第17話「私にできることはなにか」

パチンッ


如月がニヤッと笑い指を鳴らす。するといつのまにか開けられていたドアの向こうから宙に浮いたダンベルやプラスドライバー、ペンチなどが次々と格技場に入ってくる。格技場に入った瞬間にプカプカとマジックのように浮いていた物達がユーアに向かって突っ込んでくる。


「うわ!?」


ユーアは一瞬驚いたがすぐに冷静に判断し全てを避けた。避けられた物達は避けられた瞬間に方向を転換し再びユーアに向かって動き出す。


「なにこれ!?避けても追いかけてくる!?!」


ユーアが必死に逃げるなか、次々と重そうな物が格技場に入ってくる。入室した物達は如月の周りを浮きながら回っていた。


「これが私の能力だ。「鉄」を操る能力、半径400メートル内にある鉄が含まれた物を感知しそれを自由に持ち上げたり動かせたりできる。」


確かに浮いてユーアを追いかけてきている物は全て鉄が使われてそうな物ばかりだった。


「だったら!!」


ユーアは追いかけられながら如月に向かって走り出す。


「うおぉおぉぉぉお!!」


(自分を追いかけてきている鉄を私に当てるつもりか?)



パチンッ!



如月は再び指を鳴らす。鳴らすと同時に如月の周りを回っていた物達がユーアめがけて動き始めた。


「前、後ろどちらからもだ!お望み通り挟んでやるから受け止めろ!!」


ユーアはそれでも如月めがけて走る。前方、後方どちらからも追いかけられてもなお走り続ける。前から向かってきている物達との距離が次第に近づいていく。


3!2!1!


ビリッビリ!!


ユーアは勢いよくドライバーのホイールを3回以上回転させた。回転させるたびにピンク色の火花が舞い散り、ユーアの全身のアーマーが展開しそこからビリビリとピンク色の稲妻のようなオーラを纏っていく。そして前から向かってくる物達との距離が1メートル以内になった瞬間だ。





シュン!


ドンガラガッシャァァァァアン!!!!


ユーアの姿が消え前後からユーアを追っていた物達が互いにぶつかり合いその場に落下していく。


(消えた!?どこだ!)


如月はすぐに左右を確認し上を見上げた。そこには左脚を上げ今すぐにでも踵落としを頭蓋骨に当ててやろうとしているユーアの姿があった。


「マジか!」



ライトニングエヴォークスマッシュ!!!




ドガァァァァァァァァァァアン!!!!!



ピンク色の稲妻のようなオーラと共に激しい爆風が巻き起こる。周囲が煙で満たされたがすぐに消えていった。


「師匠!」


アカネを声をあげると余裕そうに微笑みながら手を振る無傷の如月の姿があった。その姿を確認したアカネは安堵する。


「よかった~」


「心配すんな、こんなんじゃ私は死なねぇよ。」


「ライトニングの攻撃を防ぎやがった......」


ルナが唖然としていると如月の前に膝をついていたユーアが立ち上がった。左脚につけたリストバンドが緑色から赤色に変わっている。先ほどの攻撃を与えた衝撃が返ってきたからだろう。


「危なかったぜ、上にいるお前に気づいた瞬間に辺りに落ちてた鉄、全部集めて壁作らなかったら死ぬとこだったぜ。」


ユーアは自分の前に立つ如月に向かって歩き出そうとするがライトニングを使用したユーアの脚は既に限界を迎え、産まれたての子鹿のように震え痙攣を起こしていた。


「うっ!」


一歩歩いた瞬間に倒れそうになったがすぐに如月がそばに駆け寄り抱きかかえた。変身は解け元のユイアの姿に戻る。


「ナイスファイトだ日代唯愛。」


そう言うと如月はトレーニングルームから浮かせて持ってきたベンチにユイアを乗せた。


「医務室まで連れていくぞー」


如月はベンチを浮かせながら歩き出す。ルナ達も医務室までついて行った。








医務室はトレーニングルームと格技場のすぐそばにあるため5分もかからず到着した。医務室のドアをノックし扉を開ける。そこには白衣を着た黒髪ショートボブの白衣を着た20代くらいの若い女性がパソコンで作業をしていた。


「かほ、」


「いらっしゃ~ってえ、ことこちゃん.......どうしたの突然!?って!ユイアちゃんどうしたの!?」


白衣の女性は焦りながらベンチに乗せられたユイアに駆け寄った。両脚は少し赤く熱くなっている。如月は浮かせていたベンチを床に下ろすと入り口に戻った。


「後は任せたぞ。」


「うっうん......」



ガタン




如月とアカネは医務室を去って長い廊下を歩いていた。


「今日のタイマン!師匠の勝ちっすね!」


「いいや引き分けだ。お互いライフ1個残ってたからな。」


「え、でも日代唯愛が倒れたから.......」


「倒れたら負けなんて私は言ってねぇ、だから引き分けだ。」


「わっわかりました!でも師匠!アタシが日代唯愛とタイマンして勝ってみせますからね!」


そう言ってアカネはシュッシュとパンチポーズをとってニコッと笑う。その顔を見て如月もニカッと笑うとアカネの頭を犬にするみたいにワシャワシャと髪を撫でた。


「わ!やめてください師匠!」


「ハハハハ!!」


如月は考える。


(ユキタカ、私に嘘をついたのか?いやそんなことできるようなやつじゃねぇ、でもあの日代唯愛の強さは入隊して数ヶ月ってレベルじゃない。そこら辺の地方の隊長よりも数倍強いじゃねぇか。どこからあんな化け物見つけたんだ.....ま、私も言えないけど。)


そう考えながらアカネのことを見つめ頭をワシャワシャとした。









ユイアが目を覚ますと白い天井があった。


「どこ?」


「あ、起きたんだね。」


白衣を着た黒髪ショートボブの女性が優しく微笑む。レーテの隊員の1人で医務室を担当している椿香穂(ツバキ カホ)だ。ユイアは医務室に一度訪れてからよく遊びに来ていたため彼女とは顔馴染みだ。


「脚の腫れは治ってるみたいだね。」


「はい!ベッド使わせてもらってありがとうございます!」


「大丈夫だよ、それにしても前はライトニング?っていうのを使ったら2日は腫れたままだったのに.....もう治ってるね。身体が進化してるのかな?」


「私は育ち盛り!成長期ですから!」


「ふふっそうだね、だからって無理はしちゃダメだよ。」


「はーーい!」



トントン



医務室のドアを誰かがノックしてドアを開ける。ユキタカだ。


「大丈夫か日代?」


「あ、ユキタカさん!」


「ゆっゆっユキタカくん!?」


カホは顔を少し赤らめ視線を逸らす。ユキタカはユイアが休んでいるベッドの横に立った。その隣にいたカホはユキタカと逆の方にある花瓶の方を見つめ始める。ユキタカがユイアに話しかける間はチラチラとユキタカの方に目を向け、目が合うとすぐに目を逸らすを繰り返していた。


「どうしたカホ?」


「うっうんうん!なんでもないよ!」


「そうか、じゃあ話を戻そう。」


この様子を見ていたIQ600(嘘)のユイアはすぐに理解した。


(あ、カホさんユキタカさんの事が好きなんだ。)


「格技場の修理代、あと破壊された備品の購入代金は全て神奈川支部もしくは如月に請求しようと思う。」


(あとなんかすごい話になってる!?)


「そろそろ帰った方がいい。立てるか?」


「大丈夫です!ここから家まで3駅くらいなんで!」


「気をつけて帰るんだぞ。」


「はい!」









【とある舞踏会場にて】


白い髪の少女は上品に紅茶を飲み干しカップをテーブルにコトンと置いた。


「今日の紅茶は美味しいわね......さぁ始めましょうか。」


目の前には骸骨の怪人ゴーストと身体中からナイフのようなものが生えた怪人キラーそしてチーターの怪人ターボが座っていた。


「他の幹部は来ないの?」


「はい、ですが幹部の1人からレーテが2日後、「新宿」にて今まで回収したメモリカセットを運び出すという情報を持ってきました。」


「アハハハ!!!つまりそれを襲えばメモリカセットがたくさん手に入るってわけね!だったら私に任せて!」


キラーは手をパン!と叩く。後ろの扉が開き長い髪を持つ蜂の怪人が姿を現し膝をついた。


「お呼びですかキラー様。」


「彼女は?」


「私のお気に入りのメモリスターよ!1年前の新宿のこと......みんな覚えているでしょう?」


「1年前?あぁそういえば爆破テロを起こしたメモリスの仲間が人を数人殺して戻ってきたな。それがコイツか?」


「はい、私のことでございます。」


蜂の怪人は背中から生えた羽を広げ、右腕についた大きな毒針を見つめ撫で始める。


「確かまた起こすのでしょう?」


「はい、まだ殺し足りませんしあの東京支部隊長の「高嶺幸隆」という男に倒された仲間の仇をとりたいのです。」


「あぁ......なんて素晴らしいの!」


白い髪の少女は立ち上がり大きな拍手をする。同じようにゴーストとキラーも彼女に拍手をした。


「じゃあ私達も手伝ってあげないとね。ゴースト、キラー、ターボ、力を貸してあげましょう。」


「了解しました。」


「はーーい♪」


「チッ仕方ねぇな。」


「ありがたき幸せでございます。」


「2日後、私達はテロを起こす!場所は新宿!さぁレーテが、日代唯愛がどう対処するのか楽しみね!じゃあ今日は解散よ。」


白い髪の少女の高笑いが部屋中を響き渡る。幹部達はゴーストが作り出した穴を通り自分達が元々いた場所に戻って行った。



新宿に災いの炎が1年ぶりに再び訪れる。


2日後、新宿の爆破テロにて一般人とレーテの隊員を含め、軽傷者54名、重傷者6名、レーテの隊員が1名死亡することになる。








【東京都内・ハンバーガーショップ】


「ユイアはテリヤキバーガーのセットだっけ?」


「うん!あ、夜だから倍ってできますか?」


「はい!倍テリヤキバーガーのセットですね。」


夜の9時に3人の女子高生がハンバーガーショップに来ていた。店内はハンバーガーショップ特有の匂いに満たされレジの奥の方からはポテトが揚げる音が聴こえてくる。


「ポテト揚げたてかな?」


アサヒがわくわくした瞳でレジ奥にあるキッチンを眺めていた。


「ごめんねー2人共こんな時間に呼んじゃって。今日おばあちゃんがいないの完全に忘れててさー家帰ったら誰もいなかったの!」


「いいよ、私達も暇だったし」


3人は店員からハンバーガーとポテト、ドリンクが乗ったトレーを受け取ると空いてる席を探し始めた。


「倍テリヤキバーガーとポテトとコーラ!ヒビキは?」


「私はチキンフィレオとナゲットとファンタのグレープ、アサヒは?」


「私はチーズバーガーとポテトとファンタのオレンジ!ヒビキ!あとでナゲット一個ちょうだい!」


「いいよ、その代わりポテト食べさせてね。」


「ずるい!私も交換!」


「はいはい、分かったよ......って全然席空いてない......」


夜の9時なのに席はどこも空いていない。会社員や家族連れで3人が座れそうなテーブル席は残っていなかった。


「しょうがない、2階のカウンター席にしよ。」


「「うん」」


ヒビキを先頭にハンバーガーショップの2階へと上がっていく。2階の数少ないテーブル席も予想通り満席だ。窓の近くにあるカウンター席に向かうとちょうど3席空いていた。


「ちょうど空いてるね。」


「でも1人、他の人の隣になっちゃうな。」


その席の方を見てみると端から順に3席空いており誰かが1人、あの赤髪ポニーテールの女子高生と隣の席になってしまう。それを見てユイアは少し口角を上げ、2人に言った。


「じゃあ私がその席座るよ!」


「え、いいの?」


「うん!」


3人は席に座るとユイアは隣に座っている赤髪ポニーテールの女子高生に話しかけた。


「やっほーアカネ!」


「ん?な!?日代唯愛なんでここに!!?」


驚いて食べていたハンバーガーを喉に詰まらせたのかすぐにトレーに置かれたコーラをストローで飲み干した。


「ユイア、知り合い?」


「うん!同じのレーテの隊員で神奈川支部の友達!」


「友達じゃねぇし!」


アカネ、ユイア、ヒビキ、アサヒという順番に並んでユイア達はハンバーガーを食べ始めた。アカネは気まずそうに食べながら隣に座っているユイアをチラチラと見つめる。


「なんでアカネはここで食べてるの?」


「泊まってるホテルが目の前なんだよ、師匠はホテルでやらなきゃいけない仕事があるからお前は1人で飯食ってろって言われた。」


「如月さん強かったなー。」


「だろ!さすがアタシの師匠だぜ!」






(倒れたら負けなんて私は言ってねぇ、だから引き分けだ。)





如月が言ったその言葉がアカネの脳裏に浮かんだ。自分の師匠とこの目の前にいるやつが引き分けたというのがどうも納得いかない。


「日代唯愛!!」


バン!


アカネは勢いよく立ち上がり、その音で席に座っていた3人や他の客が一斉にアカネの方を向く。他の客はすぐに元々自分が向いていた方に戻り食べるのを再会したが3人はアカネを見つめた。


「どうしたの?」


「アタシはお前にタイマンを申し込む!明日だ!明日!覚悟しておけ!」


「.........」


ユイアは少し考える。横に座っていたヒビキが小声でユイアの耳元で囁く。


「タイマンって......どうするユイア?」


「よし、いいよ。」


「じゃあ首を洗ってま.....」


「その代わり条件が2つ!」


それを聞いてアカネは少し嫌そうな顔をするがすぐに元の顔に戻り真剣な表情になった。


「なんだよ条件って......」


「その日代唯愛ってフルネームで呼ぶのやめて欲しいの。」


「「「......え、」」」


「確かに私は自己紹介する時に日代唯愛です!って言うけど......もう初対面じゃないんだからフルネームでわざわざ呼ばなくていいよ。」


「じゃあ、日代?」


「えーそっち?苗字じゃなくて名前で呼んでほしい!Y・U・I・A!ユ・イ・ア!」


アカネは少し恥ずかしそうな嫌そうななんともいえない顔をして頭を掻いた。


「あー!分かったよユイア!で、2つ目の条件って!?」


「2つ目の条件......それはね、アカネの持ってるバーベキューソースちょっとちょうだい。」


「はぁ~なんだそれ!?!いいよやるよ!!?」


ドン!


バーベキューソースが入った小さな器から鳴るとは思えないような音がしたが中の半分残ったバーベキューのソースはこぼれていなかった。ユイアは「ありがとう」とお礼を言うとポテトにバーベキューソースをつけて美味しそうに食べ始める。


「おいし~♪私バーベキューソースつけてポテト食べるの好きなんだよー!」


「ナゲットのソースだったら私があげたのに......」


「えーだってヒビキが持ってるのマスタードじゃん!私はバーベキューソースがいい!」



「あーー!!もう!なんだよコイツ!?調子狂うなー!!」







































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