レンカクside.『逃げなくて良かった』
時間が戻ります。
シノが宿泊にくる直前からのレンカク視点の出来事です。
――――――――――
■後神暦 2649年 / 夏の月 / 地の日 am 07:00
――『ワスレナグサ』 レンの私室
「うむ! やはり良い!」
鏡に映る己を見て言うのもなんじゃが、この着物と帯は特別。
七代前のオルコ家次男の奥方の着物……の、れぷりか。
とは言え、元の柄は
「しかし、手入れはしておるが、本当に劣化しないとは凄まじいのぅ……」
これを頂いたは70年以上前。
この宿で暮らし始めて暫くした頃に、姐様が贈ってくださった。
曰く、特別な技術と糸で織られいる、だったかの。
「カカ……思い出すのぅ。
まだ幼い頃、
なんだか嬉しくなり、鏡に向かって気取って立ってみる。
ふむ、これならいっぱしの女将に見えるじゃろう!
そうして、特別な着物を纏い、特別なお客様を出迎える。
全てつつがなくことが進んでいった。
――同日 夜 『ワスレナグサ』 客間
「レン、少し外してください、彼と話をしたいので」
何が起きたか初めは分からなかったが、部屋を出て気づいてしまった。
とたんに、どくんと心臓が跳ねる。
アレクはおじ様と同じ国から逃げてきたんじゃ、だから『アレックス』と名乗った。
それをワエはバラしてしまったのか……!
「なんたる浅慮……この大莫迦者……ッ」
悔やんでも遅い……が、もしもアレクが追い詰められるなら、乗り込んでおじ様の誤解を解こう。
盗み聴きは良くないと分かりつつ、息を殺して襖に耳をつける。
『では教えてください。どうして名前を偽ったんですか?』
『貴方がオレのことを知ってると思ったからです。
街ではオレの手配書が回ってるんじゃないですか?』
やはりじゃ……
アレクに加勢しよう、そう思い襖に手をかけてところで、続くおじ様の言葉に手が止まった。
『なるほど。では次の質問です、レンは怖いですか?』
収まった心臓が再び早鐘を打つ。
以前、アレクはアリアに訊かれ、ワエを『怖くない』と言ってくれた。
信じたい……でも、アレクはおじ様を出迎える際、こうも言っていた。
――『取り繕うのは得意なんだ』
ワエは嘘を見抜くことに自信がある、しかし、相手の方が
アレクは幼き頃から大人たちの欲に晒されてきた、もしかすると……。
たった一言、『怖い』と言われることを、どうしようもなく恐れてしまう。
何度も投げられた言葉のはずなのに……心臓が潰れそうなほど……怖い……
助けてください、姐様……姐様…………!
『怖くありません、まったく』
――ッ!!
声だけでも判る淀みのないアレクの返答。
手の震えが止まり、えも言われぬ安心感に満たされる。
あぁ……欠片でも疑ったワエは愚かじゃ。
共に過ごしてアレクの誠実さは知っていたろうに……
その後の二人の会話は耳に入ってこなかった。
辛うじてアレクが無実であることをおじ様が知っていたことは理解できた。
ならばもう此処に留まるべきではない。
音を立てないよう
足の違和感に気づいたのは暫くしてのこと。
「カカカ……今度は膝が笑っておるわ…………」
星の見える廊下にぺたんと座りこみ、先ほどのアレクの言葉を
――『怖くありません、まったく』
あの場から逃げなくて良かった、本当に良かった……
~ ~ ~ ~ ~ ~
――数日後 『ワスレナグサ』 広間
庭が見える広間でおじ様と並んで座る。
「明日、発たれるんですよね」
「ええ、今回の作品も中々でしたよ。レン、良い商魂です」
「カカッ! ありがとうございます!
しかし、ワエは商売のことは考えておりませんよ」
「それはいけませんねぇ~、
これはもっと稼ぐことを教えこなければいけませんね!
……ところでレン、貴女に話しておかないといけないことがあります」
穏やかに笑っていたおじ様が急に真剣な面持ちへ変わる。
「アレクくんですが、彼を害する者が現れるかもしれません、貴女が護ってあげてください」
「え……? でも無実だってご理解頂けたのでは……?」
「私は彼を疑っていませんよ。
でも、どこにでもいるんですよ、己の欲しか考えない輩は……」
「そうでしたか……歳は離れておりますが、アレクは大切なワエの友。
必ず護ってみせましょう、お任せください」
「……あなたたち、仲良いですね」
「……?」
よく分からんが、『オルコの
【特別な着物を着たレンカク イメージ】
https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093080995358905
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