Another side.少女を侮る者

chap.1 - ep1でアレクシスを罪を被せたスコット視点です。

時系列は少し戻り、シノが『ワスレナグサ』へ訪問する少し前。

アルコヴァンの首都でひっそりと起きていた出来事です。


――――――――――


■後神暦 2649年 / 夏の月 / 黄昏の日 pm 23:00


――他種族国家アルコヴァン 首都パクス=シェル 歓楽街


「あ~気分がいいぜ~」


 昼は寝て夜は歓楽街で酒を飲んで女を買う。

 どれだけ金を使っても許される、最高の気分だ。


 あのエセ聖女の末裔におっ被せてやった横領の罪がめくれた時は終わったと思ったけどよ、やっぱり俺はツイてる。

 お偉い議員が金で解決してくれたし、金を払えば大抵のことは受けてくれる闇ギルドに依頼を撒くだけで、こんな生活ができるんだからよ。



「おっと……」


 もよおした……まぁその辺の裏路地で済ますか。


 店の間を通り、表の灯りが届かない薄暗い道で用を足す。


「ふぃ~」


「あ~あ、いけないんだぁ。お店の壁にそんなのかけちゃダメだよ~」


 ――!?


「誰だテメェ……いきなり現れやがって」


「こんばんは~」


 クスクスと嗤う、白髪の猫人族びょうじんぞくのガキ。

 顔は整ってるけど体は貧相だな……

 商売女って感じじゃねぇし……それなりの身なりだけど乞食か?



「恵んでやる金はねぇぞ、失せろ」


「お金なんていらないよ? ただ、あっちこっちで闇ギルドに依頼するの止めて欲しいな~って。ねぇスコットくん?」


「……ッ!? あの人らの対立派か?」


「違うよ。別に議員さん同士の権力争いには興味ないんだ。

でもね、あの子に対して暗殺の依頼は困るんだよねぇ……今度は何を企んでるの?」


 このガキ……どこまで知ってる?

 いや、そもそも少しでも知ってる時点で始末するべきだな。


 ガキ一人殺すくらいなんてことはねぇ。

 足がつきそうになっても議員あいつら揉消すだろ。

 そう思い携帯用のナイフを抜く。刃が短くても首か胸を狙えばれる。



「おい、ガキだったら殺されないと思ったのか?」


「いいや、全然。でも、そもそもキミには無理だよ」


「んだとクソガ……――!?」


 カシャンともパシュンとも言えそうな例えにくい音の後、脚に激痛が走った。

 いや、痛みを通りこして、熱い、立ってられねぇ……



「あがっ……ま、魔法か……? んな素振りなかっただろーが」


「痛いでしょ? 金属の塊が脚を貫いたんだから当然だよね~。

でも僕、魔法は使えないんだぁ」


 そう言って白髪のガキは棒と取手のついた武器っぽいモノをクルクルと指で回している。



「特別に教えてあげる。

これね、銃って武器なんだけど、なんとサイレンサーと一体型。

しかも、357マグナム弾を撃てる普通ならあり得ない銃なんだぁ、って分かんないよね、アハハハハ」


「クソが……ワケわかんねぇことペラペラしゃべりやがって……」


「だよね~、僕も分かんないよ~。

……欲だけで人を殺そうとする人の考えなんてさ」


 ヘラヘラとしていたガキの表情かおが急に冷たくなった。

 汗が止まらねぇ、こいつの視線だけで今にも射殺されそうだ。



「バケモンかよ……」


「バケモノ、英雄、妖怪、色々呼ばれてきたよ。さっ、話戻すね!」


 またガキは貼り付けたような笑顔に戻る。

 なんだこれ、もう夢なんじゃねぇか?


「キミが依頼した人たちは潰して回ってるんだけど数が多すぎるよ。

闇ギルドがこんなに増えてたのもビックリしたし、たぶん全部は潰せてないと思うんだ……僕、今すっごく困ってるの」


「だから俺を始末すんのか……?」


「しないしない。でも、ちゃんと法で裁かれてね」


 安心した、バケモンでもガキだ。

 闇ギルドとの繋がりの証拠は残してねぇ、やっぱり俺はツイてる。



「あ、証拠ないだろーとか思ってない? あるんだな~これが」


「は……?」


 ガキは手鏡のような四角い金属の板を俺に突きつけた。

 そこには昨日、闇ギルドと取引した俺が映っていた……魔法の力を宿したアイテム、魔道具か? でもこんなモンは見たことねぇぞ。



「分かってくれた? じゃあ行こっか」


「ま、待て! 待ってくれ! 取引しよう! 

議員あいつらから受け取った金がまだたんまりあるんだ、それで俺を逃がしてくれ!!」


「ん~……」


 ガキは人差し指を唇に当てて考え込む仕草を見せた。

 イケる、有り金全部はたいても、こいつとなら逃げきれる。

 国外でもどこにでも逃げて、またやり直してやるぜ。


 そう思っていた俺にガキは屈託ない笑顔で答えた。



「初めに言ったでしょ? 『お金はいらない』って。

僕はね、これ以上アレクシスに悪い人が向かわなければそれで良いんだよ」


「お、おい、俺が持ってる金は大金だぞ?」


「ふふ、きっと僕も同じかそれ以上持ってるよ」


 今度は心底バカにしたような顔で俺を見下しながら、ガキは金属の棒を抜いた。

 棒の先がバチバチと雷を走らせてやがる。



「クソ……やっぱり魔法使えんじゃねぇか」


「だから違うって。

これはスタンバトンって護身用の武器だよ、って分かんないか。

初めは可哀想かなぁって思ったんだけど……キミ、やり過ぎちゃったね――……」


 ……――それじゃあ、おやすみ



 ガキの雷の棒を俺に押し当てた。

 直後、全身に衝撃が走り、俺の意識は遠くへふっ飛んだ……


【ティスタニア イメージ】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093080554911871

「あ~あ、いけないんだぁ~」

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