第31話「闘魂!燃えろアグニス!」

剣真に変身した瞬間にユキタカは刀を構えてゴーストに向かって斬撃を放ちながら走り出した。


「日代!コイツは俺が相手をする。」


「はい!」


「無駄ですよ、そもそも彼女は私が新宿を範囲に能力を使用した際に偶然この世界に戻ってきた魂。いずれはあの姿になる運命だったのです!」


「よそ見をするな!」


剣真はユーアを見つめるゴーストに切りかかるが煙を切るかのように感触がない。ゴーストは自身の透過能力で剣真の攻撃を無力化し続ける。


「全く当たらない......だと」


「そうですよ、あなたの攻撃は私に当たりません。さぁどうしますか?」


「ユキタカ!アタシと変われ!!」


2人の様子を見ていたアカネが変身したアグニスが走り出す。炎を纏った拳をゴーストにぶつけようと構える。


「無駄ですよ、あなたの攻撃も効きま......」


「うおぉぉぉぉおぉぉ!!!!」


手を広げてゴーストはアグニスの攻撃を受け入れようとした。ゴーストの透過能力は死者の魂である幽霊は物をすり抜けるという多くの人の共通認識によるもの、この能力を使用している限り決して攻撃は当たらないと確信していた。



ゴギッ



「え、」


次の瞬間、感じたものは痛み。その数秒だけ世界の時間の進みがゆっくりに感じた。装甲を纏った重い拳が炎を纏ってゴーストの顔面に食い込んでいく。そのままゴーストは数メートル先の資材置き場まで吹き飛ばされてしまう。


「ぐぁぁあぁあああ!!!」


「当たるじゃねぇーか!!」


数メートル先の資材置き場からふらふらと立ち上がったゴーストは何が起きたのか理解できなかった。自分はあの時、能力を解除したのか?いいや解除した覚えがない。だが、それ以外の可能性が見つけられない。


「ユキタカ!コイツはアタシが相手をする。ライターヤロウを頼む。」


「あぁ、分かった。」


「な......なぜだ、なぜ私の透過能力が効かない!!」


「そんなことアタシが知るか!!」


アグニスの右ストレートがゴーストの脇腹に入った。まただ、透過能力が無効化されてしまう。戸惑うゴーストに何発もパンチやキックを入れていく。


「まっまさか......」


ここでゴーストの脳内で一つの可能性が浮かびあがった。アグニスが使用するドラゴンのメモリカセットが自身の能力を否定しているという可能性だ。ドラゴンは元々、自然や不死の象徴である蛇が神格化して信仰されていたという歴史がある。不死の象徴であるドラゴンの能力を身に纏っているアグニスの攻撃は死の記憶を持つゴーストの能力と反発して互いの能力を打ち消し合うのだ。


(なんかコイツ殴ってる時だけ炎が消えてるな......まぁ攻撃入ってるだけでもいいか!)


ゴーストが恐れていた事態が起きてしまった。自身が誇る透過能力が効かない相手、唯一の天敵。


「はぁ......はぁ......」


息が上がっていく。心臓の音が激しくなっていく。


「さっきまでの余裕はどうした?」


「くっ!舐めるなよガキが!!」


アグニスはドライバーの右に取り付けられたトリガーを引き、再び強く押し込む。右腕の2本のマフラーから炎が吹き出し、赤い龍の刺青のようなものが浮き上がっていった。


「これで終わりだ!ゴースト!!」



ブレイズドラゴンストライク!!



「龍撃・炎吹ノ牙......」



吹き出した赤い大きな炎の勢いに乗せて拳を突き出す。拳はゴーストの腹部の装甲を叩き割り深く食い込んだ。


「ぐはっ!!」


ゴーストは薄れゆく意識の中、最後の力を振り絞った。倒れる寸前にゴーストの足元の地面に黒い穴が出現し、そのままゴーストの身体を飲み込んでいく。


「逃げるな!」


ゴーストを飲み込んだ黒い穴はすぐに閉じてしまった。







「ヒカルさん!元に戻って!」


「アァァア!!!」


「うっ!」


ユーアは必死にヒカルを抑えようとするが怪人となったヒカルの長い爪がユーアの身体に突き刺さる。アグニスにゴーストを任せたあと、ユーアはヒカルに呼びかけたがあの時のようにカケルという言葉にも反応しなくなってしまった。


「このまま......もう戻らないの?」


「はぁ......はぁ......ユイア!!!」


「!?」


諦めそうになったその時だ。どこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。声がする方へ振り返ると工事現場の入り口に誰かいる。黒いフードを被った緑色の長い髪の少女、モデルのような長い脚は少し痩せていた。走ってきたのか息を切らし額から汗が流れていた。


「あなたは......」


「私の部屋......滅多に人が来ないしルナもまだ直してないから......自分で渡すしかなかった。昼間に出歩くなんていつぶりだろ......」


初めて会ったはずなのに、そんな気がしない。いつも隣にいたはずの声が彼女の口から発せられていた。


「もしかして、あなたは」


「こうやって会うのは初めてだな、ユイア。」


「ルナ!」


「今はメモリスを倒すことが先だ。私が調整したメモリカセット、ちゃんと使えよ。」


そう言って緑髪の少女はポケットから取り出した赤いメモリカセットをユーアに投げた。ユーアはそれを受け取るとうなづいてメモリカセットを入れ換え装填した。


「消防車のメモリカセット......うん!」


3!


2!


1!


ドライバーのホイールを3回回転させる。ユーアの背後に現れた画面を割って飛び出してきた消防車が変形し真っ赤なアーマーとなりユーアに装着されていく。



ヒーローアップ!


燃やせ魂!響けサイレン!ファイアエンジン!!You are HERO!!



装着された瞬間に肩に取り付いたサイレンが鳴り響く。その姿はまるで子供が好きそうな消防車が変形合体するロボットのようだった。


「うおー!戦隊もののレッドが乗るロボットみたい!」


「ユーア!はしゃいでる場合じゃないぞ!」


「うん、ヒカルさんを元に戻さなきゃ!」


怪人となったヒカルはユーアに向かって走り出した。


「元に戻って......ヒカルさん!あなたを絶対に救ける!!」


ユーアは右腕を伸ばしてヒカルの手を掴む。その時だ、ユーアが装着している消防車のアーマーが光り始めた。


「なっなにこれ!?」


光はどんどん増していく。その眩しさでユーアの中のユイアはまぶたを閉じてしまう。頭の中で断片的な色褪せた映像が映画のフィルムのように再生された。


「これ......誰の記憶?」






青空の下、桜の花びらが舞い落ちていく。


花束を抱えて私はお墓が並ぶ道を歩き、一つの墓の前で立ち止まった。


大切な人が眠る墓だ。彼女を失ってから何度目の春を迎えたのだろう。


なんであの時、素直な気持ちを言えなかったのだろう。


過去は絶対変えられない。後悔だけが胸の奥の底に重く沈んでいく。


私は彼女のような人をこれ以上増やさないために消防士になったのだ。


自分の手で救える命があるのなら救いたい。


......半分嘘だ。自分はただ消防士になって他人の命を救うことで過去に彼女を救えなかった自分を慰めているだけだ。あの時、彼女が命を失ったあの場所に今の自分がいれば救けられたかもしれない。心のどこかでそう思っていた。


過去は絶対変えられないのに......






パチン!


ユーアはもう片方の腕で自身の顔を強く叩いた。意識が現実に戻っていく。


(危なかった!今......自分が誰だか分からなくなりそうだった!)


メモリカセットにわずかに刻まれている宿主だった者の記憶がユイアの脳内に流れ込んだのだ。掴んだ手を見下ろすとヒカルは怪人から元の姿に戻っていた。


「ヒカルさん!」


「その声、ユイアちゃん?あれ......どうしてたんだっけ。夢?の中でカケルくんが私のお墓の前にいて......そっか、あんなふうに思ってたんだ。」


「あの記憶、ヒカルさんも見てたの?」


少し謎が残るがヒカルを元に戻すことができたとユーアは安堵した。だが、安堵したのもつかの間ヒカルの身体が足先から順に消え始めてしまう。倒れるヒカルをユーアは抱きしめた。


「ヒカルさん!」


「やっぱり......もう時間がなかったみたい、直接言えなくて残念だな......」


「そんな......諦めちゃダメです!」


ヒカルはユーアの頬に手を置き、首を横に振るう。


「うんうん......もういいの、私のことが見えるあなた達に出会えたこと、彼の気持ちを知れてよかった。」


満足そうな表情を浮かべるヒカルの身体は下半身まで消えてしまっている。


「ヒカルさん......」


「最後にわがまま言っていい?」


「はい」


「あなた達と出会った公園の木の下、そこにわ......」


「え、」


全てを言い残す前にヒカルは完全に消えてしまう。キラキラと光る黄色の粒子が空の上に帰っていく姿をユーアはただ見送ることしかできなかった。


「ヒカル......さん」


「ユイア......」



ドガァァァン!!!



「ぐはぁ!」


「ぐっ!!」


別れの余韻を遮るように少し離れた場所で爆発音が起こる。どうやら剣真とアグニスがライターのメモリスに苦戦しているようだ。


「どうシタ?俺ハまダマだ燃えテルぜ?」


「まずいな、ユイア!」


「うん、分かってる。今は......戦わなきゃ!」


ユーアは両腕に取り付けられた消防車のホースをライターのメモリスに向けて構えてものすごい勢いで放水した。大量の水をかけられて全身びしょ濡れのライターのメモリスは必死に左腕のライターで火をつけようとするがカチカチと音がするだけで一向に火がつかない。


「そっそンナ!?」


「今がチャンス!2人とも力を貸して!」


ライターのメモリスの攻撃を受けて負傷した2人はゆっくりと立ち上がるユーアに駆け寄った。


「トドメといこうか!」


「あぁ」


「3人同時にキックでフィニッシュ!よぉーしテンション上げていくぜ!」



3!2!1!


ヒーローアップ!You are HERO!!



ユーアはメモリカセットを入れ替えて元のヒーローフォームに変身してからドライバーのホイールを3回回転させる。剣真はドライバーを横にスライドしてから青色のメモリカセットを抜き取り再び装填した。2人の右脚がそれぞれオーラを纏っていく。



必殺待機!!



「いくぜ......ユイア!ユキタカ!」


アグニスはトリガーを横に引いてから赤いメッキのマフラーの形状をしたパーツを押してからトリガーを強く押し込んだ。アグニスの右脚のアーマーが展開し煙が噴き出す。3人はライターのメモリスに向かって走り出し、上空へと飛び上がってライターのメモリス向かって蹴りを放つ。



「龍撃・豪火激覇!!」



ブレイズドラゴンバースト!!


エヴォークスマッシュ!!


必殺発動!剣心!一心撃!!!



「「「はぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁああ!!!!」」」



ドガァァァァァァァァァァアアン!!!!!!!



「炎ノ中、爆散すルのも悪くナ......ぐはぁアぁァァあああ!!」



3人の蹴りがライターのメモリスの身体を貫通する。地面に着地した3人の背後で激しい爆発が巻き起こり、ライターのメモリスは爆散した。










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