて思わず声が出てしまった。
本来編入には、編集試験が必要なはずなのだ。
まぁそれを言うなら、元々女子高生でもないイビアが編入な時点で、違和感しかなかったわけだが……。
「えっと……先生は今回の件、誰から何て伺っているんですか?」
堪らず俺は、先生へ質問する。
そもそも今回の件、誰からどう話が伝わっているのかが全く見えないからだ。
「え? 誰からも何も、これは校内での決定事項ですので」
「決定事項?」
「はい。なので手続きとか諸々は、今回全部わたしに一任されているのよ。あ、クラスも大滝くんと同じだから仲良くするのよ」
具体的な回答は何も得られなかったが、どうやら既に学校側は全て受け入れてくれているようだ。
試験だけでなく、戸籍や学費など諸々の問題があるはずだが、その全てが「特待生」の一言で片付けられてしまっている。
だから俺も、ひとまず細かいことを考えるのをやめた。
多分これも、全てが女神の仕業なのだろう。
だからもう、この件はこっちの世界の常識で考えたら負けなのだ――。
「じゃあ、イビアちゃんは暫くここで待っていてね。朝のホームルームが終わったら、わたしが制服の支給と簡単な案内など全て対応しますからね」
「え、制服もですか?」
「ええ、特待生ですからね」
「そうですか……」
もう何でもアリだな、特待生恐るべし……。
こうして女神の言う通り、何の問題もなく編入手続きはあっという間に完了してしまうのであった。
何もないことが、むしろ問題しかないと思うのだが……。
「なんかよく分からんが、シンヤはもう行くのか?」
「ああ、授業が始まるからな」
「そうか、分かった」
少し寂しそうにしつつも、俺を見送ってくれるイビア。
こうしてイビアを応接間へ残し、俺は不安しかないながらも自分のクラスへと向かうのであった――。
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<あとがき>
理屈など不要。すべては女神の意のままなのである――。
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