第24話「高嶺幸隆・変身」

【2日前の夜・都内のホテル】


如月はホテルの一室で1人、パソコンを開いて通話ボタンをクリックする。十数秒後に通話相手が参加してきた。


「こんな時間に何のようだ?」


女性の声だ。画面には猫のアイコンが映っており、カメラをオフにしているようだ。


「よぉ、私がさっき渡したメモリカセットは調整してくれてるか?」


「してるさ、でもいいのか?返すとしても早くて明日の正午くらいだ。」


「明日は特に用はないから大丈夫だ。」


「そうか......でもなんで自分のメモリカセットをユーアのシステムに組み込むんだ?もう戦えない進助なら分かるが......あんたはまだ戦えるだろ?」


如月は天井を見上げた。天井を見上げたまま少し考え、通話相手に喋り始める。


「万が一だ......万が一、」


「?」


「なんでもいいだろ、早く進めてくれ。私の要望通りに!」


「要望通りって......送ってきたこれはなんだ?......ランチャー?ロケット?ロボットアームにジェットパック!?馬鹿じゃねぇのか!?こんなに1つの姿に詰め込んだらユイアの身体がもたねぇぞ!」


「えーー私が好きなもの詰め込んだのにー?でも月条、お前ならできるだろ?レーテが誇る天才さんならさ。」


「......あとでなんか奢れよ。」


そう言って通話相手は通話を切ってしまう。如月は椅子から立ち上がりカーテンを開け外の景色を眺めた。帰路に向かう会社員やデートをするカップル、居酒屋をハシゴするのか酔っている若者たちの姿があった。何気ない日常のワンシーンに過ぎないがそれを見て如月は微笑む。向かい側のハンバーガーショップを見てみると窓側の席に座るアカネとユイアとその友達の姿があった。


「アカネ.......なんでユイア達もいるんだ?」


ユイアは隣に座るアカネの肩を叩き必要以上に話しかける。それで怒るアカネを見てユイアが楽しそうな表情を見せる。怒っているアカネも少しなんだか楽しそうにしているように見えた。


「アイツ、同年代のやつらとだとあんな顔するんだ......」


弟子が同年代の子達と喋る様子を見て、如月は優しく微笑むとカーテンを閉めて席に座ってパソコンを使い作業を再開した。


「私も頑張るか......アイツらのために!」







【新宿・歌舞伎町付近】



ザーーーーーーーーーーーー!!!!!


ズバァ!!ズバズバズバズバ!!


「グァァァアァァァァァァァァァァァァァ!?!!?」


「キラー!!!」


自分の投げ飛ばしたナイフがユーアの力で自分に全て突き刺さったキラーは雨に濡れた地面に倒れる。ソフィアはすぐにキラーに駆け寄った。ユーアは無言で彼女達を追い詰める。


「.......」


「キラー!動ける?」


「......もちろん」


キラーはフラフラと立ち上がり、ソフィアを抱き上げた。残った力の全てを脚に集中させ大通りの方へとジャンプをして逃走を図る。ユーアはそれを逃すわけがなく背中に装着されたジェットパックを起動して2人を追いかけた。


「まずいわキラー!追いかけてきてる!」


「ハァ.......ハァ........グハッ!」


「キラー!!」


「大丈夫......私頑張るから!絶対に逃げ切ってみせ.....」


何かが近づいてきている。キラーが言いかけた時、何かを感じ取ったソフィアは後ろを振り返った。ミサイルだ。ユーアの両脚に装着されたランチャーから発射されたミサイルが自分達に向かってものすごい勢いで追ってきている。


「ミサイル!キラー避けて!!」


「分かった!」


キラーはソフィアに従い、ビルの壁を蹴って右方向に避ける。するとミサイルはそのまま真っ直ぐ飛んでいってしまう。


「やった!」


「......」


後ろからジェットパックを使って2人を追いかけるユーアは手を伸ばし右に動かす。すると、ミサイルも同様に右方向へと方向転換し2人にも向かって追尾し続ける。


「ミサイルも操れるの!?」


「まずい!このままだと当たっちゃうわ!」




ドガァァァァアァァァァァアン!!!!!



数発のミサイルは2人の付近で爆発し、キラーはソフィアを抱えたまま落下していく。ユーアはジェットパックを操作し着地する。キラーとソフィアは爆破を近距離で受けても少々のダメージしかないように見えた。


「.......」


「近づくな!」


キラーは自分に突き刺さったナイフを抜き、周囲を見渡すとユーアの後ろに逃げ遅れた一般女性の姿を見つけた。その女性と目が合った瞬間にナイフを投げ飛ばす。投げ飛ばされたナイフは逃げ遅れた女性の肩に深く突き刺さり、その場で女性は倒れてしまう。


ズバッ!!ジュー!!


「痛い......うっうぅ.......ぁぁあ!」


「.......」


「このまま私達に近づくならさらに投げ飛ばす!!いいの!?......おい!!止まれ!!本当に投げ飛ばすわよ!?」


ユーアはそれでも前へ進み続ける。ただ無言でこちらへの進行を続けるユーアは恐怖でしかなく焦ったキラーは数本ナイフを抜き取ると女性に投げ飛ばした。


「きゃぁぁ!」


次の瞬間、投げ飛ばされた数本のナイフを防ぐようにアスファルトの壁が女性の前に現れた。ナイフはアスファルトの壁にジューという溶かすような音を出しながら突き刺さる。アスファルトの壁は元の道路へと徐々に戻っていきナイフだけが道路の上に落ちていった。


「え?」


「よっしゃ間に合った!!」


声がする方向へ振り返るとそこには傷だらけのアカネの姿があった。アカネはすぐにユーアを見つけるとユーア達に向かって走り出す。


「うぉぉぉおぉ!!龍撃!!」


アカネが右腕の拳に力を集中させると右腕に赤い龍の刺青のようなものが浮き上がる。その拳で勢いよく相手の顔面を殴った。


ドガァァアァァン!!!


「!!」


しかし、彼女が殴った相手はユーアだった。ユーアはそのまま飛ばされ変身解除してしまう。アカネは道路を歩き、倒れたユーアの胸ぐらを掴んで立ち上がらせた。


「おい!!ユイア!!」


「......離して」


「お前、なんであの人救けなかった!!」


「........」


アカネは声を荒げ何度もユイアを揺すった。


「なんでかって聞いてるんだよッ!!あそこでアタシが入ってこなかったらどうなってたか分かってたのか!!あの人死んでたかもしれねぇんだぞ!!人の命投げ出してまでアイツら殴る方が大事だって言うのかよ!!」


「......だって.....だって如月さんが!!ルナが!!」


雨に打たれたユイアの目元から雫からこぼれ落ちる。


「師匠の事は知ってるよ!!通信で何度も聞かされた!!でもな!師匠は人の命救うことよりも自分の敵討ちを望むような人じゃねぇ!!」


「......」


「あたし達には敵討ちよりも優先すべきことがあるだろ!!目を覚ませ!!」


バァン!!


そう言ってアカネは再びユイアの顔を殴る。その様子を見ていたキラーが今がチャンスだと思い、自身の身体からナイフを抜き取って女性に投げ飛ばした。


「きゃぁあ!!」


「まずい!」


「死ね!!」







ガキン!!







投げ飛ばされたナイフは女性に刺さる直前で空中に止まった。


「は!?」


「一体何が........」


女性の方に振り向いていたアカネが視線を下ろすとユイアが腕を伸ばしナイフを止めていた。


「うぁぁあ!!」


ガキン!!


ユイアは震えた腕をもう片方の腕で動かしナイフを違う方向へと投げ飛ばす。投げ飛ばされたナイフは濡れた道路に音を立てて落ちていった。


「ハァ.......ハァ.....」


「その力......師匠の......」


「難しいねこの力......でもアカネ、おかげで目が覚めたよ。」


ユイアはアカネの手を借り、立ち上がるとドライバーからオレンジ色のメモリカセットとピンク色のメモリカセットを入れ替えて装填した。


「ありがとう。」


「どういたしまして......こちら東城茜、一般人が1人負傷した。隊員を数人こっちに回してくれないか?場所は発信機で分かるだろ。おう」


アカネは通信機を使って連絡を取るとユイアと共にキラーとソフィアに向かって歩き始めた。その時だ、上空に大きな黒い穴が出現し、穴の中から十数体の黒い怪人が雨に混じって降ってきた。



「ハァ......ハァ......ゴースト?」



同時にキラーとソフィアの目の前に黒い穴が出現する。移動する際に使用するゴーストの穴だ。キラーとソフィアはすぐにその穴の中へと飛び込んだ。


「おい!逃げるな!チッ..........」


「アカネ!」


レーテの車が自分達の目の前で止まり、車の中から2人の隊員が出てきた。1人は女性の隊員で怪我をした女性にすぐ駆け寄った。そしてもう1人はユキタカだ。


「ユキタカさん!」


「遅くなった日代、東城。」


「おせぇぞ。」


「2人共避けて!!」




「「!!」」





ズバッ!ガキーン!


ドガッ!!





ユイアがそう叫んだ瞬間に2人は振り返り、こちらに向かって飛んでくる何かをユキタカは刀でアカネはアスファルトで壁を作って防いだ。


「ふー危ないとこだったぜ。」


「ありがとう日代。」


ユキタカは道路に落下したそれを拾い上げる。飛ばされたものは定規ほどの長さがある針だった。


「針?」


「当たりませんでしたか.........」


「誰だ!」


投げ飛ばしてきた先には負傷した女性の姿があった。女性は服のポケットからメモリカセットを取り出し、おでこに当てる。すると女性の姿が徐々に蜂の怪人へと姿を変わっていった。救護のために近づいた隊員は怯えながらも彼女から離れる。


「メモリスト?」


「いいや、あれはメモリスターだ。」


宿主が自身のメモリスを吸収して怪人になった姿が「メモリスト」そしてそれと対を成すメモリスが自身の宿主を吸収した姿が「メモリスター」だ。蜂の怪人は腕から生えた蜂の尻尾のような形をした器官から再び針を撃ち放つ。


「くるぞ!」


ユキタカは刀で針を弾き飛ばす。アカネは壁を作って防ぎ、ユイアは針を右手で掴んで投げ飛ばした。






「「「え?」」」


その場にいた全員が一瞬戸惑った。



「掴めちゃった......」


「掴めちゃったじゃねぇよ!?何しれっとすごい事してんだよ!?」


「掴めたものは仕方ない、俺がこいつの相手をする。」


そう言ってユキタカは2人の前に出ると刀から自身のメモリカセットを抜き取った。蜂の怪人はユキタカを見つめ、背中から生えた羽を動かし宙に浮かぶ。


「高嶺幸隆......仲間のメモリスを倒した敵討ちをさせていただきます。あなたも私のことを同じように思っているのでしょう?」


「確かにそうだな、前の俺ならそれを理由にお前と戦っていただろう。だが今の俺は違う.....俺はこれ以上大切なものを失わないため......守るために戦う!」


「ふふっ貴方から全てを奪ってあげましょう!」



ガチャ



剣真ブレイドライバー!!




ユキタカはどこからか青と黒のドライバーを取り出し腰に巻き付けた。ドライバーの天面にあるレバーを横にスライドする。



変身待機!!


和風な曲が鳴り始め、ユキタカは刀から取り出した自身の青いメモリカセットをドライバーに横から装填する。装填すると同時に中央のタービンが青い風を巻き起こし勢いよく回転を始めた。



変身発動!!


「変身」


装着!抜刀!一戦!変身!剣心!!剣真!!!


空中に黒と青のアーマーが浮かび上がりユキタカの身体に装着されていく。最後に頭部のアーマーが装着された。青いバイザーで隠れた水色の複眼が厚い雨雲に覆われた街で綺麗に光る。頭部から生えた2本の刀の形状をした角、顎の牙のような造形と相まってまるで鬼のようだった。


「その姿は......」


「剣の心......真の剣と書いて「剣真」だ。もう......俺は迷わない。」


「あれがユキタカの.......」


「剣真......かっ!かっこいいー!!」






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