Another side.少女を想う者

オルヴィム視点に替わります。

時系列は少し戻り、『ep2.偽物と呼ばれた末裔でも……』にて、倒れたレンカクを自宅に運び、部屋を飛び出したオルヴィムが起こしていた行動です。


――――――――――


■後神暦 2649年 / 秋の月 / 空の日 pm 06:00


――貿易都市ツーク 自宅


 レンちゃんを蝕んでいるのは毒じゃない。

 そうアレクに告げてすぐに部屋を飛び出した。


 動揺を悟られないように堪えてはいたけれど、ボクの心臓はバックバクだ。


 レンちゃん……ボクの憧れた初恋の人。

 怖くて、強くて、優しいお姉さん。


 そんな女性ひとが今、瀬戸際せとぎわに立たされている。


 毒なら治せた、知識があったから。

 でも呪いはダメなんだ、どうにもできない。


 この状況をひっくり返せるのは、ボクが知る中でただ一人。

 


「おばあちゃん……」


 家の地下にある秘密の扉をくぐって、とある場所へ。

 古い子供部屋……おばあちゃんの子供たちの部屋。



「おばあちゃん……!!」


 まだここにいるかは分からない。

 けど、少し前にボクの家に来た時に、暫くこの古い家に滞在するって言ってた。



「オル? 上にいるの?」


 階下からおばあちゃんの声……良かった……!


「おばあちゃん!! 助けて!!」


 階段を駆け下り、慌てて話すボクの落ち着かせるようにおばあちゃんは背中を摩ってくれた。

 でも、『アレクたちが襲われた』ことを話すと、背中を摩る手がぴたりと止まる。



「え……? 嘘、どうしよう……。あぁもう僕のバカ! オル、すぐに行こう!」


「わわわ、おばあちゃん! ボク自分で走れるよ!!」


 こんなに取り乱したおばあちゃんは初めて見る。

 おばあちゃんに小脇に抱えられたボクは、目が回りそうな速さで自宅に戻ることになった。



――レンの眠る部屋


「アレク!! 戻ったよ!! って……え?」


 部屋へ駆けこんだボクの目に映ったのは、すっかり顔色が良くなり、穏やかに眠るレンちゃん。

 そしてレンちゃんの手を握ってベッドに突っ伏しているアレク。



「おばあちゃん、これって……」


「分かんない。けどきっとアレクが頑張ったんじゃないかな? 

そうだよね? ……アレクシア」


 おばあちゃんは強張った顔から、ふわりと笑い、レンちゃんの為に摘んできた『妖精の花』を彼女の枕元に置いた。



「さて、アレクも気絶してるし、寝かせてあげよっか。オル、部屋って空いてる?」


「うん、隣にもう一つお客さん用の部屋あるよ」


 突っ伏したまま、ぴくりとも動かないアレクをベッドに寝かせ、ボクたちは1階へ降りる。


 その後はおばあちゃんと遅めの夕食をとって、さっきは上手く説明できなかった、これまで起きたことや、レンちゃんが街に来たときのことを話す。


 …

 ……

 ………


「そっか、じゃあアレクもレンが古代種エンシェントのハーフだって気づいたかもしれないね」


「そうかも。でもボクが二人を見つけたときは、どうして怖がられてるか分からないみたいだったよ」


「まぁ……どっちにしてもレンが話すまではオルは言っちゃダメだよ?」


「うん、もちろん」


 アレクたちの話に区切りがつくと、テーブルを挟んで向かい合って座っていたところから、おばあちゃんはボクの隣に座り直してきた。



「ふふ、それにしてもオル、ふられちゃったかぁ~」


「それはもういいでしょ……」


 真っ白い尻尾を揺らし、おばあちゃんが悪戯な笑顔を向ける。


 勢い余って、ボクの恥ずかしい話までしたのは失敗だったよ。

 おばあちゃんと話してると、ついつい何でも話しちゃうんだよね……


「アリィは? オルを気にかけてくれて僕はいいと思うなぁ~」


「やだ。だってボクをからかうんだよ? アリィが子供のときからずっとだよ?」


「そっかそっか。ごめんね、オルが決めることだよね」


 おばあちゃんが立ち上がり、『でもね』、と言ってボクを背中から抱きしめた。



「ちょ、おばあちゃん、ボクもう子供じゃないって」


「分かってるよ。だけどちょっとだけ、こうさせて。

……オル、忘れないで、僕はキミの幸せを願ってるよ」


「うん」


「好きな人を見つけて幸せになるのもいい、

夢中になれることに打ち込む人生でもいい、

どんな道を選んだとしても、僕は最後までキミと一緒だからね。

独りにさせるようなことは絶対にしない」


「……うん」


 回されたおばあちゃんの腕に触れる。

 そして今、おばあちゃんが小さく呟いたことを聞き逃さなかった。


 ――『オーリ』、『ヴィー』


 ボクの曾祖母ひいおばあちゃんのそのまた曾祖母ひいおばあちゃん

 それが『ヴィー』、おばあちゃんの娘の名前。


 おばあちゃんがいつから生きていて、いつまで生きられるのかボクには分からない。

 だけど、ずっとボクといてくれるって言葉に嘘はないはずなんだ。


 でも……でも、おばあちゃんは?


 ボクが死んで、アリィが死んで、他の人も……

 おばあちゃんには誰が一緒にいてくれるんだろう……


 だから願わずにはいられない。


 ――どうか、ボクのおばあちゃんが寂しい思いをしませんように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る