第30話「東城茜・変身」

【次の日】


ユイア達3人は昨日、ヒカルと別れた消防署付近の場所に集合した。3人はその場所で1時間ほど彼女を待ってみるが一向に現れる気配がない。夏の日差しが暑く、額から汗が伝っていく。


「どうしたんだろう?」


「もしかして成仏しちゃった......とか?」


「まさか......そんな」


「もう少し待ってみようよ。」


ユイアが2人に待つことを提案したその時だった。ユイアが持っていたスマホから電話のコール音が鳴り始める。画面を見るとユキタカからだった。


「ユキタカさんからだ......はい、もしもし!」


「日代、メモリスが現れた。すぐに現場に向かってくれ。」


「メモリス......分かりました。」


「俺も後で合流する、場所は上野にある建設中のビルだ。その場所への地図はバイクに入れてある。」


そう言ってユキタカは急いでいるのかすぐに電話を切ってしまった。


「メモリスが出たの?」


「うん、ごめんね!私すぐに行かなきゃ!」


「大丈夫だよ、いってらっしゃい.........っていうかどうやって行くの?」


ヒビキのその言葉でユイアは少し考える。そして先ほどユキタカがバイクに地図を入れていると言っていたことを思い出した。


「そういえばユキタカさんがバイクって、」



ブルン!ブルン!



「ユイア!なんかきたよ!?!」


アサヒが指差す方向に2人は振り返った。誰も乗っていない黒いバイクが法定速度ギリギリのスピードでこちらに向かってくる。ユイアのバイクのライトニングチェイサーだ。行き交う人々が走る姿をスマホで撮影している。


「ライトニングチェイサー!?」


ライトニングチェイサーはユイア達の前でブレーキをかけて止まった。シートの上にはヘルメットが紐で括られた状態で乗せてある。


「ここまで1人で来たの!?しかもヘルメットまで持ってきて........すごくいい子!!」


ブルン!


ユイアは飼い犬を可愛がるようにライトニングチェイサーのボディを撫でた。ライトニングチェイサーは心なしか嬉しそうにマフラーから音を鳴らす。その様子を2人は不思議そうに見つめていた。ユイアはすぐに紐を外し、ヘルメットを被るとライトニングチェイサーに乗る。


「よし!じゃあ行ってくる!」


ユイアはニカッと笑うとヘルメットのバイザーを下ろし、ライトニングチェイサーを運転して現場に向かった。


「いっ.....いってらっしゃい......」


「ねぇヒビキ。最近のバイクってあんな感じなの?」


「たぶん、あれが特別なんだと思う。」


「そっか......」







【上野・建設途中のビル】


上野にある建設途中のビルから次々と怯えた表情で作業員達が飛び出してくる。作業員達と混じって一体のメモリスが中から出てきた。そのメモリスはニヤニヤと笑いながら目の前の男性作業員を1人捕まえると右腕で首を締め付けた。


「グッ!あぁぁ......」


「なぜ逃げル?これカラもッと面シロクなるのに?」


メモリスはライターのような形をした左腕をカチカチと鳴らして作業員の顔に突きつける。カチカチと鳴らすたびに熱い火花が散った。


「オマえも俺の作品ニなるか?」


「だっ誰かッ助け.......」


シュッ!


「変身!!」



ヒーローアップ!You are HERO!!



メモリスが作業員に左腕で火をつけようとしたその瞬間、道路の方から現れたユーアがメモリスに飛び蹴りをする。飛び蹴りを受けたメモリスはその場で倒れてしまう。


「逃げてください!」


「あっありがとうございます!」


作業員は喉を押さえながらユーアに礼をするとその場を立ち去った。メモリスはすぐに立ち上がり、ユーアをじっと見つめた。赤色の炎のような長い髪を右腕で整えるとユーアの方へ歩き出す。


「邪魔スルなよ、せっカクあいツも作品にシテやろうと思っタのに。」


「作品?」


「ソウサ、俺はライターのメモリスだ。炎は美シイ、それに暖カイ。人間もソウ思うダロ?」


そう得意げに語るライターのメモリスは自身の左腕の大きなライターを愛でるように撫でた。


「確かに炎はあったかく綺麗だし私もキャンプファイヤーとか好きだよ。」


「ダロ!だから人間も綺麗ニ燃やシテやるのさ!」


「う~ん、それには賛成できないな。」


「そうカ......残念だ。」


ライターのメモリスは左腕を突き出し、火打ち石と回転ドラムを使ってカチカチと音を鳴らする。火花が散り、生成された炎の球をユーアに向かって撃ち放った。ユーアはすぐにそれを避けるが避けた炎の球が次々と作業場に置かれたクレーンや鉄骨に着火し広まっていく。


「火が!!」


「俺ノ炎はどンナもノでも着火スる!さぁもっとイくゼ!」


そう言ってライターのメモリスは手当たり次第に炎の球を飛ばしていく。ユーアは腰につけたホルダーから水色のメモリカセットを取り出し、ドライバーに装填したメモリカセットと入れ替えた。走りながらホイールを3回、勢いよく回す



3!2!1!



「火にはこれだ!」



ヒーローアップ!双頭が巻き起こす!切り裂く!シャーク!!You are HERO!!



ピンク色のアーマーが外れ、水色のサメのような姿をしたアーマーが装着される。ユーアは両腕についたヒレを使い、水を纏った斬撃を炎の弾に向かって飛ばしていく。


「チッ!」


ライターのメモリスは少し焦った表情を浮かべるがその顔はすぐに笑みに変わった。ユイアは嫌な予感がして自身の背後を振り返った。


「おっト、助っ人の登場だゼ。」


「久しぶりですね、ユーア。」


骸骨の仮面を被ったメモリスト、身体に纏った骨の装甲の形状が変化しているがその不気味な笑みは絶対に忘れない。


「ゴースト!」


その顔が瞳に映った瞬間にユーアは両腕のヒレで水の斬撃を飛ばす。飛ばされた水の斬撃を見てゴーストはニヤリと笑う。ゴーストは黒い穴を空間に作り出し、その中に右腕を突っ込むと穴の中から1人の少女を引っ張り出した。白いワンピースを着た長い黒髪の少女。


「うっ....!」


「ひ....ヒカルさん!!」


「ふふっ....このままじゃ彼女に当たってしまいますね。」


「!!」


飛ばされた水の斬撃はゴーストとヒカルに当たる寸前で弾け、2人の足元にただの水飛沫がかかる。


「馬鹿ですね、彼女はただの幽霊。攻撃なんて痛くもないのに....」


ゴーストはヒカルの首を強く握りしめた。ヒカルは苦しそうな表情を浮かべて手足をバタバタと動かす。


「ぐっ......!」


「私は幽霊のメモリスト、こうやって幽霊を見たり触れたりすることができるのですよ。」


「彼女を離して!」


「助けてどうするのですか?すでに死んでいるのですよ、死人に口なし。どう使おうが私の勝手です。そうだ......いいものを見せてあげましょう。」


そう言うとゴーストは右手に小さな黒い炎を作り出し、それをヒカリの身体に埋め込んだ。埋め込まれた黒い炎がヒカルの全身を覆っていく。


「ヒカルさん!」


「あっ....あぁ....アァァぁァあアア!!!」


次第にヒカルの身体は黒い炎で焼け焦げ、白いワンピースが灰となっていく。やがて黒い炎が消えて見覚えのある黒いフードを着た怪人の姿となった。


「ストレイズ、あなたがよく倒している怪人ですよ。この姿にすることで幽霊でも人に触れることができるのです。」


「そんな......」


「ユーアを倒せ」


「ァァああァあアぁあ!!」


怪人となってしまったヒカルはゴーストの命令通りにユーアに向かって走り出す。ヒカルはどこからかナイフの形をした武器を取り出し、振り回した。


「待って!!ヒカルさん、目を覚まして!!」


「アぁアあ!!!」


「お願い!あなたを傷つけたくないの!」


ユーアは必死にヒカルに言葉を投げかけるがどれも届かず、ヒカルは唸り声をあげながら武器を振り回す。


「無駄ですよ、その姿になったら人の声は届きません。さぁさぁ!倒してみせてください!いつも貴方はやっているでしょう!!」


事実は決して否定できない。まさか自分が今まで倒してきた黒い怪人がヒカルさんのような幽霊を使ってできていたものだとは知らなかった。人の命を、魂を侮辱するようなゴーストのやり方に怒りが込み上がってくる。


「許せない....絶対に許さない!!」


ユーアは武器で攻撃してくるヒカルの腕を掴む。ヒカルは武器をその場で落としてしまい、ユーアはその武器を蹴り飛ばした。


「ヒカルさん!お願い、カケルさんに気持ちを伝えられないままになっちゃう!!」


「あっ....ァあ......」


ヒカルがカケルという言葉に反応した。攻撃が一瞬止まった。このまま訴え続けていれば元に戻るかもしれない。そう思ったその時だ。


「そノ子ばカリ相手して~焼ケちゃうナ!俺モ相手してクレよ!」


ライターのメモリスがユーアの背後から襲いかかってきた。飛ばされた炎の球を背中で受けてしまったユーアはその場で倒れ、変身を解除してしまう。


「ぐっ!!」


「俺ノ作品にシてやル。」


ライターのメモリスは倒れたユイアにライターの形状をした左腕を銃を構えるように突きつける。ライターのメモリスが火をつけようとしたその時だ。


「おい待てよ。」


「うーン、誰ダ?」


ライターのメモリスが振り返るとそこには長く赤い髪を頭の後ろでくくった1人の少女がいた。左手にはメモリカセット、右手には見たこともないドライバーを持っている。


「アカネ......」


「遅くなったなユイア。でも、もう大丈夫だ。」



アグニスドライバー!!



アカネは右手に持ったドライバーを腰に当て巻きつける。左手に持った赤いメモリカセットを強く握りしめてドライバーの左に勢いよく装填した。


「ユイア!アタシはもう立ち止まらないって決めた!だから......一緒に走ってくれるか?」



(ユイア、お前が一緒に走ってくれるならアタシはもう道を迷わないし立ち止まらない。お前と一緒ならどこまでも上を目指せる気がするんだ。聞かせてくれ、お前の答えを!)



「うん!私は、アカネのライバル!一緒に走ろう!!」



その問いかけにユイアは顔を上げ、アカネの目を見つめて強くそう答えた。その言葉を聞いた瞬間にアカネの夕焼けのような瞳が輝き始める。その言葉が立ち止まってていた自分の背中を強く押してくれたような気がした。


「その言葉が聞きたかった......これでお前に追いつく!今、そっちに行くぜ。」


ドライバーの右に取り付けられたトリガーを引き、再び強く押し込む。押し込むと同時にドライバーの内部のエンジンが稼働し始めて黒い煙をマフラーからモクモクと排出していく。



ブランドオン!!



(見ていてください、師匠。これがアタシの......)



「変身!!」



ライズ ア ブレイズドラゴン!アグニス!!



ドライバーのマフラーから排出された黒い煙はアカネを包んでいき黒いアーマーを形成していく。その上から赤い炎のようなアーマーが装着されていき赤色の複眼が燃える炎のように光り輝いて見えた。


「誰ダお前?」


「アタシの名はアグニス、お前も炎を使うんだって?じゃあアタシと勝負しようか。」


「ふん......望ムとこロだ!」


「さぁ、燃えてきたぜ!!......ユイア、コイツの相手はアタシがやる!お前は今やるべきことをしろ!」


「うん!」


アグニスはライターのメモリスに向かって走り出す。ユイアはライターのメモリスから離れてヒカルに近づこうとした。


「おっといかせませんよ。」


「ゴースト!」


その前にゴーストが立ちはだかり行手を塞ぐ。ゴーストはユイアに向かって攻撃をしようと手を伸ばすが横から飛んできた青い斬撃が攻撃を防いだ。


「チッ!」


「お前の相手は俺だ。」


「ユキタカさん!」


数人の隊員を引き連れて隊長のユキタカが刀を構えてこの場所にやってきたのだ。隊員達はゴーストとヒカルに向けて銃を構えるがユイアがすぐにそれを止めようとした。


「待ってください!」


「どうした、日代。」


「ゴーストの後ろにいる怪人は撃たないでください!お願いします!」


真っ直ぐな眼差しでユキタカに訴えかけたのが伝わったのかユキタカはすぐに隊員達に合図を出して怪人に銃を構えるのをやめさせた。


「何か事情があるんだろう、俺は日代を信じる。」


「ありがとうございます。ユキタカさん。」


2人はゴーストと向かい合うように並び立った。ユキタカはドライバーを巻きレバーを横にスライドして、ユイアはドライバーにピンク色のメモリカセットを装填した。


変身待機!!


3!2!1!


「まだ戦えるか、日代!」


「はい!」


ユキタカがメモリカセットを横から装填すると同時に中央のタービンが青い風を巻き起こし勢いよく回転を始めた。一方、ユイアがホイールを3回回転させると背後のテレビの画面から飛び出したヒーローのアーマーがバラバラになり各部位ごとに空中で固定される。



変身発動!!ヒーローアップ!



「「変身!」」



装着!抜刀!一戦!変身!剣心!!剣真!!!


You are HERO!!






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