第5話「鷹と親子と握った手」
【東京都内の住宅街】
道路の真ん中で鷹のメモリスとレーテの隊員数人が戦闘をしている。レーテの隊員達は拳銃などで攻撃を与えようとするが鷹のメモリスの背中から生えた大きな翼によって全て防がれてしまう。成人男性ほどの大きさの鷹のメモリスは赤いスカーフを首に巻き緑色の瞳で何かを探しているのかレーテの隊員達に目もくれず周囲を見渡していた。
「全然歯が立たねえ!」
「隊長達はまだ来ないのか!」
「おい!隊長達がきたぞ!」
隊員達が振り返ると走ってこちらに向かっているユイア達の姿があった。
「うわ!本当に大きい鷹だ!」
「逃げる前に仕留める!」
そう言ってユキタカは腰に吊るしてある鞘を取り外し鞘から刀を抜こうとする。しかしそれに気づいた鷹のメモリスが自身の羽を飛ばしてユキタカを攻撃した。ユキタカは走りながらそれを避けつつ鞘から刀を抜く。抜く際に青い電流のようなものが走り、刀を抜くと機械的な刀身のラインが青く光り輝いていた。
「なにその刀!かっこいい!!!」
ユイアが子供のように目を輝かせ、ユキタカの刀を見つめる。ユキタカは両手で刀を握ると走るのをやめ刀を構える。構えると刀の刀身はビリッビリ!と電気のような音を立て青いオーラを纏い始めた。ユキタカは胸と背中に力を入れ、上に振りかぶり勢いよく刀を振り下ろす。
「ハァ!!」
グォォオォオォォォォオォオオオオ!!!!!!
振り下ろすと共に青い電気の塊のような斬撃が放たれた。斬撃は空を切りながら鷹のメモリスに向かって進んでいく。辺りにあったバケツやゴミ箱などが風圧による衝撃によって倒れていった。鷹のメモリスの羽にぶつかり羽の一部が斬り落とされ、切り落とされた一部は灰のように消えてしまった。
「あぁァァアアああぁァァアアイあ!!!」
「あ!待て!変身!!」
鷹のメモリスは羽を動かしその場から逃げていく。ユイアはバッグからドライバーを取り出し腰に巻いてメモリカセットを装填し変身した。
ヒーローアップ!
You are HERO!!
ユーアは走り出し飛び跳ねるがユーアの跳躍力では鷹のメモリスが飛ぶ高さまでギリギリ届かず落下してしまった。
「届かなぁぁい!!」
ドサ!!
落下した際にユーアはゴミ捨て場の大量のゴミ袋の山に落ちてしまい、立ち上がると頭の上にバナナの皮が乗っていた。装甲についたゴミを取り払うとドライバーからカセットを抜き取り変身解除するとすぐに制服の匂いを嗅いだ。
「ゴミの匂いついてないや~変身しててよかった~」
そう言うとユイアは溢れたゴミ袋を元の場所に戻し始める。ユキタカは悔しそうな表情を浮かべながら空を見上げていた。刀を鞘に戻すと鞘についている画面に電池のマークが浮かび上がる。
70%
「今の斬撃で70%.....やはり生身だと斬撃を放った時の衝撃で軌道がズレてしまう。」
そう言うと隊員達の元へ歩き始めた。隊員達は隊長のユキタカにお辞儀をすると状況報告を始める。
「いーなー私も飛べるようになりたい」
「どうした急に子供の夢みたいなこと言って、落下した時に頭でも打ったか?」
「違うよ!ユーアのフォームチェンジ!変身ヒーローと言ったら敵や状況によって姿を変えて戦うもんだよ!」
身体を使ってルナに説明していると隊員と話をしていたユキタカがこちらに近づいてきた。
「あ、隊長さん。」
「鷹のメモリスの追跡はあの隊員達に任せた。俺達はすぐに火野麗奈の護衛に向かうぞ。」
「はーい!」
ユイア達はレーテが用意した大きな車に乗り込んだ。ユイアの向かい側にはユキタカが座っている。車内は静かでユイアはただ暗くなっていく外の景色を見つめていた。明日は土曜日なので学校もない。だがバイトがある。今のうちに店長に休むと連絡したほうがいいのかなとユイアは考えていた。ユキタカの方を向くと自分と同じように窓を見ていた。青い瞳に街灯や違う車線の車のライト、ビルの明かりが反射していた。ユイアはユキタカが腰につけた刀を見つめる。
「その刀かっこいいですね。」
ユキタカは刀に目線を向けるとすぐにユイアの方を向いた。
「この刀は俺専用に作られた刀だ。デザインは開発部に言ってやってくれ。きっと喜ぶ。」
ユキタカは口角を少し上げ腰から鞘を外すと刀をユイアに見せた。そこには青色のメモリカセットがセットされていた。
「この刀にはメモリカセットがセットされていてな。刀がさっきみたいな斬撃を放つためにはメモリカセットから発生しているエネルギーを充電させておく必要があるんだ。」
「すごいですね!開発部の人達!じゃあ私のユーアドライバーも開発部の人達が作ったんですかね?」
「ユーアドライバーは作ったのは開発部じゃない。他のやつだ....まぁいつか会うことになるだろうな。」
ルナはユイアの膝の上で本物の猫のように眠っていた。十数分走っていると大きく立派なホテルに到着した。いかにもお金持ちのためのホテルですと言わんばかりの煌びやかさだ。ルナを起こし車を降り自動ドアの中に入る。ロビーには大きな噴水と女性と剣と天秤を持った天使の絵画が飾ってあった。
「すご~い!こんな高級ホテル初めて来ました!」
「俺もだ。」
「私は眩しすぎて目が痛くなってきたぜ。寝起きで来る場所じゃないな。」
ユキタカは受付に向かい受付の女性と話すとユイア達の元へ戻っていき「ついてこい」と言った。2人を連れてエレベーターに乗る。エレベーターは25階で止まり、ユイア達は窓から夜景を眺めながら廊下を進んでいくと一つの部屋で立ち止まった。
「ここだ。」
ユキタカがチャイムを鳴らすとすぐに扉が開いた。扉を開けたのはレーテの隊員だった。奥には数名のレーテの隊員とスーツ姿の大人達がいた。
「隊長!」
「遅くなった。すまないな、先にお前達だけをホテルに行かせて....」
「いえ!こちらは何も問題はありませんでした。」
ユキタカと共に中に入ると部屋はものすごく広く、数名のレーテの隊員と警察官と刑事がいた。ソファには写真で見た少女とその父親らしき人物が座っていた。
「遅くなって申し訳ありません火野社長。」
「いや、いいんだ.....そちらのお嬢さんは?」
「彼女もレーテの隊員です。お嬢様の護衛として....」
「日代唯愛です!」
ユイアはお辞儀をすると少女のそばに近寄ると少女と同じ目線の高さにする為にしゃがんで少女に話しかけた。
「初めまして麗奈ちゃん!よろしくね!」
「..........うん。」
少女は一瞬だけユイアと顔を合わせるとすぐにうつむいてしまった。ユイアは少し違和感を覚えた。ユキタカに見せてもらった写真には少女は笑顔で写っており元気な子だと思っていたからだ。それにここには父親と少女しかいない。写真にはちゃんと写っていた母親がいない。
「よぉユキタカ!」
後ろから刑事のうちの1人が話しかけてきた。黒髪短髪の男性で耳にはピアスの跡があるコートを着たユキタカと同じくらいの身長の男だ。ユキタカはその刑事と共に少女達がいるソファから離れて奥のバルコニーの方へ向かった。ユイア達もそれについていく。
「で、ダン。どうだった。」
「あぁホシはもう決まったもんだぜ。」
「何のお話ですか?」
「ついてきていたのか。紹介しておこう、こいつは杉山弾(スギヤマ ダン)警視庁の刑事で俺の昔からの知り合いだ。」
「よぉ嬢ちゃん!話には聞いているぜ!ほらチョコあげよう。」
そう言ってダンは笑顔でポケットから包装された小さなチョコレートは渡した。ユイアは子供のように嬉しそうにしながら受け取った。
「うわ~!ありがとうございます!」
「よしじゃあ話すとするか。ホシはこの男だ。」
そう言うとダンは髭面の40代後半の男の写真をユキタカ達に見せた。
「数日前、火野麗奈の母親である火野映華を殺害した犯人の有力候補としてこの向嶋尾(ムカイ シマオ)っていう男を追っている。」
「ちょっと待って!麗奈ちゃんのお母さんって殺されちゃ.....」
ルナはユイアの頭をポンと叩く。
「しー静かに!あの子に聞かれちゃうだろ!」
「だから、あんなに悲しそうな顔してたんだ.......」
「無理もない、自宅で...しかも目の前で母親を殺されたんだ。........この向という男はどう言う人物なんだ?」
ユキタカがダンに尋ねるとポケットからメモ帳を取り出し説明を始めた。
「向嶋尾47歳。2年前、アイスメーカーである火野グループの本社で本部長として働いていたんだが会社の金を横領していたことがバレて辞めさせられた。その後、多額の賠償金を抱えてしまったせいで妻と離婚。親族には絶縁されたらしい。」
「そういえば昔にニュースでやってたな。なるほど、だから自分を辞めさせた社長の家族を狙った....ということか。」
「ただの逆恨みじゃねぇか。自分が横領したのが悪いのによ。」
「でもな、どうやって犯行したのか分からないんだよ。家の周りに設置された5台の防犯カメラにはどこにも姿が映っちゃいねぇんだ。それなのに殺害されたのは部屋の中!」
ダンはスマホに移した防犯カメラの映像を3人に見せた。確かにどこにも向らしき人物は映っていない。映ってるのは井戸端会議をするおばちゃん達と下校途中の子供達の姿だった。
「そこで鍵を握るのがあの鷹のメモリスか。」
「そうだ、ベランダの扉に破壊されていた跡があってな。ベランダには防犯カメラが設置されていない.....そして次の動画を観るとわかる。」
動画をスワイプすると庭の映像に変わった。映像には家のガラス扉が破壊され中から鷹のメモリスが飛び立っていく様子が映っていた。
「俺が立てた仮説はこうだ。向は裏のルートで手に入れたメモリカセットを使い、自身の中にいた鷹のメモリスを解放してその能力で飛んで空からベランダへ着地しベランダの扉を破壊!家に潜入すると持っていた刃物で母親を殺害!そして逃亡は勢いよくガラス窓から!どうだ?俺の説は。」
「それが一番有力なのか......」
「ユイアはどう思う?」
ルナはユイアの方を向くと真剣に考えたポーズをしながら何度も監視カメラの映像と鷹のメモリスが飛び立つ映像を見直していた。
「うーーんなんかちょっと違うような....合ってるような.....よし!」
ユイアは考えるのをやめ立ち上がった。
「考えても分かんないからとりあえず私、麗奈ちゃんのところ行ってくる!護衛が私の仕事だから!」
ユイアはルナと共にソファに座ってただうつむいている麗奈の元へやってきた。父親は席を外しておりソファには座っていなかった。ユイアは麗奈の隣に座ると落ち込む麗奈に話しかける。
「麗奈ちゃん見て見て!猫の妖精さん!」
そう言ってユイアはルナを抱き抱えて麗奈に見せた。
「ほら!ルナ!それっぽい事言って!」
「は!?それっぽい事ってなんだよ!!!?!無茶言うな!?」
ルナはユイアの手から離れると飛んでユイアのほっぺをつねった。
「いたいいたいいたい!」
その様子を見て少女が少し微笑んだ。
「ふふっ....お姉ちゃん達仲良しなんだね」
「誰が仲良しだ!」
「あ!笑ってくれた!やったー!」
少女は笑顔のユイアを見て少しずつ表情が明るくなっていく。ユイアのほっぺにはつねった跡がかすかに残っていた。少女の手には一枚の写真が握られている。
「その写真は?」
「これはね、1年くらい前にお父さんとお母さんと遊園地に行った時の写真。私が迷子になった時にね泣いてたらすぐにお母さんが来てくれてね。私の手を握ってくれたの。」
写真には麗奈と赤いスカーフを巻いた母親が手を繋ぎながら2人とも泣き腫らした笑顔で写っていた。
「お母さん.......」
母親を思い出し麗奈は再びうつむいてしまう。その瞬間にユイアは麗奈の手を優しく握った。
「え、」
「大丈夫!私が麗奈ちゃんの笑顔を守るから!」
ユイアを見上げ麗奈の顔に再び笑顔が戻っていく。
「..........うん。」
ピンポーーーン
チャイムが鳴った瞬間に騒がしかった辺りは一瞬で静寂になった。
「おい.....誰か応援を呼んだか?」
「いいや呼んでない。」
レーテの隊員が部屋の扉を開ける。辺りを見渡すも廊下には誰もいない。
「なんだ.....誰もいな....グハッ!!」
外に出たレーテの隊員が突然倒れる。扉の前で待機していたレーテの隊員達はすぐに拳銃を構えるも腹を殴られたような音と共に次々と倒れていく。
「おいおいどうなってやがんだ。」
警察が慌て始めたその時だった。
バン!バン!
ドアの前で銃声が響く。部屋の中に中年の男が倒れたレーテの隊員から奪った拳銃を2本持ちながら入ってきた。写真に写っていた向という男だ。その音に気づいたユキタカとダン、そして麗奈の父親が集まってきた、
「動くんじゃねぇ!!!!!動いた瞬間に殺す!!」
余裕そうにニヤニヤと笑う向は拳銃の銃口を麗奈の方に向けながらソファの方に近づいていく。麗奈が向を見た瞬間に震え怯え始めた。ユイアは麗奈を後ろから抱きしめるように麗奈を守ろうとした。
(まずい....ユーアドライバーは少し離れたところに置いたバッグの中だ。今動いたら麗奈ちゃんが危ない。でもこの男....麗奈ちゃんを撃つつもりだ。動かなくても撃たれる、動いても撃たれる.......どうすれば....)
「ヒヒッ.....やっと殺せるぜ。」
「助けて.....お母さん....」
「安心しろ、すぐにお母さんと同じ場所にいかせてやるよ。」
バリィィィィィィィィイイイイイイン!!!!!!
銃の引き金を引こうとしたその時だった。夜景が見える大きな窓が割られガラスが砕け散る。大きな鷹の姿をした鷹のメモリスが部屋の中に勢いよく入ってきた。
「フィィィイイイア!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます