レンカクside.『また明日な』

視点がレンカクに替わります。

『ep6.鬼のお宿の大酒呑み』のすぐ後の出来事です。


――――――――――


■後神暦 2649年 / 春の月 / 獣の日 am 01:00


――『ワスレナグサ』 アレクシスの部屋


「カカカ、酔いつぶれたか」


 柱に抱き着くように眠るアレクシス。

 膝立ちで寝るとは何とも器用なことじゃ。



「不思議な男じゃのぅ……」


 まだ日が浅いのに、ワエに進んで声をかけるなんて、お前さんくらいじゃよ。


 それに、初めは失礼な奴だと思ったが、誰も訪れない宿を毎日掃除しておる。

 客がこないと分かっておっても当然のように。


 料理勝負のときも、ワエの失敗を嗤うでもなく、慌てながらも慰めてくれたな。

 まぁ、かなり狂気的な方法じゃったが……



「ぷっ……カカカ……いやぁ、あれは面食らったな」


 思い出しても笑えてくる。

 きっとお前さんは誠実で優しい奴なんじゃろうな、アレクシス。


 それ故、余計に不憫に思う。

 笑っていても、どこか張り詰めておったから晩酌に付き合わせてみたが、大人たちの欲に晒された幼少期を過ごしていたとはのぅ。



「期待と落胆、か。

もしかしたら落差がある分、ワエより辛かったかもしれんな。

うむ……よく耐えた、よく耐えたぞ、お前さんはよくやった」


 ほぼ立ったまま寝ている面白男の頭を撫でる……が。

 ごわっごわじゃ……猪の方がまだマシな毛並みと思えるな、カカカ。



「あぁそうか、風呂から飛び出していったからか。

しかし、日々の仕事に加えて森を拓いておるし、汗だくにもなろうよ」


 非力なクセに必死に斧を振るう。

 きっとお前さんにとって商いは特別な思い入れがあるんじゃろう?

 うむ……明日からはワエも手伝ってやるとするか。


 長い長い人生のヒマ潰し……などと思っておったが、存外楽しいもんじゃ。

 味気なかった日々に色がつく、そんなところか。



「さて、ワエも休むかの」


 未だに柱に抱き着いておる頑固者の腕を引っぺがし横に寝かす。

 布団はぁ……敷いてやる必要はないじゃろう、何故だか恥ずかしいしな。


 そうして盃を持って部屋を後にする。


「また明日な、アレクシス……」



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■あとがき

『chap.1 春 ~ ワスレナグサへ』をお読みくださり、ありがとうございます!

この後は閑話を1話挟み、次章へ移ります。


冤罪で国から逃れたアレクシス。

何か理由があって森に引き籠っているレンカク。

出会いからほんの少し、距離が縮まった、そんな二人でした。


引き続き、二人の物語にお付合い頂けると嬉しいです。

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