chap.3 秋 ~ 聖女の末裔
貿易都市ツークへ
ep1.末裔の一撃……! ポキンッ……
■後神暦 2649年 / 秋の月 / 星の日 am 09:00
――『ワスレナグサ』 周辺の森
太い木の枝に座り遠くを眺めるも目当ての獣はいない。
下で切り株に腰をかけるレンに声をかける。
「なぁ、本当に待ってるだけでいいのか?」
「うむ、
魔獣は魔法的な力を得て、変異した獣で総じて狂暴だ。
どうしてそんな危険な獣を狩りに来ているのかと言うと……
~ ~ ~ ~ ~ ~
――遡ること数週間前、シノさんが宿を発った翌日。
「のぅ、お前さんは武器の心得はあるか?」
「……ん? いや、全然ないよ。オレが狩りできないの知ってるだろ?」
「うーむ……では狩りにゆくぞ! 身を守る術を覚える機会じゃ! まずはエモノを選ぶか!」
今まで『狩りは任せろ』と言っていたレンの急な変わりように困惑したが、確かに頼りっぱなしも良くない。そう思って彼女の言う通りにすることにしたんだ。
そうしてレンの作業場に隣接する蔵で武器を選ぶことになったんだが……
「うぐぐぐ…………お……重てぇ…………」
「なんじゃあ? しばき丸よりは軽いじゃろ」
選ぶ、と言っても選択肢はなかった。
だって金棒しかないんだぞ? 善し悪し以前にオレには振り回せない。
「ハァ……よく考えれば使えない武器なんて持たないよな……」
「見くびるな、ワエは大概の武器は扱えるぞ」
「じゃあ何で金棒だらけなんだよ……」
「恰好良いからじゃ!!」
あ、そうですか……が素直な感想だった。
肩で息をするオレに見かねたレンは蔵の奥へ体を突っ込んで何かを探す。
「お! あったあった! ほれ、これなら使えるじゃろ!?」
「これは……カタナってやつだよな?」
「うむ、
ワエは
鞘から刀を抜く。
すらりとした片刃の刀身は、刃に波打つような模様が浮かび、武器として使うのは惜しいほどに美しい。
「まぁ鍛練用の刀じゃが、事足りるじゃろ」
「これで練習用なの? マジかよ……逸品クラスになったらどんなことになるんだ……?」
練習用とは言え、オレは芸術品のような刀に浮かれた。
でも、その後は地獄だった……
腕が上がらなくなるまでの素振りに、教わった型の反復。
木剣での打ち合いではボコボコにされたのは言うまでもない。
レンに教わったのは二つのみ。
一つ目は頭上からの斬り降ろし、
二つ目は目の高さからの突き、
曰く、『お前さんにそんなに多くの技は使いこなせんじゃろ』、だそうだ。
ひどいよな……
~ ~ ~ ~ ~ ~
そんなことがあって、今に至るワケだけど……
「簡単に牙獣なんて来るワケ……――」
遠目に熊のような巨体がレンが撒いたエサへ近づいてくる。
口から伸びる牙はオレが借りている刀よりも長い。
――うわぁ……ほんとに来ちゃったよ……
「レンっ! レンっ!! エサに食いついたぞ!!」
「騒ぐな騒ぐな。ワエも気配で判るぞ」
デカいなぁ……あんなのが森にいるのか。
宿までの道の安全対策とか考えなきゃダメだな……
「この後はどうするんだ? まさか正面からぶつからないよな?」
「そうさな、
まぁ、あ奴から来てもらうのが一番じゃな」
そう言って大きく息を吸ったレンは異様な圧を放つ。
戦うことに慣れていないオレでも判る、これは敵意だ。
――!!!!!!!!!!
レンが圧を放った直後、牙獣が仕掛けたエサを無視してこちらに突っ込んできた。
木をなぎ倒しオレたちの場所まで一直線に。
「カカカ、威勢がいいのぅ!」
そんな呑気な……って、もう距離はいくらもないぞ!?
「レンっ!!」
猛然と突進する牙獣の牙がついにレンに迫る。
「むんっ!!!!」
「……嘘だろ?」
しばき丸の替わりに持ってきた大太刀を真横に突き出し、規格外のバカ力でレンは牙獣の突進を止めた。
「さぁ、お前さんの出番じゃ! 喰らわせてやれ!」
喰らわせるって……どうすればいいんだよ?
「早うせい!!」
「分かったよ! とにかく一撃当てれば良いんだろ!?」
雄叫びを上げて木から飛び降りながら牙獣に斬りかかる。
狙いは脳天! これだけ勢いをつければ叩き割れるだろ!?
「あっ! 莫迦者!!」
レンがそう言ったとほぼ同時だろう、牙獣を斬りつけた刀がポキリと折れた。
「刀はへし切るのには向いてないんじゃよ、それにその刀はナマクラじゃしなぁ……」
「マジかよ……ごめん。って、この状況どうすんだ!?」
レンと牙獣の押し合いは続いたままだ。
悠長に会話できる分、レンには余裕があるんだろうけど……どうすんのこれ?
「折れてしまっては仕方ないのぅ。
ふむ、せっかくじゃ――……むぅぅん!!」
拮抗していた押し合いからレンは牙獣を突き飛ばし態勢を崩す。
続けて大太刀を肩に構え、両手を目一杯広げて鞘から抜刀した。
「特別に見せてやろう、ワエの剣術のとっておき」
そのまま回転し、横薙ぎに斬りつけるかと思ったが、半回転ほどしたところでレンの動きがぴたりと止まる。
大太刀を視えない壁で受け止めて溜めを作っているような姿勢だ。
「征くぞ……」
――
「そぉぉぉらぁぁ!!!!」
……
横薙ぎ一閃、レンの一刀は牙獣を真横に両断した。
刀を折った頭蓋骨も、それより硬いであろう牙も、厚い毛皮も、まるで意味を成していない。
鮮やかな切り口、それらは初めから繋がっていなかったと思えるほど。
「うむ! お前さんもこれくらい出来るようになるんじゃぞ!」
「出来るワケないだろ!!」
大太刀で肩を叩くレンを見るオレは「やる前から諦めない!」と、誰かに叱られた気がした。
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