Another side.少女を知る者
アレクシスをクビにした
アリアが『ワスレナグサ』へ泊りに来ていたころに裏で起きていた出来事です。
――――――――――
■後神暦 2649年 / 夏の月 / 星の日 pm 11:00
――古都リム=パステル ブラン商会支店 支配人室
……緊張する。
ランプをつけない室内を星の明かりだけがうっすらと照らしている。
普段はこんな遅い時間まで店に居ることはない。
しかし今日は特別だ、数か月前に突然姿を現したあの人を待っている。
「本当に実在していたなんてな……先代たちの与太話だと思っていたのに……」
イスの背もたれに体を預けてそう呟くと、すぐ後ろで声がした。
「まぁ、そうだよね。滅多に顔を見せてないから仕方ないよ」
「――……!?」
「こんばんは」
部屋には誰もいなかったはず。
確かに彼女を待っていたが、ドアが開く音なんてしなかったぞ……?
「驚かせてごめんね。
先に部屋にいたんだけど、緊張してるみたいだったから落ち着くまで待ってたんだぁ~」
「そうなんですね……でも背後から声をかけるのは止めて頂けませんか?」
「あ、うん、ごめん。クセになってるのかも……気をつけるよ」
気まずそうに頬を指でかきながら彼女は私と対面したイスへ座る。
そして一呼吸おいて真剣な面持ちで口を切った。
「嫌な役回りを引き受けてくれてありがとうね」
「いいえ、他ならぬ貴女の願いですし、それに国の今後にも影響があることは見過ごせません」
「国のことはぁ~……時代の流れに任せてるけどね。
でも
目の前の少女は国よりもアレクシスを大切と言い切る。
彼女の考えを推し量ることはできないが利害は一致している。
「アレクシスに様々な罪を被せて、最後は死罪で闇に葬る。
そう計画している者たちからアレクシスを逃がす……でしたね」
「うん、教会の威光だったり、聖女と縁のある議員さんの発言力を削ぐのが狙いだね」
「でも、貴女なら
「そうだね、でもちょっと思惑があってさ」
アレクシスは隣国のヨウキョウへ逃れた、だったか。
確かにあそこにはブラン商会の他にも聖女と縁のある商会の力が及んでいる。
「ところで、あの子はどうなったのかな?」
「スコットですか? 横領は事実でしたからクビにしました。
実家に頼ったのか全額を返してきたので衛兵には突き出していません」
「そうなんだね、利用しちゃったみたいで可哀想だったかな」
「横領はアイツの意志によるものです、貴女が気に病む必要はありません。
むしろ、教えて頂かなければ気づけなかったことが恥ずかしいくらいです」
「そっか……」
少女は耳を下げて心からスコットを憐れんでいる表情を見せる。
国の未来には関心がないのに、個人に、それも罪を犯した者にそんな感情を持つ彼女が理解できない。ちぐはぐ過ぎるのだ。
「相手に先手をとってアレクシスを牢へ入れて、足取りを追えないように逃がす。
その後は時期を見て冤罪も晴らす、その為には仕方のないこと。そうでしょう?」
「うん、その通りだよ。ごめんね、変なところを気にしちゃって。
キミのお陰で全て上手くいったよ、ありがとう。
……そうだ、コレを渡しておくね」
差し出されたのは拳ほどの大きさの黒い金属の立方体。
アクセサリー……ではない。特殊な力を宿したアイテム、魔導具か?
「これは?」
「僕の切り札の欠片。
それを持っている限り、もしもキミが狙われても絶対に護ってくれるよ」
「貴女が仰るなら、私の安全は疑う余地はないですね」
「ふふ、もちろんだよ。
キミのお父さんやお母さん、先代の人たちにもずっと助けられてきたからね。
私をフルネームで呼び、柔らかに笑う少女。
私たちの商会には、
白髪の少女。
もしも、その少女が希少な鉱石で作られた『妖精の花』のレリーフペンダントを身に着けて現れたなら、彼女の話がどんなに突拍子のないものでも真剣に聞くように、と。
そして、これは後から付け足されたことだと思うが、決して敵対するなとも。
何故ならば……
「ありがとうございます、ブラン会長」
彼女こそが、ブラン商会の創始者であり、悠久の刻を生きる、人ならざる者なのだから。
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