ep2.鬼の女将は狐の女将?
■後神暦 2649年 / 秋の月 / 空の日 pm 11:30
――貿易都市ツーク近郊の丘
「ゼェ……ハァ……おえっ…………」
「まったく……情けないのぅ、あれしきの事で」
あれしき? バカを言うなって。
オレを肩に担いで、天地が分からなくなるほどに跳ね回るのがあれしき?
三半規管がパァになるかと思ったんですけど?
「馬車で7日はかかる距離を3日でついたのは凄いけどさ……
視えない足場を創る魔法……
「お陰で容易に森を突っ切れたじゃろう?」
「そうだけどさぁ……うぷっ……!」
折れた刀の買い替えに貿易都市ツークまで来るのはいい。
オレも商業貿易で栄えた街に興味がある。
でもさ……脚がパンパンになるまで走って、脚が動かなくなったら担がれて振り回されるのは違うんじゃないか?
視界が揺れる気持ち悪さで四つん這いから起き上がれない。
さっきから燃やしている生木も煙がひどくて余計に具合が悪くなる。
「カカカ、悪かった。次はもう少しゆっくり跳ぶようにする」
「……いや……次はない方がいい」
「まぁそう言うな。……しかし遅いのぅ」
背中をさすってくれていたレンが立ち上がって辺りを見回しているようだ。
とりあえず体制を変えようと顔を上げると、目と鼻の先に褐色の女性の笑顔があった。
「アレクくん久しぶり~」
「おわっ!! アリア!? なんでいるんだ!?」
「随分と遅かったな、待ちくたびれたぞ?」
今の口ぶりだとレンはアリアが来るって分かってたのか。
「いやいや~、もう夜だよ? もう寝よっかなーって思ったらアレが飛んできたんだもん。ビックリするから止めてよ~」
「はんっ、嘘を吐くなアリア。あの程度の殺気で怯えるワケないじゃろ」
あ……そう言えばレンが森を抜ける少し前に圧を放ってたな。
あれって殺気だったの? アリアに向けて? 怖っ……
「なぁ、なんでそんなことしたんだ?」
「レンちゃんが街に来るときの合図なんだよ~。
で、あたしが荷物に紛れさせて人目につかないように家まで連れてってあげるんだ~」
「アリアはオルヴィム以上に気配に敏感じゃからな」
聞けば生木を燃やしていたのも
でも、どうしてそんなことをするのか、意図が分からず考えていると察したアリアが教えてくれた。
「レンちゃんは恥ずかしがり屋なんだよ~。顔見られるのヤなんだもんねっ?」
「なっ!? 違う、ワエは……」
「そんなレンちゃんに朗報でーす!! コレっ!!」
レンの言葉を遮ってアリアが差し出したのは……仮面?
白い狐を模した面は、所々が化粧のように朱く彩られている。
仮面を一瞥して、レンは少し不機嫌そうに表情を曇らせた。
「莫迦にしておるのか……? こんな面を着けたところで意味を成さないことは分かっているじゃろ?」
「ままま、良いから着けてみてよ~」
訝しみながらレンが面を着ける、すると……
「「は?」」
レンと声が揃った。オレたちが驚くのは仕方がない。
だって、今のレンはどこからどう見ても『
額の角や長く尖った耳は消え、彼女の金糸のような髪と同じ色の獣の耳と尾が現れた。いつもと違ったその姿は神秘的な美しさに目を奪われる。
レンは身体の違和感に驚いたんだろうけど、オレはもっと驚いてるよ。
「おばーちゃんがね、レンちゃんに渡してって持ってきてくれたんだぁ~。
認識阻害? とかなんとかが出来る魔導具で、姿もアレも抑えれるんだって。
実際、あたしも今のレンちゃんは全然怖くないよ!」
「なんと!? 姐様がこんな素晴らしいモノをワエの為に……? おぉぉぉ……!」
ティスタニアがおばーちゃん?
でもレンに姐様って呼ばれてるくらいだから、実はすごい年上なのかも……
それはそれとして、本当に嬉しそうだな。よかったなレン。
「あ、ちなみに大体半日で効果がなくなるらしいよ~。
あと、消耗品で10回くらい使ったら壊れるって言ってた!」
「は? 莫迦者!! 貴重な1回を使ってしまったではないか!!」
おぉう……そこはレンに同意だ。
上機嫌と不機嫌を高速ターンしたレンの情緒が心配だ。
そんなことはお構いなしにアリアは続ける。
「ごめんて~、でも今の時期に来てくれて助かったかも」
「……どう言うことじゃ?」
「オル兄ちゃんのことでちょっと困っててさぁ~」
何だか厄介ごとの気配がするのは気のせいだろうか……?
狐姿のレンを見るオレは「ちゃんと聞いてあげて」と、誰かにお願いされた気がした。
【狐レンカク イメージ】
https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093080735764123
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