ep3.末裔と鬼はたわわに振り回される
■後神暦 2649年 / 秋の月 / 地の日 am 10:00
――貿易都市ツーク
アリアの家に泊めてもらい一夜明け、今日はツークの商店街を見て回る!
……ことはなく、建物の間に隠れてある店を遠目から窺っていた。
「なんでこんなことになってるんだよ……」
「そうじゃ、ワエも面をまた使いたくなかったぞ」
「相談したのについて来てくれないつもりだったの~? ひどいよ~」
アリアの相談。
ワスレナグサにも行商に来てくれているオル兄ちゃんことオルヴィムさん。
彼が最近、花屋の女性に恋をしている、らしい。
「別に恋愛は自由なんじゃないか?」
「そうじゃ、人の恋路に口をだすな。ワエは面をまた使いたくなかったぞ」
「ちゃんと話聞いてくれてたぁ? 絶対ヤバい女なんだってば」
アリア曰く、花屋の女性は外面が良いだけで裏がある、そうだ。
しかし、店先に出ている彼女は穏やかで優しげな雰囲気を纏っている。
「どう見ても優しそうな人で裏なんかなさそうだけどなぁ」
「アリアの嫉妬じゃろうて。ワエは面をまた使いたくなかったぞ」
「違うもん! 本当にヤバい奴なんだもん!」
「……おい、オルヴィムが来たようじゃぞ」
「どこどこ!? どの人!?」
実はオルヴィムさんを見るのは初めてだ。
いつも姿を隠していつの間にか、いなくなっているので会ったことがない。
でも、レンが『あれじゃ』と言って指差した人を見てオレは唖然とした。
「女の子……? 『兄ちゃん』じゃなかったのか?」
「いや、間違いなく男じゃよ、それにお前さんより年上だぞ?」
「嘘だろ……」
茶色の髪に部分的に白い髪、背もそこまで高くなく、何より華奢だ。
アリアと並んだら絶対に妹だと言われるだろう。
……これは間違いなく第二のシノさんショックだ。
そんな可憐な青年(?)は躊躇いながら花屋のお姉さんに贈り物を渡した。
でも、あの贈り物は”アリ”なんだろうか……?
「あ~何やってのオル兄ちゃん……花屋に花束って……」
「だよな、悪くはないけど、花屋の店先で渡されてもな……」
「しかし、喜んでるみたいじゃぞ?」
「フリだよ! フリっ!! あんな奴、オル兄ちゃんに相応しくない!!」
「で……どうするんだ? とりあえず、何日か張り付いてみるか?」
「嫌じゃ! ワエは面を使いたくないんじゃ!」
駄々をこねるレンは隔日で様子を見ることで渋々首を縦に振ってくれた。
長期の滞在は宿が心配だけど、立て札もしてきたし、大丈夫だと思いたい。
…
……
………
…………
――数日後……
「「「…………」」」
アリアの家で三人、無言で顔を見合わす。
花屋のお姉さん……何と言えばいいか……
「ド真っ黒だったな……」
「女とは恐ろしいものじゃ……」
「一括りにしないでよぉ、レンちゃんも女なんだからね?」
刹那主義は否定しない。
けれど、彼女は様子を見ていた日の全てが違う男と過ごしていた。
それも時間をズラして1日に何人もの男と逢っていた。
「全部で八人だったっけ? よくバレないでいるよな」
「ヤバそうな奴もいたし、お金も貰ってたよね~……」
「で、どうするんじゃ?」
「「「う~ん……」」」
レンに任せれば結果は見えてる。
力&パワー、例え相手が悪女でも物理的に叩きのめすのはマズい。
「ダメだ、全っ然思いつかない」
「もう流れに任せるしかなかろう?
それにあの女、恐らくオルヴィムの倍は年上じゃ、一時の憧れみたいなもんじゃろ」
「ヤダっ! 無責任だよ~! それにオル兄ちゃんが年上好きになったのって、レンちゃんのせいなんだからね!!」
「「は?」」
レンと声が揃う、最近多いな……
アリア曰く、オルヴィムさんの初恋の相手はレンなんだとか。
「そんなことはない。オルヴィムもワエを畏れているじゃろ」
「そうだけど本当だもん、怖さのドキドキが良かったんじゃない?
吊り橋効果ってやつだよ!」
なんだろう、ちょっとモヤっとするな。
まぁそれは置いておくとして……自分が熱中してることって、他人にどう言われても意味ないと思うんだよなぁ。
「恋とかは分かんないけど、やっぱり自分で気づかないと変わらないんじゃないか?」
「あの女の逢瀬を見せるのか? それはあまりに酷な――……」
「それだーーーーっ!!!!」
突然の大声にビクリと肩が跳ねた。
叫んだアリアの瞳は、奥に星が視えるかと思うくらい爛々としている。
「アレクくんの案、採用っ!!」
嘘だろ……? オルヴィムさんに対してエグ過ぎないか……?
満面の笑みのアリアを見るオレは「昼ドラね!」と、誰かにワケの分からないことを言われた気がした。
【オルヴィム イメージ】
https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093080876250278
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