第19話「誰が命を懸けて止めるのか」

早朝7時ごろ、レーテの本部前の広い駐車場に十数台の大きなワゴン車が置かれていた。隊員達の装備が積まれたワゴン車のドア部分にはレーテのロゴが塗装され一列に並んでいる。ユイアは何台も並んだワゴン車を見て無邪気な子供のようにはしゃいだ。


「すごーい!」


「へー昨日言ってた作戦マジでやるんだな。」


「当たり前だ。」


ユイアとルナが振り返ると後ろからユキタカが戦闘用の刀を腰に携えやってきた。数人のレーテの隊員を引き連れているが彼らもユキタカと同じ隊長服を身に纏っている。


「すまないな関東支部の隊長にも手を貸してもらって。」


「構いませんよ。もう少し本部には残る予定でしたし。」


そこに如月とアカネが到着しユキタカは今日の作戦を再度、昨日と同じように説明し始めた。ユイアはその話を聞きながら横で飛んでいるルナに小声で話しかける。


「確か内通者?を見つけるやつだよね。」


「あぁそうだ。レーテ本部を中心にワゴン車でパトロールする。でもそれが実はメモリカセットの輸送っていうことが敵にバレていたら内通者がいるの確定。内通者の可能性が高いやつらそれぞれに違うルートを教えてるんだ。」


「えーっとつまり?」


「はぁー、例えばAのグループには1のルートで輸送すると伝えて、Bのグループには2のルートで輸送すると伝えてるとする。」


「うん。」


「それで2のルートで敵に襲われたらBのグループに内通者が混じってるってことだ。」


「ふむふむ、なるほどー!賢いね!」


「まぁ考えたのはアイツだけどな。」


ルナはそう言って脚を伸ばし準備運動をする如月を見つめた。横にいたアカネも如月のマネをして準備運動を始める。


「よし、それぞれ車に乗って作戦開始だ!」


如月が意気揚々と声を上げ、車の後部座席に乗り込む。ユイアはユキタカの指示に従ってルナと共に車に乗り込んだ。乗り込んだ車には既に他の県の隊長が武器を手入れをしながら待機をしていた。20代くらいの黒髪センター分け、ウルフカットの中性的な女性だ。右耳には派手なトゲトゲしたピアスをつけている。乗ってきたユイアの方に顔を向けニッコリ微笑むと手を振る。


「おはよう後輩!」


「おはようございます!」


「僕は千葉支部長の芝田波流(シバタ ハル)まぁ短い間だけどよろしくね。」


「日代唯愛ですよろしくお願いします!」


「じゃあユイアちゃんね。」


楽しそうに会話を始めるユイアを見てルナはユイアらしいと思いながらユイアの隣の席に座った。数分後、車が動き出しレーテの本部の門から市街地へと移動を始めた。


「僕たちのルートは新宿を中心としたルートだね。まぁ襲われないことを願って楽しく雑談でもしようか。」


「そうですね!」


「東京のお土産って何がおすすめ?隊員達が買ってこいってうるさくてね。」


「う~ん、クレームブリュレタルトとか美味しいですよ。」


「クレームブリュレタルト?クリームじゃなくて?」


「はい!」


車の中から外の景色を見ていると歌舞伎町一番街という文字が一瞬見えた。新宿に気づけばついていたらしい。ユイアがスマホを確認すると午前10時27分と表示されている。


「如月くんは確か渋谷ルートで高嶺くんは........」


急に千葉支部長の波流が黙り、ワゴン車の天井を見つめ始めた。先程までの穏やか表情が少しずつ緊迫した表情へと変化していく。


「どうしたんですか?」


「ユイアくんドライバーを用意して。」


「え、」


「来たよ。」



ドガァァァァアァァァァァァァアン!!!!!!!



キーーーーーーーーーーッ!!!


激しい爆風の音が響き、ユイア達が乗ったワゴン車は急ブレーキを踏んだのか車体が大きく揺れた。それは大きく、重く鉄の塊のような何かが上空が落ちてきた音だ。


「なっ何!?」


「行くよ。」


波流は武器を構えるとすぐに外へと飛び出した。その瞬時に行動する姿はさすが隊長と言えるものだ。ユイアも後を追い外へと飛び出す。車の前にはチーターのような姿をした怪人が腕を回しながらユイア達を見つめていた。


「飛び降りるのはやっぱりいてぇな......どうだ上からの登場!なかなかかっこいいだろ!ユーア!」


「メモリス!」


「アイツは確か幹部のターボっていうやつだ。あんまり目立った活動はしてないみたいだけど。」


「俺はアイツらと違って人を襲ったりするのことには興味ねぇからな。少し遊ぼうぜ!」


チーターの怪人ターボは首を曲げポキポキと音を鳴らしユイア達に近づく。ユイアはドライバーを巻きつけメモリカセットを手にとった。


「波流さん!」


「もう本部に連絡済みだよ。まさかこんなに早いとは思わなかったけど!」


シュッ!!


波流はそう言うと武器のダガーナイフを両手に持つとターボに向かってクナイの要領で投げ飛ばした。ダガーナイフが身体に刺さりそうになった瞬間にターボは姿を消し反復横跳びのようにダガーナイフを避け続ける。


「やっぱりチーターだけあって速いね!」


ターボはユイアと波流の後ろに回り、波流に攻撃を仕掛けようとするが背後から気配に瞬時に気付くと簡単にターボの拳を避け再びダガーナイフを投げ飛ばす。


「よく分かったな!メモリカセットの能力か?」


「ピンポーン!正解だよ、ユイアちゃん今のうちに変身だ!」


「はい!」


ユイアはメモリカセットをドライバーに装填するとホイールを3回回転させる。ユイアの背後に出現したテレビの画面からピンク色のバッタのヒーローが画面を蹴り割って飛び出しターボに攻撃を始めた。



3!2!1!


「変身!!」


ヒーローアップ!You are HERO!!



ピンク色のヒーローのアーマーを装着したユーアはターボに向かって走り出す。蹴りを脇腹に向かって放つがダメージが入った気がしない。まるで鉄の像に蹴りを入れているような感覚がする。


「カタッ!?」


「舐めんな!そんなキック効かないぜ!オラァァ!!」


「ユイアちゃん危ない!」


シュッ!


ターボはユーアを殴ろうとするが波流はダガーナイフを投げ飛ばしそれを防ぐ。


(僕の能力を相手が知らなくて助かったよ。)






千葉支部長、柴田波流の中にはメモリスが「2体」いた。レーテの隊員にもほぼいないかなりのレアケース。そのため彼女は2つの能力を所持している。1つ目は「センサー」、感知したい対象、行動を設定することでそれが自身に近づくと脳内で音が鳴り響き知らせる。ユイアと車内にいる時は感知したい対象を「メモリス」と設定、戦闘開始からは「自身もしくは付近にいるレーテの隊員に対して起きる危機」と設定していた。


2つ目は「ダガーナイフ」、能力はダガーナイフを好きなだけ手から出すことができ、出したナイフを自由に操るという単純な能力だ。自身を中心に半径15メートル以内にあるダガーナイフは触れてなくても動かすことが可能である。




「その姿の時はユーア?だっけ、援軍が来るまで耐えるよユーア!」


「はい!」


「よっし!かかってこい!!」


シュン!


「ユーア!避けろ!」


ターボは走り出し、次の瞬間ユーアの目の前で出現するとアッパーを喰らわせようと拳を握った。ユーアは脚のアーマーに力を溜めて勢いよくバク転をし後ろに下がって距離を取った。


「あの速さは........」


「そうだねルナ、私も思ったよ。ライトニングと同じくらいの速さだって。」


「でもライトニングはまだ長時間は使えないぞ。」


「分かってる。でもあの速さをどうすれば........」


「だったらあれを使うしかないな。」


ルナはそう言うと車の中へと戻り、ユーアに新しいメモリカセットを投げ渡した。投げ渡されたメモリカセットは進助の青いメモリカセットだ。


「これって!」


「これなら少しは速く動けるだろ?」


「いいね!テンション上がってきた!」


ユーアはピンク色のメモリカセットを取り出し青色のメモリカセットと入れ替えた。ドライバーに装填するとユーアの背後のテレビの画面から青色のレーサーの姿をしたヒーローが飛び出し道路を猛スピードで走り始めた。



「元気いっぱいだね!そんなに走りたい?だったら私とひとっ走り付き合ってよ!」



ユーアは勢いよくドライバーのホイールを3回回転させる。


3!2!1!


周囲を走っていたレーサーのヒーローは後ろからユーアの身体にぶつかる瞬間にバラバラのアーマーとなり各部位に装着されていく。ヘルメットのバイザーがおり黒いバイザーの奥にある白い複眼が一瞬発光する。




ヒーローアップ!正義を勝ち取る!アクセル!フルスロットル!レーサー!!You are HERO!!




「なかなか速そうな姿じゃねぇか!!」


「初乗りだけどトップギアでいくよ!!」


ターボのふくらはぎから生えたバイクのマフラーが煙を上げ始める。それと同時にユーアも両足についたタイヤを火花が散るほど回転させ始めた。



ブゥゥゥウン!!!



十数メートルの間を空けて向かい合う2人は走り出したと同時に急速加速し一瞬で拳をぶつけ合えるほどの距離まで詰めた。2人は何度も移動しながらぶつかり合う。


「いいぜなんとか俺のスピードについてきてるな!」


「まだ余裕そうだね......でも私も負けないよ!」


周囲の道路には既に一般人は誰もいない。乗り捨てられた車が数台残っているだけだった。


「クソ.......やっぱりあの速さでギリギリ追いつけてる感じだな。」


「高嶺くんから連絡だ。新宿にもうすぐ到着するそうだ。」


「よし!一気にトドメだユーア!」


「うん!!」


ユーアはホイールを3回回転させるとターボから十数メートル離れる。直線上にいるターボは不思議そうな顔をしながらユーアに近づいてきた。するとユーアとターボの間に大きな横になったタイヤが2列になって並び始める。


「なんだこのデカいタイヤ?」


全てのタイヤが回転を始める。


「この中入ったらすごく加速できそう!」


ユーアは目の前に二列に並んで回転するタイヤに向かって走り出しキックのポーズをとった。ユーアの身体はタイヤとタイヤの間に吸い込まれ加速すると次のタイヤとタイヤの間に吸い込まれ、それを何度も繰り返すうちに先程の何倍の速さになっていた。


「いっけぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえ!!!!!」


「来い!!ユーア!!!!」




レーサー!エヴォークスマッシュ!!!!




ビュゥゥゥゥゥゥゥゥウゥゥン!!!ドガァァァァァァァアァン!!!!!


正面で迎え撃つターボの身体にぶつかり爆風が巻き起こる。ユーアは数メートル先でタッ!と綺麗に着地すると息を切らしながら後ろを振り返った。そこには消滅せず平気そうに立ち上がるターボの姿があった。


「ウソ!?」


「へへっ今のは少し効いたぜ。」


「まだ戦うつもりか?」


波流はダガーナイフを十数本、宙に浮かせて構えている。ターボを頭をポリポリと掻くと建物の方へと歩き始めた。


「どうやらメモリカセットの輸送ってのはデマそうだな、まぁ「時間稼ぎ」はできたし俺の今日の仕事はこれでおしまいってことで......」


「時間稼ぎ?」


「おーい!聞こえてんだろー!そろそろ帰してくれないかー?」


ターボの声が新宿に響き渡るとターボの目の前に黒い大きな穴が出現した。ユーアはそれがゴーストが使っている穴だとすぐに分かった。


「待って!逃がさないよ!」


「楽しかったぜユーア!また遊ぼうな!」


ユーアが走って捕まえようとした時にはもう既にターボは黒い穴に入っており身体が全て入った瞬間に黒い穴は煙のように消えてしまった。


「逃げられたか......それよりアイツが言ってた「時間稼ぎ」っていうのが気になるな。」


「そうだね....波流さん、大丈夫ですか?」


ユイアは変身を解除して頭を抑える波流を心配し近づいた。冷や汗を流し体調が悪いように見える。


「いや.......大丈夫だよ。でも僕の能力の「センサー」がずっと鳴り止まないんだ。」


彼女の頭の中でピー!という音が鳴り続ける。メモリスはもういなくなったはずだ。それなのに壊れた目覚まし時計のような音が止まらない。頭の中で何度も何度もこだまし続ける。


「何が起きるって言う........」





ピッ!


ドガァァァァァァァァアアァァァァァァァァァアァン!!!!!

ドガァァァァァアン!!ドガァァァァァァァアアン!!ドガァァァン!!!!


「「「え、」」」


新宿の大きなビルから激しい爆発音が鳴り響き黒い煙がモクモクと立ち上がっていく。新宿の建物が崩れ始め一般人の悲鳴に近い叫び声が響き始めた。少し離れた場所で見ていた一般人はザワザワと騒ぎ野次馬達が集まり始める。


「なになに爆発?」


「なんかの映画の撮影?」


「さすがに違うでしょ。」


「今のうちにあの爆破された建物まで行って動画撮ってSNSにあげようぜ!」


「いいねそれ!」


「ヤベェって!!」


「去年もこんな感じの事件あったよね?」


「ねぇ、あの黒い穴なに?」


「何か落ちてきてね?」


新宿のど真ん中に半径数十メートルの大きな穴が出現しそこから何十体もの黒い姿をした怪人が落下していく。」


「キャァァァァアア!!!」


「化け物だ!」


「マジか本物じゃん!?」


「動画撮ってないで逃げろって!!」


「お母さん!?お母さんどこ!?」


「邪魔だよ!!」


「どけって!!」


新宿は一瞬で混乱へと陥った。その様子をどこかのビルから眺める怪人達が数名立っている。


「軽く余興として私の力で100体ほど新宿に放ちました。」


「さすがゴーストね。」


「観て!子供を押して逃げようとしてる奴がいるわ!ほんと自分勝手ねー」


「まだこれで終わりじゃないでしょハチちゃん?」


「はいお任せください。」


「さぁ新宿を人の悲鳴で染め上げるのよ!!!」










「ねぇ何が起こってるの!?」


気づけばユイア達の周りにも黒い姿の怪人が数体出現している。


「あれ見たことあるよ.......麗奈ちゃんの時にゴーストが呼び出した奴らだ。」


「とりあえず一般人の避難が優先だ!ユイアちゃん!君はユキタカと合流してくれ!」


「波流さんは!」


「僕はこの付近に避難できていない人がいないか確認しながらここにいる奴らを倒す!」


そう言うと波流はダガーナイフを投げ飛ばし黒い怪人を倒して行く。



ブルンブルン!!



遠くの方からバイクの走行音が聞こえて来る。振り返るとユイアが進助からもらった黒いバイクが誰も乗っていないにも関わらず走ってやってきた。


「誰も乗ってないバイクが走ってきた!?怖ッ!?!」


「もしかして私を探しに来てくれたの!?」


ブルン!


黒いバイクはユイアの前に止まるとライトをピカピカと光らせた。


「そうかそうか!可愛い子だねー!」


ブルンブルン!


ユーアはバイクを撫で始める。バイクは喜んでいるのかライトをさらにピカピカと光らせブルンブルンと音を鳴らした。その様子はあまりにも奇怪でルナは何て言っていいのか分からなかった。


「よし!じゃあユキタカさんに合流しに行こう!えーーっと名前はーーよし決めた!君は今日からライトニングチェイサーだ!!」


ブルン!ブルン!


「気に入った?良かったー!」


「もうツッコまねぇぜ。」


ユイアはドライバーにピンク色のメモリカセットを装填しホイールを3回回転させる。



3!2!1!


ブルンブルン!!




「変身!」




ヒーローアップ!You are HERO!!


変身したユーアはバイクに跨った。それを見た波流はポケットから何かを取り出しユーアに投げ渡す。


「これ!」


バッ!


「これって.........」


ユーアが受け取ったものは白い拳銃だった。隊員達が使っているレーテガンによく似ているが形状が大幅に変化している。


「隊長用のレーテガンだ!僕が予備で持ち歩いているやつ!メモリカセットをエネルギーとして弾丸を撃ち放てる!きっと君の役に立つはずさ!」


「はい!ありがとうございます!ルナ!ライトニングチェイサー!急ぐよ!」


「おう!」


ブルンブルン!!





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