レンカクside.『ぼぉるぅぅあぁぁぁぁっ!!!!』

レンカク視点に替わります。

時間の戻りはなく『ep5.末裔と鬼とたわわと犬と』の夜の出来事です。


――――――――――


■後神暦 2649年 / 秋の月 / 空の日 am 02:50


――貿易都市ツーク アリア宅


 ね……眠れん…………

 落ち着け……落ち着け、年若い乙女でもあるまいし、動揺などするな。


 ワエは百の歳月を生きた大人だぞ。

 綺麗だなんて言葉一つで……綺麗……きれい…………


「ぼぉるぅぅあぁぁぁぁっ!!!!」


「ふゃっ!! なに!? なにっ!!?」


 意図せずに変な声が出た。

 隣で寝ているアリアも飛び起きる。



「すまん……なんでもない……」


「レンちゃん、だいじょーぶ? 悪い夢みたの?」


 逆じゃ、悪夢でも良いから眠らせてくれ。


「大丈夫……大丈夫じゃ、気にするな」


「でも汗すごいよ? 背中びちゃびちゃ。

新しくなパジャマ持ってきてあげるね?」


 綺麗…………


「うばっしゃぁぁぁあぁぁぁっ!!!!」


「壁ーーーーっ!!!?」


 思わず部屋の壁に頭を打ちつける。

 角の形にぽっかりと穴を開けてしまった……



「おいっ!! レン! 大丈夫かっ!?」


 扉からは客間で寝ていたアレクの声……マズい、これはマズいぞ。

 どうするどうするどうする!?

 冷や汗が止まらん、なんと説明をすればいいんじゃ……!?



「アレクくん! 今レンちゃん着替えてるから入っちゃダメ! えっち!!」


 アリアがこちらを見てぱちんと片目を瞑る。

 あぁ……感謝するぞ、今までの悪戯も帳消しにしよう。



「う、うむ、そうじゃ。入るでないぞ! えっち!!」


「えぇ……なんかごめん。……えっと、じゃあおやすみ」


 扉越しにアレクの気配が遠ざかるのを感じる。

 良かった、しかし次は……



「んふ~! あたし頑張った! じゃ、何があったか教えて~」


「まぁ……そうなるよな……なんと言ったものか……」


 隠し立てしても仕方がない。

 ワエはアレクに綺麗と言われ動揺していたことを正直に話した。



「……と言うことじゃ。悪かったな、壁の修繕にかかる金は後日払う」


「え~それだけ~?」


「強欲め、金以外に何を払えばいいんじゃ」


「違う違う~、レンちゃんはどう思ったか知りたいな~」


 ワエがどう思ったか……?


「それは悪い気はせんじゃろ」


「も~違うよ~。嬉しー! とか、幸せー! とかさぁ~」


「褒められて嬉しくない者はおらんじゃろ?」


「ん~……どうすれば良いかなぁ~」


 こめかみに指を押し当てて考え込むアリアは、暫くして何かを閃いたようにズイッと顔を近づけてくる。



「レンちゃんって髪の毛さらっさらで綺麗だよね! 金色でぴかぴかで綺麗! どう?」


「どうって……悪い気はせんよ」


「じゃあオル兄ちゃんが同じこと言ったら?」


「嬉しいが?」


「じゃあアレクくん」


 ――レンの髪は綺麗だな……


 頭の中にアレクの声がやけに甘く響く……とんでもない幻聴じゃ。



「あっ……あ…………っばるしゃぁぁ……――」


「っと! キャ~~ッチッッ! 壊さないで~!!」


 今度は床に頭を打ちつけようとしたところをアリアに止められた。

 なぜじゃ、どうして堪えが利かんのだ……顔が、熱い。



「あのね、きっとレンちゃんはアレクくんのこと好きなんだよっ!」


「な、な、な……莫迦を言うな! 

確かにあ奴はワエに畏れを持たない稀有な奴じゃ、誠実なところにも好感が持てる。

よく働く男だし、忍耐強くもある、しかしだ、しかしな」


「すっごい早口じゃ~ん」


 なんだと言うのだ、なんだと言うのだ……!

 年甲斐もなくおぼこい反応をしてしまう己に嫌気が差す……



「じゃあさ、もし、アレクくんがあたしと一緒にいたらどう思う?」


 腕に駄肉を押し付けられデレデレするアレクを想像する。


「うむ、殺意が湧くな」


「え……怖い……。じゃ、じゃあおばーちゃんは?」


 アレクと手を繋ぐ姐様……風にそよぐ白髪は……


「お美しいな」


「いや、おばーちゃんだけじゃん……。最後! 全然知らない女の子は?」


「っ……それは…………嫌じゃな」


 アレクと同族の女の背中を想像してしまった。

 背は低く、髪は金、どうして外見をワエに似せてしまうんじゃ……



「ねっ!? やっぱり好きなんだよ~」


 焦がれているのか? 認めてしまった方が楽なのか?



 ――……そう思ったが、寸でのところで頭が冷える。



「カカカ……あり得んよ。ワエと奴では生きる刻が違い過ぎる」


「あ……それは…………

で、でもね、『思い出は死ぬことはない』っておばーちゃんが言ってた。

それに、『想いを辿って人はまた戻ってくる』とも言ってた!」


「心遣い、嬉しく思うぞ。でもな、良いんじゃ」


「レンちゃん……」


 一時の幸せな時間は手を伸ばしてしまいそうなほど魅力的じゃ。

 しかし、その後は? 

 一度温もりを知ったワエは独りでいることに耐えられるのか?


 アレクも、アリアも、オルヴィムも、みなワエより先に逝く。

 ワエは寂しさに耐える強さを手放すワケにはいかないんじゃ。



「さぁ、もう寝るぞ」


 ワエは寂しさに負けて貴女の思い通りになるつもりないよ……母上。


===

かごのぼっち様より、素敵なイラストを頂きました!!

ありがとうございます!


【壁に突進するレンカク】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093081497448039


【ナイスキャッチなアリア】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093081497745446

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