第18話「2人は2人に何を思うか」

【次の日・午後3時20分】


レーテ本部内にある広いグラウンドの中心に2人のジャージを着た女子高生が立っていた。風が吹き2人の長い髪が旗のようにたなびく。アカネは「暑い」と言って上着を脱ぎ、腰に巻く。


「ユイア!今日はタイマンだ!!変身してかかってこい!」


「おう!」


その様子を少し離れた運動会の時に設置されるテントの下でユキタカと如月が見守っていた。如月は自販機で買ってきた缶コーヒーをユキタカに投げ渡し自分はサイダーの蓋を開ける。蓋を開けると同時にプシューと炭酸の音が鳴り、泡が溢れ出したので急いで飲み始める。


「はぁー!この開けたてが炭酸の感じがしてうめぇ!」


「コーヒーは飲まないのか?」


「私が苦いの無理なの知って言ってんだろ?カフェオレだったら飲んでやるよ。」


「そうか、そういえばお前の弟子は何のメモリカセットを使うんだ?」


「まぁ見てろって、始まったら解説してやるよ。」




ピー!



フエッスルの音がどこからか鳴り響き、向かい合った2人はそのまま睨み合いながら一歩二歩と下がった。ユイアはドライバーを取り出し、腰に巻き付けメモリカセットを装填しホイールを回転させ変身する。


3!

2!

1!


「変身!」


ヒーローアップ!You are HERO!!!!


「いくよ!」


「かかってこい!」


ユーアはその場で軽いウォーミングアップのようにジャンプし右脚の蹴りで空を切る。蹴りを放つとピンク色の稲妻のような斬撃がアカネに向かって勢いよく放たれる。


「きた!」


ドガァァァァァァン!!!


稲妻の斬撃が何かにぶつかった瞬間に砂埃が巻き起こり、周囲が見えなくなったが十数秒後に落ち着いた。目の前に厚さ1メートルほどの砂の壁、どうやらこの砂の壁がアカネの前に出現しユーアの攻撃を防ぎ切ったようだ。しかし砂の壁はすぐにヒビが入り上から順に崩壊しただ砂の山になってしまった。


「危ねぇ、やっぱ普通の土じゃすぐ崩れちまうか!」


「土を操る能力か?」


「違う、もっとすげぇよ」


ユキタカの質問に口角を上げ、如月はそう答える。


「アタシもここから本領発揮だ!しっかり受け止めろよ!!」


アカネが叫ぶと同時に彼女の背中がメラメラと燃え始め、やがて翼のようなものを形成し始めた。大きな炎の翼を動かし宙に浮き空を飛ぶ。ユーアを見下ろすアカネの表情は自信で満ち溢れていた。




「ドラゴンだよ。」


「ドラゴン?」


「アカネの中にいたのはドラゴンのメモリスだった。なかなか骨があるやつだったよ。だからアイツはドラゴンができることだったらなんでもできる。ドラゴンっていう生き物は4大元素を体現する存在らしい。今は火と土しかできないがいつか水も風も操れるようになる。」


「面白い力だな。」


「はいこれで解説終わりー!あとはこのタイマンを見てようか。」






「どうだ!ビビったろ!ドラゴンだぞドラゴン!!」


「かっ......かっ....かっこいいーーー!!!」


「え、」


「すごい!ドラゴンなの!?いいなぁ~ドラゴンなんてみんな大好きじゃん!よぉーしだったら私も!」


ユイアは楽しそうに飛び跳ねると腰につけたホルダーから赤いメモリカセットを取り出しメモリカセットを入れ替えホイールを3回回す。


3!


2!


「ビビって....ない!?なんだよコイツ!やっぱり調子狂うなー!!」


1!



ヒーローアップ!赤き熱風!掴む明日!ホーク!!You are HERO!!



ユーアはホークフォームに変身し背中から翼を生やしてアカネと同じように空を飛ぶ。


「パクんな!」


「マネしてないよ!これで同じ空中戦だね!!ハッ!」


ユーアを手を使って炎の球を作りだしアカネに向かって放つ。アカネも同じように炎の球を作り出す。2人が放った炎の球は同じ速さでぶつかり合うが、ユーアが作った炎の球はアカネが作った炎の球に吸収されてしまう。より大きな球になってユーアに向かって飛んでいく。


「炎を吸収した!?」


「どうだ!」


ユーアは急いで翼を使って炎の球を避ける。避けられた炎の球はユーアの背後で爆発を起こした。


ドガァァァァアン!!!


「いいねその技!私も欲しい!よぉ~しこれはどうかな?」


ユーアはホルダーから黄緑色のメモリカセットを取り出し、入れ替えるとドライバーのホイールを3回回す。


3!


「またフォームチェンジか!」


2!


1!



ヒーローアップ!今宵は使命!参るは救命!シノビ!!You are HERO!!



「ニンニンでござる!」


どろん!


翼を失ったユーアは落下していくなかで忍者のように印を結ぶと煙がモクモクと湧き上がり、煙が晴れると十数人に分裂したユーアがグラウンドに立ってアカネを見上げていた。


「分身の術!?おい、ずるいぞ!アタシも欲しい!!」


分裂したユーアは空中を飛ぶアカネに向かって手裏剣型の斬撃を飛ばす。アカネは避けようとするが翼が大きすぎて避けきれず翼にどんどん当たっていく。


「やばい!炎で作った翼の形が保てなくなる!うわ!?」


翼の形を保てなくなったアカネは地面に落下する。


ドォォオン!!


「いってぇ~!」


地上に落下して倒れたアカネにユーアは近づいていく。アカネは服も土で汚れ、膝からは落下した衝撃で擦りむいたのか血が少しずつ溢れてきていた。


「......」


「今がチャンスだぜユイア......」



ガチャ



「え?」


「ちょっとじっとしててね。」


ユーアはドライバーからメモリカセットを取り外しホイールを一回転させる。装着していたアーマーが光となって消え、ユイアの姿に戻った。ユイアはスカートのポケットからガーゼを取り出すとアカネが怪我をした部分をテーピングする。


「私ね、入隊したばかりの頃はよく怪我してさ。カホさんが「持ってなさい」ってガーゼくれたの。」


「何のつもりだ?」


「いや、私だけ変身してアカネがボロボロになっていくのがやっぱり納得いかないと思って。」


「じゃあ生身で闘うか?そんなことしたらお前が力使えなくなってボロボロになるだけだ.....」


「うん、だからさ。一回メモリカセットとかドライバーの力なしでやってみない?タイマン.....」


「.........」



ユイアは少し微笑むと腕を構えてファイティングポーズをとる。それを見てアカネは昔のことを思い出した。自分はレーテに入る前からこの力を使っていたのか?いいや違う、自分の身体だけを使ってぶつかり合って勝ってきた。炎を纏った拳じゃない、ただの全力の拳を相手をぶつけてきた。レーテに入ってメモリスだけを相手にしてきたことで忘れていたことだ。


「..........いいぜ、やってやる!」


アカネは立ち上がり同じように構える。その姿を見てユイアはニッと笑い、アカネも同じように笑う。


「「シャア!!」」


走り出しお互いの拳をぶつけ合う。すぐにアカネは右脚で蹴りを入れるがユイアはもう片方の腕でそれを防ぐ。ユイアはアカネから少し距離を取ったがアカネは距離をすぐに詰め、回し蹴りをする。


「ハッ!」



シュッタ!



ユイアはその場でバク転をし後ろに下がることで回し蹴りを避けた。


「師匠と同じ避け方するな!」


「やった!バク転初めてやったけど成功した!!」


その様子を見ていたユキタカと如月、どちらも飲み物を飲み終えていた。


「へー楽しそうじゃん。」


「このタイマンにルールはあるのか?」


「え、あぁ......ねぇよ。強いて言うならアカネが満足するまで?」


「いつ終わるんだろうな、」


殴って蹴って避けて技をかけ合う姿はなんだか楽しそうに戯れあってるように見えて如月は笑ってしまう。


「かわいい奴らだな、私が思っていた通りだ。」


「思っていたって?」


「アカネは......ずっと1人だったんだよ、レーテの隊員は全員自分より年上。それが当たり前の場所にいたからな。だからお前の所にアカネと同い年のやつが入ったって聞いたから今回の集合会議にアカネも連れてきたんだ。」


如月の視界には楽しそうにユイアと戦うアカネの姿があった。


「私はあの2人には期待しているんだ。」






バタン!!



そんな話をしているとユイアとアカネはその場で倒れてしまった。2人共、服が汚れてボロボロになっている。ユイアはなんとか立ち上がりアカネに近寄った。


「立てる?」


「無理、もう動けねぇ......アタシの負けだ....でも、」


「でも?」


「すげぇ楽しかった!」


アカネは汗を流しながらユイアに向かってニカッと笑った。ユイアもその表情を見て同じようにニカッと笑う。ユイアが手を差し伸べるとアカネはそれを掴み立ち上がった。


「これで私達友達だね!」


息を切らしながらユイアはアカネに言った。アカネは少し考えていた握っていた手を離しこう答えた。


「友達じゃねぇよ。」


「え!?で、でも拳でぶつかり合って友達!ダチになるって展開じゃないの!?」


ユイアは驚き落ち込む。その姿を見てアカネは「はぁー」とため息をつき恥ずかしそうにしながら言う


「友達じゃねぇ........今からアタシ達はライバルだ!」


「ライ.....バル?ライバル!いいね!それ!ライバル!!」


ユイアの表情は晴れ嬉しそうにライバルという言葉を頭の中で復唱する。


「次は絶対アタシが勝つ!」


「その次は私が勝つ!」


「「あははは!!!」」


2人はニッと笑い拳を当て合う。自分達がやっていることが少し恥ずかしくなったのかお互い笑ってしまう。その様子を見てユキタカと如月は微笑むと立ち上がり2人を迎えに行った。











数十分後、ユキタカとユイアは2人で廊下を歩いていた。ずっとユイアが楽しそうに鼻歌を歌いながら歩いているのを見てユキタカは少し微笑む。


「どうだった。」


「はい!楽しかったです!メモリカセットの能力もかっこよかったし!なにより!」


「なにより?」


「人生で初めてライバルができました!」


「良かったな。お互いが切磋琢磨し合って良い影響を与え合えればいいな。」


「はい!.......ヒビキとアサヒは親友で、ルナは相棒で、アカネはライバル!ユキタカさんは........」


「俺は?」


「先輩...先生....師匠ポジ?」


「ハハ.....俺はお前にトレーニングしか教えていないぞ。」


ユキタカが笑ってそう言うとユイアは走ってユキタカの前に立った。


「だったら今度ユキタカさんの技を教えてください!私!もっともっと強くなりたいです!」


ユイアのピンク色の瞳がいつも以上に宝石のように輝いて見えた。如月が言った「私はあの2人には期待しているんだ。」という言葉が頭の中で浮かんできた。


「......あぁ、俺もだ。」


「?」


「いいやなんでもない。今度時間があったら教えてやる。」


「本当ですか!?約束ですよ!」


「でも俺の技は剣の技しかないぞ。」


「じゃあ剣を使えるようになります!」


「まずはそこからだな。」


2人は廊下を再び歩き出す。一方その頃アカネは医務室で傷の手当てを受けていた。消毒液が傷に染みるのか何度も声をあげる。その姿を見て如月はニヤニヤと笑っていた。



この時、もうすでに新宿での爆破テロが発生するまで24時間を切っていた。









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